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2020年6月の記事一覧

『天冥の標 IX ヒトであるヒトとないヒトと』小川一水(著)

カドム、イサリらは、ラゴスの記憶を取り戻すべく、セレスの地表に横たわるというシェパード号をめざしていた。それは、メニー・メニー・シープ世界成立の歴史をたどる旅でもあった。しかし、かつてのセレス・シティの廃墟に到達した彼らを、倫理兵器たる人型機械の群れが襲う。いっぽう、新民主政府大統領のエランカは、スキットルら“恋人たち”の協力も得て、“救世群”への反転攻勢に転ずるが― ラスト1歩手前、盛り上がってきた。情報は出揃ってきたものの、規模がどんどん大きくなり、解決への道筋が見えな

『あの本は読まれているか』ラーラ・プレスコット(著)吉澤康子(訳)

冷戦下のアメリカ。ロシア移民の娘であるイリーナは、CIAにタイピストとして雇われるが、実はスパイの才能を見こまれており、訓練を受けてある特殊作戦に抜擢される。その作戦の目的は、反体制的だと見なされ、共産圏で禁書となっているボリス・パステルナークの小説『ドクトル・ジバゴ』をソ連国民の手に渡し、言論統制や検閲で迫害をおこなっているソ連の現状を知らしめることだった。──そう、文学の力で人々の意識を、そして世界を変えるのだ。一冊の小説を武器とし、危険な極秘任務に挑む女性たちを描く話題

『午后のあくび』コマツシンヤ(作)

毎日がちょっとフシギ。毎日がきっとステキ。 ヘンテコなことがあぶくのように湧いてくる、ここは白玉町。 この街に住むOLのひび野あわこさんの“うたかたの日々"を綴った、 心にすっとしみこむ、キュートなショートマンガです。 「PHPスペシャル」での人気連載が単行本化! 描き下ろし作品4話に加えて、おまけマンガ「Panna & Cotta のんびりな一日」も収録。 1話数ページのショートショート集。もうただただ可愛らしい。ファンタジーな展開、オチも素敵で、1ページ毎にニヤニヤして

『逆行の夏』ジョン・ヴァーリイ(著)

クローンの姉が月から水星に住むぼくらのところへやってきた。太陽が天頂で逆回りする〈逆行の夏〉に、ぼくらは家族の秘密を知ることとなる……。ひと夏のできごとを鮮やかに描いた表題作、三重苦の人々が創りあげたコミューンを描き出した「残像」など全6篇を収録。著者の代表作を集めたベスト・オブ・ベスト。 読書メーターで「残像」をおすすめされたが絶版で手に入らず諦めていたところ、これに含まれていると知り手に取る。古い本は手に入りずらいので、未読作が読めて嬉しい。とはいえ、ベスト・オブ・ベス

『My Humanity』長谷敏司(著)

擬似神経制御言語ITPによる経験伝達と個人の文化的背景との相克を描く「地には豊穣」、ITPによる小児性愛者の矯正がグロテスクな結末を導く「allo,toi,toi」――長篇『あなたのための物語』と同設定の2篇にくわえ、軌道ステーションで起きたテロの顛末にして長篇『BEATLESS』のスピンオフ「Hollow Vision」、自己増殖ナノマシン禍に対峙する研究者を描いた書き下ろし「父たちの時間」の全4篇を収録した著者初の作品集 陰鬱ナルシスティックSF。同じような心理描写が延

『月の光 現代中国SFアンソロジー』ケン・リュウ(編)

国家のエネルギー政策に携わる男はある晩、奇妙な電話を受ける。彼のことを詳しく知る電話の男は、人類と地球の絶望的な未来について語り、彼にそれを防ぐ処方箋を提示するが……。『三体』著者である劉慈欣の真骨頂たる表題作ほか、現代の北京でSNS産業のエリートのひとりとして生きる主人公の狂乱を描いた、『荒潮』著者の陳楸帆による「開光」など、14作家による現代最先端の中国SF16篇を収録。ケン・リュウ編による綺羅星のごときアンソロジー第2弾。解説/立原透耶 『折りたたみ北京』につづく中国

『ふたりジャネット』テリー・ビッスン(著)中村融(訳)

短編の名手ビッスンが贈る、ポップに洗練されたファンタジー! ヒューゴー賞・ネビュラ賞受賞作「熊が火を発見する」、抜群の面白さ<万能中国人ウィルスン・ウー>シリーズなど、表題作他全9編を収録した、日本初の短編集。 SFというより、ほら話という方がしっくり来る。やさしくてユーモアたっぷりで荒唐無稽。子供の頃、絵本を読んで寝かしつけてもらった時のような幸福な気持ちになった一冊。 アンディ・ウィアーが近いかな。科学を取っ払ってユーモアを(さらに)追加した感じ。 以下個別感想。

『人間たちの話』柞刈湯葉(著)

どんな時代でも、惑星でも、世界線でも、最もSF的な動物は人間であるのかもしれない…。火星の新生命を調査する人間の科学者が出会った、もうひとつの新しい命との交流を描く表題作。太陽系外縁部で人間の店主が営業する“消化管があるやつは全員客”の繁盛記「宇宙ラーメン重油味」。人間が人間をハッピーに管理する進化型ディストピアの悲喜劇「たのしい超監視社会」、ほか全6篇収録。稀才・柞刈湯葉の初SF短篇集。 『一九八四年』のパロディ『たのしい超監視社会』が傑作。この発想はなかったの連続で、こ