9月7日 阪神vs巨人13回戦

いやあ、凄いゲームだった。
去年のシーズン最終盤の阪神は、CSに行くためにはもう一つも落とせないという展開で高校野球さながらの必死な戦いぶりを見せてくれたが、それに迫るような熱い試合だったと思う。

4日からの4連戦を前に首位巨人とのゲーム差は7.5だったかな?当然4連勝する覚悟で選手たちはこのカードを迎えたと思う。初戦を西でとったが二戦目は藤浪が踏ん張れずに一勝一敗で昨日は雨天中止。最低でも勝ち越したいという試合で先発は中5日の髙橋遥人だった。試合中継終盤で入った髙橋の談話でも「大事な試合を任せていただいたのに」という言葉からチームとしてこの試合は絶対とるぞという緊張感が感じられた。

その髙橋だったが、今日は前回の対戦と比べてストレートをよく打たれた。先日の東京Dでの登板では真っすぐを芯で捉えられた打球をほとんど見なかったので、巨人としてもチームで対策を打ってきているのがわかる。今日の髙橋はツーシームの制球がイマイチだったので真っすぐに張って打ちにこられるとちょっと厳しかったか。全体的に球も高かった。スライダーを見逃される場面をしばしば見かけたのでもう少し多投してもよかったかもしれない。三回から六回まで続けて先頭を出す苦しい投球だったが、イニングで複数得点を取られないのは流石だった。特に三回四回の失点は野手の問題だっただけに、先発としての仕事はきっちり果たしてくれたと思う。

対する巨人の先発はメルセデス。なぜあんなに年俸が低いのか不思議な選手の一人だ。元々阪神戦の相性はいいのだが、今年は甲子園でボーアから被弾するなど対阪神の成績が思わしくなく、前回の対戦でも2イニングを投げて降板。ただ今日は本来のコントロールの良さを発揮して阪神打線に三塁を踏ませぬピッチング。捉えた打球もほとんどなく球数も少なかっただけに完封狙いでいくかと思ったが、六回を投げ切って降板。大事をとったようだ。

試合が動いたのは三回表、巨人が下位から作った一死満塁のチャンス。松原のセンターフライは髙橋の真っすぐに差し込まれ、三塁走者の大城が本塁突入を諦める浅い打球のはずだった。これを近本が梅野のはるか頭上を通過する悪送球。思わぬ形で一点を失う。悪送球というのは八割方捕球の小さなミスから連動するものなのだが、たしかにこのときの近本の落下点へ入る動きは怪しかった。レフト方向へ動きながら捕るのは左投げとしては送球へつなげにくい形だ。ただ近本に同情するとすれば、今日の甲子園は昨日の台風の影響で非常に強い風が吹いており、フライを捕るだけでも野手はいっぱいいっぱいだったはずだ。一点もやりたくないシチュエーションだっただけに近本としても焦ってしまったのだろう。それでも走者が複数いる場面で外野手は無理しないのがセオリーだ。特に序盤だっただけに、あれが巨人ペースを作ってしまったのは痛かった。

もっと痛かったのは四回の失点だ。先頭の岡本が木浪のエラーで出塁。(ここまでの木浪の守備面での貢献は非常に大きく、ましてや今日は土の状態も良くなかったのでエラーの一つ二つ別に問題はない。ただそういう試合環境の中でも難しいフライを捕ったりしていた坂本との力の差は見えてしまった。)まずかったのはその後、大城のセンターフライで三塁走者岡本の生還を許したことだ。ここでも髙橋はしっかり差し込んでおり、定位置よりもかなり前の打球だった。まずここでスタートを切らせてしまったことが問題だ。岡本は特別足の速い選手ではないだろう。前の回の近本の送球を見て、「いける」という判断を許してしまった。野球は高度な心理戦だ。こうなると今後は他球団も際どいタイミングでどんどん本塁突入を試みてくるだろうし、投手にかかるプレッシャーは増大する。近本自身への精神的ダメージも大きいだろう。高めに抜けた前の回のプレーを受けてここでは絶対に低い送球をしなければならなかったが、結果的にシュート回転しながらゴロで一塁方向へ逸れていったあの送球は見る者にますます肩の弱さを感じさせてしまったのではないだろうか。木浪はカットをスルーしたが、当然の判断だ。前の打球を一人で投げ切れなければ外野手としては話にならない。この後半ば懲罰交代のような形で近本はベンチに退く。試合の流れ的に仕方のない判断だろう。明日以降リフレッシュした状態で挑んでもらいたい。繊細で神経質だった赤星に比べ近本はだいぶざっくりした肝の太いタイプなのでこういう時には強いだろう。しかし考えてみればこの近本に加え、レフトのサンズも肩に弱点があり、二塁走者を簡単に返してしまう場面が目立つ。(サンズはそもそもバックホームの勝負をほとんどしないのが気になる。)さらにライトに糸井が入るとこれまた放れない。先日、カットの小幡まで繋ぐのにノーバウンドで届かなかったのを見たときはいよいよ守備の限界を感じた。シングルヒットで簡単に一点が入るのだから投手は相当苦しいだろう。深刻な問題だ。

中盤までは完全に巨人のペースだったが、この後が今日は見ごたえがあった。まず驚いたのは3点ビハインドの七回表にセットアッパーのガンケルを投入したことだ。一瞬意図を図りかねたが、すぐ気が付いた。矢野監督はこの試合を絶対に取る気なのだ。確かに今年の阪神は終盤に強い。岩貞の勝ち星が伸びているのもその表れの一つだ。七~九回にランナーを置いてサンズ大山あたりに回せれば全然勝負できる。特にサンズは1日のヤクルト戦でサヨナラ弾を打ったばかりだ。逆転を狙うにはまずいい投手を出して流れを変えなければいけない。そしてガンケルは見事にゼロに抑えて攻撃に流れを呼び込んだ。

七回裏は試合を通して振り返っても特に緊張感のある攻防だった。まず投手がメルセデスから高梨にスイッチ。これが流れを変えた一つ目の要因。そして先頭が今日二番スタメンの糸原。絶好調の中骨折、今シーズンの復帰は厳しいかという見立てだったが驚きの早さで一昨日一軍復帰。最近木浪が二番で打撃好調だっただけにいきなり糸原二番起用はどうかなと思っていたが、この打席で見事復帰後初ヒット。高梨の真っすぐを2球簡単に見逃して追い込まれたところでこれは厳しいかなと思ったが、実に見事にライト前へ弾き返した。この粘り強い打撃は誰にも真似できない武器である。すると陽川の打席中に高梨が暴投、無死二塁。陽川も気持ちのこもった粘りを見せたが3-2から外の真っすぐに空三振。するとここで原監督が大竹に継投を選択。高梨は対右も良かったのでは?と思ったが、サンズにインコースを捌かせないためにシュートボーラーの大竹で万全を期す、ということなのだろう。ここは矢野監督の熱い継投に原監督も応えた形となった。ただこういう場面に滅法強いサンズ、しぶとく三遊間を破って大山に繋ぐ。一死一・三塁、一発で同点のチャンス。先月末の広島戦では延長で決勝打、この試合まで二試合連続ホームランと状態は良いはずだ。ところがボール2から真ん中近辺のスライダーを簡単に内野フライ。これが攻撃の勢いを一気に止めてしまった。大竹のシュートを見て踏み込みが甘くなったか。器用に外野フライを狙うようなバッティングを狙うよりは今みたいにブンブン振っていくスタイルで間違っていないと思うが、こうして簡単に打ち取られる場面は今後できるだけ減らしていかないといけない。もちろん本人が一番分かっているとは思うが。ツーアウトとなって六番ボーア。1点でも返しておきたい所だ。1点ずつ返せばまだ攻撃は2回残っている。大竹は続投しⅠ-1から内角へスライダーを投じるとボーアがこれを捉えライトポールのわずかに右に切れる特大のファウル。これを見て即座に原監督が動く。なんとカウント1-2から左の大江に投手交代という異例の継投を行った。タイミングが合っているのを見て大竹のままでは打たれるなと判断したのか、あるいは2ストライクまでは待つことが多いボーアを打ち取るための秘策なのか。ただボーアはここで集中を切らさずに、大江の外角のストレート・スライダーを両方見極め、3-2から三塁手岡本のグラブを弾くタイムリー内野安打で1点を返す。なおも二死一・二塁でこういう時に信頼できる梅野だったが、ここは大江が踏ん張り3-2から真っすぐで空三振。大江は同じ代だったので高校時代から見ているがプロに入ってこんなフォームになっていたとは。

八回表は惜しまず岩貞を投入したがここも非常に苦しかった。大江が呼び込んだ流れに乗って先頭の大城がライト前。続く八番吉川のバントは打球が小フライになったが岩貞が痛恨の処理ミスで無死一・二塁に。普通こうなると投手は気落ちしがちだが、ここでチームを鼓舞したのが帰ってきたキャプテン・糸原だった。一死満塁から代打亀井の一二塁間への当たりに飛びつき迷わず本塁送球で封殺。前進守備で難しいところを華麗な捌きだった。少し送球が三塁方向に逸れたが梅野もよく伸びた。岩貞はこれで奮起し続く増田を三振に切り、2点差のまま反撃へ望みを託す。

しかし八回裏は中川が見事なピッチングで三者凡退。投手への代打が今年まだヒットのない(凡打の内容も良くない)俊介だったのは少し気になった。北條原口あたりが控えていてくれると心強いのだが…

九回表は岡本からの打順ながら四番手の岩崎が完璧なリリーフ。これがもう一度阪神側へ流れを呼び込むことになった。岩貞岩崎と左が二枚揃っているのが非常に機能している。

九回裏、巨人の抑えはここまで防御率ゼロ点台のデラロサ。打順よく七回と同じ糸原から。恐らく初球真っすぐ一点張りだったのだろう、捉えた当たりは逆方向へ伸びていってレフトポール際に吸い込まれるホームランに。流石にこの瞬間は立ち上がってしまった。ベンチへ帰ってきた糸原が胸元のキャプテンマークをポンポンと叩いたのを見たときは感動で泣きそうになってしまった。キャプテンの仕事はただいい成績を残すことではなく、グラウンド上で常にチームの精神的支柱となることだが、彼の気持ちの強さが溢れるプレーは明日以降すぐに選手たちに影響を与えるだろう。春にキャンプの様子をYouTubeで見ていたときから糸原はティーも人より打つし声も良く出すし、なるほどこれがチームリーダーというものかと感じていたが、こういう選手に成績が伴ってくると本当に嬉しい。守りからのいい流れ、さらにキャプテンのホームランで1点差、なおも無死、さらに代打の福留が四球で出塁して一塁に植田を置いた状態で一番期待できるサンズへ。正直ここですでに勝ちを確信してしまった。動揺からデラロサは制球を乱している。迎える打者は本塁打数リーグ2位、倒れても次の打者がこれまたリーグ2位、その次も7位。どう転んでも同点以上は期待できる、そう思いながら見ていた。ところが三振からのゲッツーであっけなく試合終了。あと一歩まで追い詰めただけに悔しい一敗だった。サンズの2球目、高めの際どい変化球の抜け球を本人はボールと判断し見逃したが(筆者にもかなりボールくさく見えた)判定はストライク。あれがデラロサをかなり楽にしたのは間違いない。あるいは観客数が5000人ではなくこれが4万人だったら結果は全然違っただろうなあなどとついつい考えてしまう。サンズは内のストレート系に対応しながら外のスライダーを見極められるかが勝負で、最近はその見極めがかなり正確になりつつゾーンに入ってきたスライダーを仕留めるケースが多かったが、外の速球で勝負されると意外と空振りが多い。大山は初球のかなり甘いスライダーを見逃してしまっただけに少し迷いがある中での二ゴロゲッツーだったかもしれない。ダブルプレーで試合の最後の打者になったことは筆者にも一度経験にもがあるが、一塁を駆け抜けてそのまま減速せずにライトフェンスまで走っていきたくなる気持ちだ。その前の打席も内容が良くなかっただけに大山はさぞ悔しいだろう。金本政権時代の大山が駐車場で一人素振りし続けていた話が筆者は好きだ。悔しさを是非力に変えてほしい。

結果的に負けは負け、対巨人連戦負け越しで巨人戦の借金が7、ゲーム差は8.5にひらいてしまった。しかしビハインドでも決して諦めない矢野監督以下選手たちの気合の入り方、巨人を倒さない限りこの先はないという監督の思いとそれに応えてくれた原監督の采配(本来こんなにゲーム差がはなれているんだからあんな投手起用は異様だ)がまるでトーナメント戦のような手に汗握る試合を生んだと思う。ミスは出たが決して油断からのミスではなく緊張感からのミスだ。むしろ野球の醍醐味の一つなのではないか。筆者は阪神ファンである以上に一野球ファンとして今日のような好ゲームを見れたことを幸せに思う。

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