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2021年3月の記事一覧

『高い城の男』フィリップ・K・ディック(著) 浅倉久志(訳)

第二次世界大戦が枢軸国側の勝利に終わってから十五年、世界はいまだに日独二国の支配下にあった。日本が支配するアメリカ西海岸では連合国側の勝利を描く書物が密かに読まれていた……現実と虚構との間の微妙なバランスを、緻密な構成と迫真の筆致で描いた、D・K・ディックの最高傑作! D・K・ディックの最高傑作と聞き手に取るが、電気羊の方が断然好き。8月9日にディズニーが「なんでもない日おめでとう」とツイートしたけど、そんな感じの残念な本。 枢軸国が勝利した歴史改変SFだが、戦勝国側が書

『スタンフォード式最高の睡眠』西野精治(著)&『スタンフォード式疲れない体』山田知生(著)

睡眠研究の総本山・スタンフォード大学で長年研究を続ける著者。本書はその日本語による初めての著作だ。「睡眠医学」の最先端を詰め込んだ内容が多くの読者に受け入れられている。 中でも大きな反響を巻き起こしたのが、NHKスペシャルでも取り上げられた「睡眠負債」という概念だ。スタンフォードの研究者は「睡眠不足」ではなく、代わりにこの言葉を用いる。睡眠時間の短さはその場限りの問題ではなく、累積して恐ろしいダメージを人体に与え、回復するには不足分の何倍もの睡眠時間を必要とする。悪徳金融も驚

『デルトラ・クエストI (6)~(8)(完結)』 エミリー ロッダ(著)

ついに完結。大どんでん返しの結末は? ついに七つの宝石がそろった。だがデルトラのベルトは王の子がもたなければ力を発揮しない。最後の賭にでるリーフたち。迫りくる影の大王の魔手。いま真実が明らかになる。 後半は一気読みしたので、感想まとめ書き。 ちゃんと大団円なのだけど、影の大王を退けただけで、倒してない。ちょっとモヤっとする。後のシリーズで倒しにゆくのかな? あと、チャンバラ成分が少ないのも残念。でもめちゃくちゃおもしろいので続きが楽しみでならない。 (6) 魔物の洞窟

『マイ・シスター、シリアルキラー』オインカン・ブレイスウェイト(著)粟飯原文子(訳)

真面目な看護師コレデはうんざりしていた。美貌の妹アヨオラが、今日もまたその彼氏を殺してしまったのだ。これで三人目。コレデは死体を処理するが、次第に警察の捜査が姉妹に迫り……。ナイジェリアの新星が描くブラックユーモアと切なさに満ちたサスペンス コメディタッチだが、コメディではない。人間がいかにルッキズムに支配されてるかに切り込む良作。 誰もが振り返る美しい妹の人生はイージーモード、真逆の醜い姉はハードモード。さらに妹の世話まで焼かねばならない。妹に振り回され続ける姉の人生が

ハイクオリティー宇宙アンソロ『短編宇宙』

最近、夜空を見上げていますか? 個性豊かな人気作家陣が「宇宙」をテーマに描くのは、無限の想像力がきらめく七つの物語。石垣島を旅する父娘に、コロナ禍でステイホーム中の天文学者。銀河を舞台に戦う殺し屋に、恋する惑星!? じんわり泣ける家族小説から、前衛的SF作品まで、未知との遭遇を約束する傑作アンソロジー。鬱屈した日々に息苦しさを覚えたら、この一冊とともに、いざ宇宙へ! 宇宙をテーマにしたアンソロ。短編7編で、見知った作家が多いので手に取る。翻訳SFより日本語SFの方が表現力豊

『デルトラ・クエスト〈5〉恐怖の山』エミリー・ロッダ(著) 岡田好惠(訳)

旅につかれたリーフたちが足を止めた場所は、「恐怖の山」を追われた伝説の動物、キンのすみかだった。キンとともに5つ目の魔境をめざす3人の前に、なぞの墓石があらわれる…。愛と友情と闘いのファンタジー。 1巻に匹敵する面白さ! キンという有袋類のドラゴンモドキみたいなしゃべるモンスターやら小人族やら、魔法の泉やら、宝石を守るボスやら、色んな要素が見事に絡み合って一つのお話になっており、素晴らしい読み応えだった。 キンの子供プリンがかわいいのも良かった。格段に雰囲気が良くなる。登

『デルトラ・クエストI (4) うごめく砂』エミリー・ロッダ(著)岡田好恵(訳)

賞金をかけた格闘技会に参加したリーフたちは、なぞの男に出会う。からくも賞金を勝ちとった3人に、影の大王の魔手が…。 まさかの天下一武道会編。しかし大会描写雑で笑ってしまったわ。どう砂漠とつながんのよ、と訝しんだが無事つながった。 前半は、今回もジャスミン無双でマンネリだな、と思っていたが、後半は打って変わってリーフがちゃんと主人公しており見直したよ。宝石を取りに敵の巣に単身のりこむのだけど、想像しただけで恐怖に震えるシチュエーションだった。このシリーズで初めて主人公を尊敬

『2010年代海外SF傑作選』橋本輝幸(編)

“不在”の生物を論じたミエヴィルの奇想天外なホラ話「“ザ・”」、映像化も話題のケン・リュウによる歴史×スチームパンク「良い狩りを」、グーグル社員を殴った男の肉体に起きていた変化を描くワッツ「内臓感覚」、仮想空間のAI生物育成を通して未来を描き出すチャンのヒューゴー賞受賞中篇「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」…2010年代に発表された、珠玉のSF11篇を精選したオリジナル・アンソロジー。 バリエーション豊富な傑作短編集で、どれも平均以上に面白いが、「ロボットとカラ

『シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選』

エルサレムを死神が闊歩したり(「エルサレムの死神」)、進化した巨大ネズミに大学生とぽんこつロボットが挑んだり(「シュテルン=ゲルラッハのネズミ」)、テルアビブではUFOが降りてきてロバが話し出すこともある(「ろくでもない秋」)。あなたは、天の光が消えた空を見つめる少年(「星々の狩人」)や悩めるテレパス(「完璧な娘」)とも出逢うだろう。アレキサンドリア図書館(「アレキサンドリアを焼く」)に足を踏み入れ、無慈悲な神によって支配されている世界を覗くだろう(「信心者たち」)。未知なる