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2020年10月の記事一覧

オカルト&ミステリー『怪奇探偵リジー&クリスタル』山本弘(著)

1938年、ロサンゼルス。私立探偵エリザベス・コルトと、助手の少女クリスタルは、それぞれの“特殊な身体”と知恵を駆使し、奇怪な事件の数々に立ち向かう! パルプマガジンの表死絵そっくりな惨殺死体、幻の特撮映画上映中に消えた人々、甦る十七世紀イギリスの錬金術……。型破りな謎と解決法、全編を貫くマニアックな薀蓄に驚嘆必至の5篇を収録。物語を愛するすべての人に贈る痛快で風変わりなミステリー! 読書メーターで知り手に取る。寺田克也表紙がかなり好み。 前情報無しで読んだので、初っ端か

名作ぞろい!『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』 中村融(編)

時という、越えることのできない絶対的な壁。これに挑むことを夢見てタイム・トラヴェルというアイデアが現れて一世紀以上が過ぎた。時間SFはことのほかロマンスと相性がよく傑作秀作が数多く生まれている。本集にはこのジャンルの定番作家といえるフィニイ、ヤングらの心温まる恋の物語から作品の仕掛けに技巧を凝らした傑作まで名手たちの9編を収録。本邦初訳作3編を含む。 バラエティに富んだ名作ぞろいで大満足。よくもまぁこんな隠れた名作を知ってるものだな、と編者に驚くばかり。この手の本は、まだ知

『誰にも出来る殺人/棺の中の悦楽』山田風太郎(著)

「人間荘」に越してきた私が押入れの奥から見つけた1冊のノート。そこには歴代の住人たちの哀しくも恐ろしい人生の記録が記されていた──。(「誰にも出来る殺人」)彼女のため殺人まで犯すほど恋い続けた女性を失った。絶望した男は、残された金で半年ごとに異なる6人の女との情事を愉しみ、死のうと決めるが……。(「棺の中の悦楽」)人間の欲望を見事にえぐり出したノワール・ミステリの傑作! 最近翻訳ものばっかり読んでるので、日本文学でも読むかな、と手に取る。久々の強烈な日本語のリズムや力にニヤ

『親愛なるクローン』ロイス・マクマスター ビジョルド(著)小木曽絢子(訳)

ある時は辺境惑星の一介の中尉、ある時は極秘任務に就いた傭兵艦隊の提督――二重生活を送るマイルズは、隠密作戦を成功させたが敵に追われ、艦隊を引き連れて地球まで逃げてきた。だが運悪くTV局に正体を悟られ、とっさに「傭兵提督は私の非合法なクローンなんだ!」とでっちあげたまではよかったが……魔手は忍び寄る。痛快活劇第二弾。 ヴォルコシガン・サガ、シリーズ2作目。外伝を入れると3作目。時系列としては、次巻『無限の境界』の直後(ややこしい)。 嘘から出た真系ドタバタ劇で、ヴォルコシガ

また自分に生まれ変わる『ライフ・アフター・ライフ』ケイト・アトキンソン(著)青木純子(訳)

正しく生きられるまで何度でも生きなおせるとしたら? 様々な人生を生きるひとりの女性の物語 1910年の大雪の晩、アーシュラ・ベレスフォード・トッドは生まれた。が、臍の緒が巻きついて息がなかった。医師は大雪のため到着が遅れ、間に合わなかった。しかし、アーシュラは、同じ晩に再び生まれなおす。今度は医師が間に合い、無事生を受ける。同様に、アーシュラは以後も、スペイン風邪で、海で溺れて、フューラーと呼ばれる男の暗殺を企てて、ロンドン大空襲で……、何度も何度も生まれては死亡する、やり

『高く孤独な道を行け』ドン・ウィンズロウ(著) 東江一紀(訳)

中国の僧坊で修行をしていたニールに、父親にさらわれた二歳の赤ん坊を連れ帰れ、との指令がくだった。捜索のはてに辿り着いたのは、開拓者精神の気風をとどめるネヴァダ。不穏なカルト教団の影が見え隠れするなか、決死の潜入工作は成功するのか。悲嘆に暮れる母親の姿を心に刻んで、探偵ニール、みたびの奮闘の幕が上がる。 ニール・ケアリーシリーズ3作目。西部の山の牧場へ潜入捜査。静謐で朴訥な雰囲気から、静かでハードボイルドな作風を期待していたら、あれよあれよとバイオレンス展開に。ジョー・ピケッ

チョロインが可愛い『セルフ・クラフト・ワールド 第1巻』芝村裕吏(著)

大規模多人数同時参加型オンラインRPG(MMORPG)である〈セルフ・クラフト〉のゲーム世界では、人工生命“G-LIFE”が奇跡の独自進化を遂げていた。ゲーム内のド田舎村で旅人を迎える役目のエリスは、九州女性(?)のノンプレイヤーキャラクター(NPC)。砂漠で彼女の命を救ったプレイヤーのGENZ(ゲンツ)は、G-LIFEの不可思議な生態を研究しているという。そこへ謎のハッカー集団の侵入事件が――世界最高の熊本弁ファンタジーSF、ここに開幕! 芝村裕吏は『マージナル・オペレー

へ~、ほー、うわぁの連続『暮らしのイギリス史』ルーシー・ワースリー(著)中島俊郎(訳)玉井史絵(訳)

なぜ中世では他人同士が同じベッドで寝たのか? どうやって1つの鍋で同時に何種類もの料理を作れたのか? 王侯から庶民まで、壁の向こうで繰り広げられるふだんの暮らしを覗いてみたら……。重労働のベッドメーキングや尿によるしみ抜きなど歴史のひとこまを実感しながら中世から現代までの人々の日常に迫る、優雅でユーモラスなイギリス生活史。肉の焼き串回し犬、ヴィクトリア女王の下着など貴重図版多数。カラー16ページ。 フランシス・ハーディングの『影を呑んだ少女』に、肉を焼く串回し犬が出てきて、

なんとも不思議な読書体験『天狗ノオト』田中彩子(著)

じいちゃんの日記に記された謎の一文―天狗ニアフ。じいちゃんは一体なにを見たのか。天狗とはなにを意味するのか…ぼくらは探りはじめる。深山と里山、過去と現在、じいちゃんとぼくら、その接点に見えてくるものは―?第11回児童文学ファンタジー大賞奨励賞受賞作。 ゆるいファンタジーかと思いきや、結構シリアス。良い方向に期待を裏切られた良作。 小6の男の子が主人公で、ある日納戸で亡くなった祖父の日記を見つけ、その中に「天狗ニアフ」という一文を発見してから、この土地に伝わる天狗の伝承を調

パワードスーツ・ミリタリーSFの祖『宇宙の戦士』ロバート・A・ハインライン(著)矢野徹(訳)

〔ヒューゴー賞受賞〕宇宙艦〈ロジャー・ヤング〉号から発射された宇宙カプセルはいま、地球をうかがう敵惑星の地表めがけ暗黒の中を自由落下していく。勝利か降伏か、地球の運命は一に彼ら機動歩兵の活躍にかかっていた! 戦争肯定的な内容で、ベトナム戦下の米国に一大センセーションをまきおこした問題作。 実は読んでなかった名作シリーズ。スコルジーの『老人と宇宙』が結構好きなので、元ネタを読んでみる。 構成がまんま同じで、オマージュとはいえ、スコルジーパクりすぎだろと笑ってしまった。 お

ひたすら怖い『霧の中の虎』マージェリー・アリンガム(著)山本俊子(訳)

戦争の傷痕が生々しく残るロンドン。戦争未亡人のメグは再婚を控えていた。ところが、そんなメグのもとへ送りつけられた数枚の写真は、亡夫の生存を示唆したものだった。単なるいたずらか、何か狙いがあるのか、あるいは本当に夫が生きのびているのか?動揺したメグは名探偵アルバート・キャンピオン氏とロンドン警視庁のルーク主任警部に相談する。写真の送り主の指示により駅に赴いたメグの前に現われたのは…姿なき敵を追い、霧のロンドンに展開される一大マンハント。キーティング、シモンズら斯界の達人が絶讃し

1000人の新人類が大脱出!『自由軌道』ロイス・マクマスター・ビジョルド(著)小木曽絢子(訳)

人類のバイオテクノロジーの発達は新たな人間を創造するに至った。辺境の惑星に浮ぶ巨大企業の研究衛星では、無重力環境下の労働に適した子供たちが生み出されていた。だがある日、この計画に即時停止命令が下される。子供たちを破棄せよというのだ。この無慈悲な企業決定に教育担当官は敢然と反旗を翻した! ネビュラ賞に輝く宇宙SF。 ヴォルコシガン・サガ前日譚。とある企業が、宇宙空間での作業用に造った遺伝子改造人種「クァディー」(足がなく手が四本。アメリカ版表紙⬇参照)達のお話。 この新人類

この世界に生まれたかったなぁ『タイタン』野崎まど(著)

今日も働く、人類へ 至高のAI『タイタン』により、社会が平和に保たれた未来。 人類は≪仕事≫から解放され、自由を謳歌していた。 しかし、心理学を趣味とする内匠成果【ないしょうせいか】のもとを訪れた、世界でほんの一握りの≪就労者≫ナレインが彼女に告げる。 「貴方に≪仕事≫を頼みたい」 彼女に託された≪仕事≫は、突如として機能不全に陥ったタイタンのカウンセリングだった――。 労働のすべてをAI『タイタン』が担い、人間は仕事から解放された。社会からは貨幣すらなくなり、人々は只々趣

探偵ニール・ケアリー・シリーズ2作目にして踏んだり蹴ったり。『仏陀の鏡への道』ドン・ウィンズロウ(著) 東江一紀(訳)

鶏糞から強力な成長促進エキスを作り出した研究者が、一人の姑娘に心を奪われ、新製品完成を前に長期休暇を決め込んだ。ヨークシャーの荒れ野から探偵稼業に引き戻されたニールは香港、そして大陸へ。文化大革命の余燼さめやらぬ中国で傷だらけのニールが見たものとは? 喝采を博した前作に続く待望の第二弾。骨太の逸品! 探偵ニール・ケアリー・シリーズ2作目。前作の直後から始まる。謹慎明けに簡単な任務をあてがわれたはずが、ターゲットはニールの追跡をことごとく逃げ延びてゆき…。 今回の舞台は中国