ゲムマ2024秋【ブリッゲンダイス】①
今回ゲームマーケット2024秋に向けて、【ブリッゲンダイス】というゲームを製作しました。
せっかくなので、製作に関して色々書いていこうと思います。
大きな挫折
このゲームを思いつくにあたり、まずあったのが挫折です。悲しいですね。
まず、2023年の頭ごろから「60〜90分級で、富山県を舞台にしたマンカラを利用した経済+ネットワークゲーム」を構想していました。色々いじくったりして家庭内でテストプレイしたり、富山県内のテストプレイ会にも持ち込んでいたのですが、残念ながら反応が非常に芳しくないものでした。
テーマの再現とゲームシステムのどちらを優先させるか、などがあやふやだったり組み込んだシステムが機能しなかったりといったことが頻発。
具体的には「ルールがやたら細かい割にゲーム自体がえらい加速して逆転できないし盛り上がる前に終わってしまう」
色々何かできないかと考えたのですが、あえなくこのゲームを凍結させることにしました。
コレはショックでした。しばらくは「ボードゲームのことは考えたくない!」とふさぎこんでいた事を覚えています。
またしても挫折
2024年初頭、次に考えたゲームは「農場を舞台にしたダイスを使ったパラメーター成長+残ったダイスで何か起きる+色塗り」のゲームです。
ゲームの内容を挙げると、【皿の上にたくさんあるダイスを取るとパラメーターが何か上がり、残ったダイスによりパラメーターを参照して点数が入る、取ったダイスで座標を指定して色塗りをさせてボーナスをもらう。】というものです。やはり60分級を想定した、一手に複数の意味があるゲーム。というのがテーマでした。
これもテストプレイに持っていったりするのですが、自分で遊んだり遊んでもらったりした感想としては「遊べるけど、なんかもっさりしてるなあ」というものでした。端的に言えば手間の割に盛り上がりに欠けるのです。
遊べないことはないっちゃ無いのですが、時間の割にルールの枝葉や処理が多かったりして、インストしていても要する時間がとにかく長くなってしまい聞いている相手がトーンダウンしていくのも気になりました。
これらはゲームの細かいところを調整しても直らないところを見ると、これはゲームシステムの根幹に原因があるな、という感じでした。こうなってはゲーム内容を抜本的に変えなければなりません。
上手くいきませんね。
やってきた転機
ここで転機が訪れます。このゲームをテストプレイしてもらった方からある言葉をもらいました。
「このゲームは【ダイスで座標を指定させて色塗りをする】事に独自性があるのだから、そこを推した方が良い」というものです。
この言葉には助けられました。色々削ってゲームの概要を【ダイスで座標を指定して色塗りをする】という内容に絞ってからは、システムが上手く回っていく感覚を得たのを覚えています。この時点でゲーム内容はほとんど【ブリッゲンダイス】の内容そのものになっています。
自分がどちらかというと物事を「引き算」で考えるのがが好きなのだな、という発見とゲームづくりにおいて軸を絞る事の大切さが身にしみました。
先程挙げた助言を頂いたことで「4つのダイスを2個、1個、1個に分ける、縦横色のビンゴのレースをする、斜めで即勝利」といったゲームの根幹がすぐに組み立てられました。これらはもともとテストプレイしていたゲームから一部を抜き出してちょっと加工するだけなので割と簡単です。
ちなみに「なぜ4つのダイスを2個・1個・1個に分けようと思ったのですか?なぜダイスの組み合わせを【反転】させようと思ったのですか?」と質問を受けたことがあります。同じことを3個のダイスで行う事はいくつかのゲームで見るのですが、反転も考慮して分ける作業で悩んで欲しい、という意図があったことと、時々この手のボードゲームを遊ぶ際、手番プレイヤー以外のプレイヤーにもどの組み合わせが良いか悩む権利があっても良いんじゃないか?と感じることがあった事がこのシステムにしたきっかけになっています。自分の手番じゃなくても盤面に集中したくなるようにしたかったのもありますね。
そして、テストプレイを行ううちにこのシステムならプレイに耐えうるという自信が出てきました。この感覚は頓挫した過去2作は得られなかったものです。
ここで、このブリッゲンダイスの原石に手を加えるにあたり、自分で決めたことが二つあります。
曲げたくない決め事
それは「自分が納得しない事は絶対にしない」「このゲームについては創作する楽しさを維持したまま、クオリティを上げる」ということです。
私はテストプレイに出すとままあることだと思うのですが、様々な意見を取り入れているうちに自分でも制御できない程に原型が無くなってしまうという現象があります。
過去に製作したゲーム何作かで、「自分で考えた要素がほぼ無くなってしまったゲームに、どう向き合っていけば良いのか?」「これはもはや私が作ったゲームとは言えないのではないか?」という悩みと「でもゲムマでより多くの人に届くように頒布しなきゃいけない」という葛藤を抱えたことがあり、残念ながら創作が楽しくない、と感じてしまうこともありました。
それを反省として本作は「自分が作っていて楽しいと感じる範囲を守ることを優先しよう」という方針を固めました。
そのためにはゲームの骨格をブレさせないために、外部のテストプレイなどに出すまでに終了条件や得点の条件といったゲームの根幹を硬めに固める必要がありますし、自分一人で考えていて「これ、誰かに相談してたらもっと早く気づけたんじゃないか?」という事もありました。
しかしそのおかげか、テストプレイに出した際、自分があらかじめ決めたゲームの軸を揺るがすような変更、決断に迫られることはありませんでした。
とはいえこれは「この選択肢が正解だった」ということを示す訳では無いので気をつけねばなりません。テストプレイしてもらった方のアドバイスが大変役に立ったのも事実です。
ちなみに、テストプレイにて頂いたアドバイスとしてはダイス目の確率に偏りを持たせる、増築ができるようにする、手番をならす、といったもので、シンプルというかかなり無骨だったゲーム内容にひねりを加えてくれました。
テーマ探しに右往左往
本作はノンテーマでも遊べるゲームではあります。この段階でゲームマーケットのチャック横丁で頒布することだけは決まっていました。と、いうことはコンポーネントは十中八九必要最低限しか付けられないし、ほぼ確実に紙ペンゲームです。
シンプルなコンポーネントで作るということは、適切なテーマを乗せないとゲーム内容が非常に取っつきにくいだろうなと考えており、ここからはテーマの選定に時間をかけることになります。
結果的にテーマにはノルウェーのブリッゲン地区を取り上げることにしました。
私はもともと、グリーンランドやアイスランドなどの北欧のカラフルな家々が並ぶ風景が好きで、どうにかしてこの風景をモチーフにしたゲームを作れないか?と考えていたこたがあり、このゲームを作るにあたりたまたまそれを思い出した。という流れになります。ずっと寝かせていたものが起きてきた感じですね。
何となくのイメージは出てきたものの、ゲーム内容とイメージがよりピッタリ合うように、ここから時間をかけて考えることになります。
まずパッと思いついたのはコペンハーゲンでしたが、既に同名のゲームがあるのでダメ、次にグリーンランドおよびアイスランドの家々が候補に挙がりましたが、実際ネットで風景を調べていると街の中でも家がバラバラと点在しており、このビンゴカードの様に家が均一に密集するゲーム内容と合わない、ということになりました。
そして次に考えたのはスウェーデンにあるストックホルムという都市です。これは建物も均一に並んでいて中々良かったのですが、屋根の形が段になっていたり建物の形が割と複雑で、紙ペンゲームにしたら建物を建設する作業でプレイヤーに細かい作業をさせねばならず、テンポが悪くなるなという問題を感じて却下となります。
そうこうしているうちに、図書館で借りてきた旅行雑誌で見つけたのがノルウェーのブリッゲン地区でした。
この場所なら建物もカラフルだし、縦横均一に密集しています。そして1979年に世界遺産に認定された由緒正しい場所、かつ建物が木造であることから度々修復された歴史もあり、建物を建てる作業を行うには申し分ありません。こういう感じで、舞台はノルウェーのブリッゲン地区になりました。
イラストやDTPは峰崎まめこさんにお願いするのは決めていたので、図書館の旅行雑誌やネットの画像、様々な絵画から細かくイメージを伝えて、作成いただきました。
このゲームはチャック横丁で出展するので箱絵がないのですが、個人ボードおよび個人ボードの裏面(このゲームのパッケージとなる部分)については、ポストカードとして家に飾りたくなるような感じにしたい!という思いを伝えて、そのようなデザインを実現いただきました。
舞台がブリッゲンである理由
しかし、客観的に見ればノルウェーのブリッゲンという地名はニューヨークやロンドンといった都市に比べれば知名度において明らかにマイナーであることは否めません。かく言う私もこのゲームを作っていて初めて知りました。
このゲームの個人ボードやゲームシステムにはブリッゲンの町並みがピッタリくるものの、それにしては舞台がブリッゲンである「説得力」に欠けます。
そこで、私はあまり見かけない手法を取ることにしました。
「このゲームはノルウェーのブリッゲン地区に500年以上前から伝わる伝統ゲームで、私はそれを日本のゲームマーケットの場であくまで紹介する」という立場、テイを取ることでした。
そのため、このゲームの説明書にはまずブリッゲン地区の説明および歴史が書いてあります。ほとんどはウィキペディアやネットに書いてあった記事から(おそらく)事実から引用したりしていますが、インストを聞いている人がブリッゲン地区の建築家としてゲームになるべくすんなり没入出来るように「それっぽいウソ」を演出として織り込みました。割ともっともらしく書いています。
しかし、演出はあくまで演出で、事実ではないことは誰にもわかりやすく提示する必要が有ると感じたため、説明書を読み進めるとすぐにネタばらしがしてあるため、ゲームを開始するまでにはちゃんと誤解を解いた状態になります。遊ぶにあたり、プレイヤー全員で認識を揃えて欲しかったのです。
このあたりの手法は私がクレヨンしんちゃんや内村プロデュースを観て育った影響かなと思いますが、どうかご容赦ください。
こうして、ブリッゲンダイスは完成しました。たまたまもともと練っていたものを加工して活かすことができましたが、それでも年単位で紆余曲折してたり、細かいことをグチグチと考えていたりします。
ご縁あってこのゲームをお手にして頂いた方が、楽しんでいただけることを心から祈っています。