Jアラートへの違和感

 はじめに、筆者の違和感については4項に記載しています。1~3は今回(2022年10月4日)のJアラートの発出経緯等の説明上に必要な前提等を記載しています。

1.Jアラートの発出経緯

 10月4日(火)に5年ぶりに弾道ミサイル発射に関するJアラートが発出された。筆者自体は、今回のJアラートは、受信しておらず、政府等のホームページをざっとみたが経緯が分かるような資料は発見できていない。
 そこで、Jアラート直接ではないが、経緯が分かる首相官邸(災害・危機管理情報)Twitterを参照させていただく。
 報道にもある通り、対象地域が、①北海道・東京→②青森・東京→③北海道・青森と、3転している。また、報道やTwitterによれば、この東京は、大島町 利島村 新島村 神津島村 三宅村 御蔵島村 八丈町 青ヶ島村 小笠原村と限定して伝達されている。

 東京都の島しょ部については、松野官房長官が誤発信であったことを謝罪している。誤発信であった東京を除くと、①北海道→②青森→③北海道・青森と対象地域が異なっており、特に青森へのJアラート発出の7時29分は、第3報で弾道ミサイルが通過した時刻と同時刻であり、北海道への発出もミサイル通過の2分前に過ぎず、自民党の元防衛大臣等から疑問の声が上がっている状況である。

① 第1報
首相官邸(災害・危機管理情報)
@Kantei_Saigai
【国民保護情報】 ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射されたものとみられます。建物の中、又は地下に避難して下さい。
受信日時 4日07時27分 対象地域:北海道、東京都
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7:27 AM · Oct 4, 2022·内閣Jアラート

② 第2報
首相官邸(災害・危機管理情報)
@Kantei_Saigai
【国民保護情報】 ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射されたものとみられます。建物の中、又は地下に避難して下さい。
受信日時 4日07時29分 対象地域:青森県、東京都
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7:29 AM · Oct 4, 2022·内閣Jアラート

③ 第3報
首相官邸(災害・危機管理情報)
@Kantei_Saigai

【国民保護情報】 ミサイル通過。ミサイル通過。先程のミサイルは、07時29分頃、太平洋へ通過したものとみられます。不審な物を発見した場合には、決して近寄らず、直ちに警察や消防などに連絡して下さい。
受信日時 4日07時42分 対象地域:北海道、青森県
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7:42 AM · Oct 4, 2022·内閣Jアラート

2.ミサイル発射、弾着迄のタイムライン

 また、内閣官房がTwitterに投稿し情報(下記)によれば、タイムラインは次の通り。
A 7時22分頃:弾道ミサイル発射
① 7時27分:Jアラート第1報、ミサイル発射、北海道・東京
B 7時28分頃から29分頃:青森県上空を通過
② 7時29分:Jアラート第2報、ミサイル発射、青森・東京
③ 7時42分:Jアラート第3報、ミサイル通過、北海道・青森
C 7時44分頃:弾着

3.弾道ミサイルに関するJアラートの発出条件、情報の流れ

 防衛白書には、<解説>Jアラートによる弾道ミサイルに関する情報伝達(内閣官房からのお知らせ)として、
(1)弾道ミサイルがわが国の領土、領海に向けて飛んでくる可能性がある場合
(2)わが国の上空を通過する可能性がある場合
に、Jアラートの発出されるとしている。

 更に、内閣官房 国民保護ポータルサイトには、jアラートによる情報伝達の流れが説明されている。図の下の(注)までがポータルサイトの記載内容である。
 今回のケースでは、(1)ミサイル発射情報・非難の呼びかけ→(2)日本の上空を通過した場合という流れになるのだと思う。

情報伝達の基本的な流れ

(注)「(3) 日本の領海外の海域に落下した場合」とは、発射直後、我が国に飛来する可能性があると判断して①の情報伝達を行った後、結果的に本邦の手前の領海外に落下した場合

4.jアラートの概要

 では、そもそも、Jアラートとはどういうものなのかは消防白書に記載されている。下図の赤及び実線のラインがJアラートによる情報の流れである。
 おなじみの緊急地震速報は、Jアラートではなく、気象庁からから直接携帯電話会社経由で携帯にエリアメール、緊急速報メールが届く流れとなっている。
 また、緊急地震速報は、気象庁が地震波を観測、自動計算して速報を発表しており、はずれになることも多いことは筆者も実感しているところだが、数秒から数十秒前に警告を与える仕組みとなっている以上は仕方がないものだと思うし、気象庁も認めている。
気象庁ホームページ
https://www.data.jma.go.jp/svd/eew/data/nc/shikumi/whats-eew.html

Jアラートの概要

 一方、弾道ミサイル発射の場合は、内閣官房から消防庁送信システムを経由することになり、内閣官房から携帯会社への直接の情報の流れはない。
 また、当然に、内閣官房への情報提供は、防衛省もしくは米軍からもたらせるものだと思われる。

 防衛省・自衛隊のホームページによれば、下図のように説明されおり、(Jアラートを通じて)数分以内に国民に警報されるとされている

防衛省自衛隊ホームページ

5.Jアラートへの違和感

○ Jアラートの発出が遅い
 北海道・東京でも、Jアラートが発出されたのは7時27分であり、ミサイル通過である7時28分から29分の、長くても2分まであり、青森にいたっては、通過したとに漸く、Jアラートが出されてる。(2項参照)

 この理由は、Jアラートの発出条件を、3項に示した通り、(1)弾道ミサイルがわが国の領土、領海に向けて飛んでくる可能性がある場合と(2)わが国の上空を通過する可能性がある場合に限定したためである。
 4項の、防衛省自衛隊ホームページでも、人工衛星やレーダーで瞬時に発射を探知た後に、直ちにJアラートを発出することとしていない。
 その後に、直ちに落下地点を予測した後に、数分以内に国民に警報=Jアラートを発出することとしている。

 自衛隊のホームページでは、「①人工衛星やレーダーで瞬時に発射を探知」としているが、最初に探知するのは確かに人工衛星だろう。一般には米軍の早期警戒衛星であるといわれている。この情報に基づき、ミサイル発射のjアラートを発出すれば、本当に発射後速やかにJアラートを出せば、本当に速やかに発出可能と思う。
 ただし、この時点では、弾道ミサイルはロケットエンジンにより加速中であり何処に弾着するかは不明である。
 次に、レーダーでといっているが、これは、イージス艦や、沿岸に置かれた空自の警戒監視レーダであろう。米軍の早期警戒衛星の裏を空自のレーダーでとってから、Jアラートを出すというのは、日本国政府としては妥当なことかもしれないが、jアラートの発出はそれだけ遅くなる。

 更に、③直ちに落下地点を予測とある。レーダーにより、ミサイルの弾道は検出できるのが、落下地点を予測するためにはミサイルのロケットエンジンの燃焼が完了まで待たなければならない。
 ロケットエンジンが燃焼中は、ミサイルが加速中であり、弾道飛翔を計算して弾着地点を求めることは出来ない。また、ロケットエンジン燃焼中は、ミサイルの方向を大きく変更することも可能である。この変更は、距離方向だけではなく、方位方向も変更することが可能である。
 
 したがって、落下地点を予測するためには、ロケットエンジンの燃焼を待たねばならず、インターネット情報では、120秒とある。(http://www.b14643.de/Spacerockets/Specials/Hwasong-12/index.htm)

 この場合、Jアラートの発出時間は、どんなに早くても発射2分後の、7時24分以降となる。
 この後は、ミサイルをある程度の時間追跡して、予測弾道が安定することを確認するのだろうが、それほど長い時間を要するとは思えない。日本の領海、領土への落下、通過についても自動計算で判別可能だろうし、座標値を地名に置き換えることもプログラムさえしておけば自動でできるだろう。
 その後も、防衛省内、防衛省から内閣官房、内閣官房から消防庁までも自動で送信できれば、瞬時に伝達できるだろうし、その後の各自治体、携帯電話への伝達は実際に自動だろう。
 ところが、これらの何処かに人の介在があったとすれば、単に確認してエンターキーを押すだけであっても、それなりの時間を要するはずであり、貴重な時間がどんどん削られることになる。

 青森が後から追加となったり、北海道・東京へのJアラートにも発射の7時22分から5分後の7時27分となっていることから、人が介在している部分があるのではないかと疑わざるを得ない。

 内閣官房と自衛隊のどちらに問題があるかは不明であるが、自衛隊内のミサイル防衛に直結する部分には問題がなかったことは信じたい。自衛隊内で時間を要したとすれば、ミサイルを通過する地名にする部分をになっていたとすれば、その部分とか、内閣官房へ送付するときの手順に時間を要したのだと考えたい。

○ ミサイル通過情報が遅い
 ミサイルが通過したのが、7時29分にもかかわらず、「ミサイル通過情報」が、7時42分に発出したのは如何にも遅すぎる。
 実際に北海道では鉄道が止まるなどの影響が出ている。はるか以前に、ミサイル通過情報を出せたはずであり、通過の13分も過ぎてから情報を出したのが正しいというのであれば、その理由を政府は説明すべきである。

○ そもそも領土、領海を超えるときにJアラートが必要か??
 これが、最大の疑問だ。今回の弾道ミサイルは、上空を通過したという表現をとり、落下物に注意するというような呼びかけを政府が行ったことにより、国民の危機感をいたずらに煽ったのではないのかとすら思う。

 野球でピチャーが、バッター頭上ギリギリにボールを投げたら、当たらないにしても危険を感じることは間違いはない。
 ところが、今回の弾道ミサイルは、野球に例えれば、バッターの頭上どころか、バックネットのはるか上を通過したようなものであり、バッターとして危険を感じるどころか、ボールが何処に行ったのかも認識できないような状況だ。

 もちろん、度重なる国連安保理の決議に反して弾道ミサイルの発射を続けること、他国の領土を宇宙空間とも言っても予告なしに通過する弾道でミサイルの実験を行うことは決して許されるものでないことは言うまでもない。

 ただ、そのことと、北海道で鉄道が止まったり、国民に過度な恐怖を与えるような政府のJアラートの使用は不適切であると考える。

 いったい、どんな危険を想定してJアラートを出したのか、国民に正確に説明して、危険の程度を国民が理解でいるように努めるべきである。

 宇宙空間を慣性飛行しているミサイルが、いかにすれば日本国内に被害を及ぼせるものなのか?
 もし、可能性があるとすれば、北朝鮮から、日本へ飛翔するミサイルが、日本のはるか手前で、なんらかの理由により損傷し、その破片等が落下することくらいしか考えられないのでないか?
 この危険性を考慮したというのならば、破片の飛散範囲を限定することは困難であり、Jアラートを出すのであれば全国に出されるべきではなかったか?

 また、ミサイルが通過した時点において、爆発して複数に分解されたということでもない限り、日本国内に危険を生じさせる可能性はない。
 仮に、Jアラートを発出したとしても、通過後に速やかに通過情報を発出すべきであった。

 政府には、国民に危険の程度を正しく理解できるための情報を発出するとともに、適切なJアラートの運用を願いたい。

 
 


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