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感想

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#読書感想

『言葉人形』ジェフリー・フォード(著)谷垣暁美(訳)

『最後の三角形』が素晴らしかったので、こちらも読む。 こちらは幻想小説選りすぐりとの事だが、オチで現実に戻されたり、ホラーなのがちらほら混じってる。ファンタジーが読みたいんだよ! と、ちょっと残念。 ただ、後半はピュアな幻想小説が続く。『レパラータ宮殿にて』は寓話としても完成されてて大好き。 トータルだと、『最後の三角形』のほうが好きかな。 以下好きなのピックアップ。 〈熱帯〉の一夜老人宅に無防備にしまわれていた黄金のチェスセットを盗んだ、とバーテンダーが告白するお話。

『あなたは月面に倒れている』倉田タカシ(著)

ベストSF 2023[国内篇]、5位の本作だが、個人的にはぶっちぎり1位。すばらしい想像力に感動した。 設定もりもりの近未来SFから、段々と幻想小説になってゆく構成も楽しい。後書によると、誠実なのが前半だそうな。更にtwitter文学出身で驚き。 この人の作品、今後読むたび、これはどっちなんだろうとドキドキするんだろうな(笑) 以下お気に入り。 二本の足でスパムメールが実体化して玄関に訪ねてくる未来のお話。しばらく音沙汰のない友人宅を尋ねると、そこにはスパムが溢れていて

『星、はるか遠く: 宇宙探査SF傑作選』中村融(編)

最初と最後の2編が断トツに良い。これだけでも読む価値あり。 他も、ギャグ、シリアス、スペオペ、等々、バラエティ豊かで読み応え抜群。切ない系多めかな。 宇宙探査SFとあるが、探査は冒頭1作だけでは? と、誰もが抱く疑問に訳者あとがきで釈明があって笑った。入植モノといったほうが適切な気がする。ほぼほぼ失敗だけど。 以下好きなやつ。 故郷への長い道 / フレッド・セイバーヘーゲン 著資源惑星を探してる夫婦の船乗りが、冥王星付近で巨大な針のような建造物を発見。重力アンカーで固定さ

『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク』ジョン・スラデック(著)鯨井久志(訳)

ナンセンスギャグSF。自我を持つロボットが実験で人を殺す、という森博嗣が書きそうな出だしで胸が高鳴ったが、その後は厭世的、グロい、こってりで胸焼け気味。短編だったら良かったのに。 お話は、ロボット3原則を守らせるアシモフ回路が壊れたロボ、チク・タクが主人公。人殺しに端を発し、どこまで罪を重ねられるか、という実験を始める。 人を殺せるロボットというと、弊機こと『マーダーボット・ダイアリー』を思い出すが、本書は真逆。前者は愛がテーマだが、本書は憎悪と狂気のお話。ロボだけでなく

『最後の三角形』ジェフリー・フォード(著)谷垣暁美(訳)

どれも高レベル! 長編を蒸留したような短編ばかりで濃密。1日1編しか読めず、1冊読むのにめちゃくちゃ時間がかかったが、凄まじい満足感。 本書はジェフリー・フォードのベスト短編集の2冊。1冊目は本業の幻想小説で、それ以外、SFやホラー方面が集められたのが本書。しかしそもそもの土台が幻想的なので、SFやホラーを書いても幻想小説になってる。しかしそれが美しく素晴らしかった。 幻想小説苦手なのだが、稀にあるクリティカルヒット。1冊目も読まねば。 エクソスケルトン・タウン以外全部良

『SFショートストーリー傑作セレクション 異次元篇 次元を駈ける恋/潮の匂い』日下三蔵(編)

昭和の大御所たちのSFオムニバス。舞台が昭和で若干古臭いが、それが哀愁やホラー味を加えている。かなりいぶし銀なお話ばかり。 表紙は詐欺としかいえない(笑) 本編のどれも面白かったが、後書も良かった。昔の少年漫画誌には小説が載ってたというのに驚き。廃れちゃって心底残念。 また、体系的に本を読んでないので、作家の歴史がわかる解説がめちゃくちゃ助かる。今日泊亜蘭を知れたのはかなりの収穫。光の塔を読まねば! 次元を駈ける恋 / 平井和正 著事故で婚約者が死んだので、別の平行世界へ

『ダンジョン飯 全14巻』九井諒子(著)

完結したので一気読み。ギャグメインでありながら、まさかここまで綺麗に畳むとは、と感動。文句なしに傑作。最後の一コマまでギャグなのが美しい。 お話は、魔法やダンジョンがある世界、レッドドラゴンに敗れた主人公一行は、ドラゴンに食べられた仲間ファリンを一刻も早く蘇生させるため、ダンジョン内の魔物という超ゲテモノを食べる覚悟をして下層へ挑む。しかし主人公ライオスは昔から魔物が大好きで、いつかは食したいと思っており…。 魔物食が全体を通したテーマ。動植物だけでなく、ミミックや動く鎧

『奇妙な絵』ジェイソン・レクラク(著)中谷友紀子(訳)

オカルトで、ホラーで、ミステリ。お見事!  助走(というかトンネル)が本の半ばまで続き、主人公マロリーの弱さやヒステリックなところに読者がうんざりしてからの流れが素晴らしい。まさかそう来るとはね! ベテラン作家のような貫禄を感じる。 お話は、薬物リハビリ明けの主人公マロリーが、社会復帰のためベビーシッターの職を紹介され、なんとか就職にこぎつけるも、5歳のテディはアーニャという見えないなにかと喋ってるし、本人の知らないうちにホラーな絵を書いてるし、それがどんどんエスカレートし

『接触』クレア・ノース(著)雨海弘美(訳)

BLにしか見えないが、性なんて超越した人間の体を乗っ取る精神生命体のお話。ラスト、永遠にも思える時間とそれを埋め尽くす人生に目が眩んだ。 お話は、ある日殺し屋に宿主が殺され、理由がわからない主人公は、その殺し屋の体を乗っ取り調査に乗り出す。その組織の内部情報は書き換えられており…。 今回、他人の体を乗っ取れるゴーストと呼ばれる存在が主人公。気がついたら時間が飛んでる、というあるあるを、実は体が乗っ取られてたという恐怖に置き換えてくる。 主人公のゴースト、ケプラーはわりと長

『ホワイトコテージの殺人』マージェリー・アリンガム(著)猪俣美江子(訳)

マージェリー・アリンガムの初長編。100年前の本だが、ラストは普通に予想外で、十分今でも通用する。ラストの美しさは圧巻。アリンガムは法・正義の人でなく、善の人だなぁとしみじみ感じる。 キャンピオンシリーズではないが、若いキャンピオンだと、あのラストは難しいだろうね。 お話は、とある男が隣家で銃殺されるも、目撃者なし。関係者全員怪しいし、皆なにかを隠しているが…。という(今では)ベッタベタなやつ。 たまたま居合わせた青年の親が刑事なので、その縁で捜査を始めるも、一向に決定的証

『不死身の戦艦 銀河連邦SF傑作選』ジョン・ジョゼフ・アダムズ(編)

タイトルと表紙で艦隊モノかと勘違いしたが、銀河連邦がメイン。いろんなスペオペの世界観が堪能できる。大体ディストピア(笑) 驚くほどハズレがなかったので、原著から削られたやつが気になるなぁ。 以下特に好きなやつ。 『カルタゴ滅ぶべし』ジュヌヴィエーヴ・ヴァレンタイン 著宇宙のとあるポイントから発せられた平和的メッセージに胸を打たれた知的生命体たちが、そのポイントへと駆けつけ、発信元のカルタゴ星人を待ち続けるお話。 血統やDNAは残せても、意志をつぐのは困難よね、とため息し

『第三惑星用心棒 第3巻』野村亮馬(著)

3年強ぶりの新刊! 2023年末、作者ブログでの生存報告も止まってて心配してたので余計に嬉しい。 そして内容がバイオレンスで慄く。1・2巻、わりとほのぼのしてたのに、いきなりミサイル発射されて吃驚だよ。 2話ともボリューミーで情報量が凄い。隅から隅まで大満足。4巻が待ち遠しいけど、安すぎるので値上げしてほしいな。倍でも割安なんよね。 第5話深海8500mから戦略ミサイル打ってくるロストボーイ(迷惑兵器)に対応するお話。 ミサイルへの手慣れた対処と、エルシーが全く危機感をもた

『呪いを解く者』フランシス・ハーディング(著)児玉敦子(訳)

15歳の少年少女が、呪いを悪用する社会と戦うダークファンタジー。 ティル・ナ・ノーグが実際に街の隣りにあり(原野と呼ばれる森と湿地)、呪いも実在し恐れられる社会で、呪いを解くことで金を稼ぐ少年少女が主人公。 ある日ゴールと名乗る男からの依頼を受けるも、実は政府筋の依頼で、敵対勢力から狙われるはめになり…。 憎しみに囚われた人に、小さな仲間(原野の生物。蜘蛛っぽい)が、呪いの卵をプレゼントしてくれる世界観がユニーク。 そしてまた呪いがエグい。いかに対象を苦しめるかを突き詰め

『黒き荒野の果て』S・A コスビー(著)加賀山卓朗(訳)

手垢の付いたシナリオで200点を叩き出す傑作! 素直に凄い。 突飛な仕掛けなどないが、普遍的真理が凝縮されてるからこそ、文句のつけようがない。 お話は、資金難でやむにやまれず、足を洗ったはずの犯罪家業に再び手を出すはめになるも、手を組んだクズのせいで事態がどんどん悪化してゆき…というもの。 並行して、家族の事、過去に失踪した父親の事などが掘り下げられてゆく。 序盤から主人公が追い込まれていく様子も見事だが、その後の宝石店強盗からクズが本領を発揮仕出してからが本番(笑)