『台北プライベートアイ』紀蔚然(著)舩山むつみ(訳)
第13回翻訳ミステリー大賞作品。ピップを破ったってまじかよと思い手に取る。
中盤まではほとんど脱線した独語りで、ほぼエッセイとして1冊終わるのかな? これが大賞? と思っていたら、犯人にはめられてからの展開が熱い。ピンチをスマートかつユーモラスに乗り越える主人公と、犯人の新しいタイプの狂人像にぐいぐい引き込まれた。
シリアルキラーの舞台が西洋でキリスト教だったなら、割りとよくある話かなとも思うのだが、アジアで仏教だと得も言えぬ新鮮味がある。
あと、主人公と犯人の繋がりもお見事。普通、主人公が事件に巻き込まれると、近しい人が犯人というオチが多く食傷なのだが、本作は設定が絶妙だった。ぎりぎりの距離感といい、犯行といい、犯人の不気味さが際立っていた。
さらに、周りの人のあたたかさ、警察やマスコミの醜さなどが混じり合い、台湾の騒々しさを思わせる。日本と似ているようでぜんぜん違う文化を垣間見れて楽しい。これぞ翻訳ものの醍醐味なので、翻訳ミステリー大賞もうなずける。
本筋と全然関係ないが、主人公の母親が毎日の賭けマージャンで、主人公と妹の二人を大学までいかせたエピソード大好き。
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