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『オクトローグ 酉島伝法作品集成』酉島伝法(著)

究極の独創的作家・酉島伝法、デビューから九年間に書かれた短篇を集成。異形の存在へと姿を変えられた受刑者の物語「環刑錮」、刷版工場に勤める男性の日常が次第に変容していく「金星の蟲」、書き下ろし作品「クリプトプラズム」など、全八篇。解説:大森望

酉島伝法初短編集。おぞましい(褒めてる)短編だけでなく、ウルトラマンやBLAME!のアンソロも含まれており、幅広い酉島伝法が楽しめた。今回も著者による挿絵付き。

酉島伝法の作品は、世界観と造語が独特なので、その世界に馴染むまで時間がかかる。なので、慣れた頃に作品が終わってしまう短編は向いてないのでは、と思っていたが、いざ読んでみると、沢山の世界観が楽しめてお得だった。実に杞憂。

環刑錮

イタコによる殺人の供述で巨大ミミズの刑に処されるお話。

この時点で意味がわからずグロくて良いのだけど、話はそれで終わらない。事件の真相、ラストの切なさがたまらない。

ちなみに、ミミズになった主人公は延々汚染された土を食べてるのだが、これは築地騒動で思いついたんだろうか、などと邪推してしまう。

金星の蟲

印刷会社に勤める男が腹痛に苦しむお話。

もちろんそれで話は終わらず、金星の蟲に時空ごと乗っ取られ、異形ワールドで締めくくる。環刑錮同様、現代日本と地続きなのでおそましさが半端ない。害を害だと認識できない、というのは現代の浸透戦術そのものなので、さらにおぞましい。

印刷業界用語がバンバン出てくるので、業界人に取材したんだろうな、と思っていたら、後書きで『皆勤の徒』は作者自身の印刷会社勤務時の辛さを書いたと知る。吃驚。これも半ば自伝だった。

痕の祀り

ウルトラマンのアンソロ。倒された怪獣を処理する人たちのお話。

怪獣処理というと、最近始まったWEB漫画「怪獣8号」も同じ描写がある。昔から割とメジャーなネタなのかな? 爆散する怪獣はそれら指摘を受けてのことなんだろうね(笑)

しかしこのお話で一番好きなのは、スペシウム光線の余波。絶対子とよばれる粒子を受けると悟りが開けるくだりは笑った。その他凝った小ネタも満載で面白い。


月の幽霊が地球でマネキンの体を得る話。

人類が情報生命体になってる世界、何を生きがいに過ごすのか、というか、生きがいがあるのか、と思えてきて怖い。コンテンツ消費だけでは限りがあるものなぁと唸る。食・触は大事だよね。

ブロッコリー神殿

とある惑星の植物を中心とした生態系が意識を持つお話。受粉の様子と、ちょうど探査にきた人間たちの様子が描かれる。

途中までブロッコリーが人間を巻き込んで宇宙に飛び出すのかと思ったが全然違って、普通の受粉だった。しかしラストが急激。諸行無常ではあるんだけど、なんとも悲しい。

「天冥の標」、ノルルスカインを思い出した。こういうのを読むと、地球の植物も意識をもってるかも、と想像せずにはおれない。

堕天の塔

「BLAME!」のアンソロ。霧亥の重力子放射線射出装置で空いた穴に巻き込まれ、ビルごと落ち続ける人々のお話。

アンソロジーで既読。読んだ当時は平凡かなと思っていたが、読み返すと面白い。あの穴がまさか時空まで捻じ曲げてる、というアイデアは秀逸。さらには珪素生物、ネットスフィアも邪悪で良い感じ。「BLAME!」が読み返したくなってくる。

彗星狩り

真空に生きる宇宙生物のお話。

童話的ほのぼのした雰囲気がめずらしい。彗星に卵を産み付けるロケット型の生物、というアイデアも楽しくて良い。でも帰りの燃料がある、というのは流石に不自然かなぁ。

クリプトプラズム

宇宙を旅する観測船がオーロラ状の物質を発見するお話。

「ブロッコリー神殿」と同じ世界観。グロ成分は控えめで、普通にSFとして面白い。意識・人格をコピーする技術があり、トラブルもある世界。主人公は分割された意識だが、オリジナルと別に生活するうち自意識が育ち、別の人間として人権を訴訟で勝ち取るところが面白かった。主人公が何やらかしたのか語られないが、もっと読んでいたかった。それにしても、旅に出るからといって、恋人のもとに分割した意識を置いていくライフスタイル面白いなぁ(笑)

次回作はこんな感じでSF寄りなのかな? 楽しみ!

#読書感想 #読了 #ネタバレ #SF #酉島伝法

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