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2019年9月の記事一覧

『私の恋人』上田岳弘(著)

一人目は恐るべき正確さで世界の未来図を洞窟の壁に刻んだクロマニョン人。二人目は大戦中、収容所で絶命したユダヤ人。いずれも理想の女性を胸に描きつつ34年で終えた生を引き継いで、平成日本を生きる三人目の私、井上由祐は35歳を過ぎた今、美貌のキャロライン・ホプキンスに出会う。この女が愛おしい私の恋人なのだろうか。10万年の時空を超えて動き出す空前の恋物語。三島賞受賞作。 10万年前、クロマニョン人だったころから待ちわびた運命の恋人と出会うお話。 前世の記憶を引き継いで生まれ変わ

『アネモネの姉妹 リコリスの兄弟』古内一絵(著)

兄弟姉妹に一度でも仄暗い感情を抱いたことのあるあなたへ。花言葉をモチーフにした感泣と戦慄の連作短編集。 きょうだい(姉妹兄弟姉弟)、花言葉をテーマにしたヒューマンドラマ短編集。 本紹介には「兄弟姉妹に一度でも仄暗い感情を抱いたことのあるあなたへ。」とあるが、むしろ兄弟がいない人にお勧め。暗い感情が割とリアルなので「こんな感じなんだ、へ~」という気分になれる。 全体的に、癖のない文章で読みやすかった。悪く言うとパワーがない。ドラマチックな内容に向いてない気がする。構成も、

『天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉』小川一水(著)

西暦2803年、植民星メニー・メニー・シープは入植300周年を迎えようとしていた。しかし臨時総督のユレイン三世は、地中深くに眠る植民船シェパード号の発電炉不調を理由に、植民地全域に配電制限などの弾圧を加えつつあった。そんな状況下、セナーセー市の医師カドムは、《海の一統》のアクリラから緊急の要請を受ける。街に謎の疫病が蔓延しているというのだが……小川一水が満を持して放つ全10巻の新シリーズ開幕篇。 SFとアナクロなエピソードが絡み合う群像劇。 一冊丸々プロローグ! 大量の濃い

『フリーファイア』C.J.ボックス(著)野口百合子 (訳)

イエローストーン国立公園で四人の若者の射殺事件が起きた。しかも出頭してきた犯人は、“死のゾーン”と呼ばれる法律の抜け穴を巧妙に使って釈放されてしまう。調査を依頼された猟区管理官ピケットは、犯行動機に大きな企業陰謀がからんでいることに気づく。全米ベストセラーの超一級必読ミステリー。 ジョー・ピケットシリーズ6冊目。法の抜け穴をついた完全犯罪という強烈なツカミから始まり、渦巻く欲望、真相、裏切りと、ハラハラドキドキで2日で読んでしまった。 今回も、事件の裏には巨額の金があり、

『エレベーター』ジェイソン・レナルズ(著)青木千鶴 (訳)

15歳のウィルは射殺された兄のかたきを討つため、銃を持ってエレベーターに乗り込んだ。自宅のある7階から地上に到着するまでの短い時間に彼が出会う人々とは……ポエトリーとタイポグラフィを駆使する斬新な手法で文芸賞を席巻した注目作、ついに日本上陸! エドガー賞YA部門、ロサンゼルス・タイムズ文学賞ほか多数受賞! 詩で書かれた小説。 しかし、詩である必然が感じられないかな。体言止めかと思ったら、次の行で続くとか、半端なタイポグラフィとか、読みにくいだけに感じた。 どうせなら、絵を

『太陽・惑星』上田岳弘(著)

アフリカの赤ちゃん工場、新宿のデリヘル、パリの蚤の市、インドの湖畔。地球上の様々な出来事が交錯し、飽くなき欲望の果て不老不死を実現した人類が、考えうるすべての経験をし尽くしたとき、太陽による錬金術が完成した。三島賞選考会を沸かせた新潮新人賞受賞作「太陽」と、対をなす衝撃作「惑星」からなるデビュー小説集! ここまで理解を超えた本は久しぶり。 頭を殴られたような読後感。 芸術は爆発だと言った岡本太郎を思い出す。 ジャンルとしてはディストピアSFなんだろうか…。滅びゆく人類を外

『キリン解剖記』郡司芽久(著)

長い首を器用に操るキリンの不思議に、解剖学で迫る!「キリンの首の骨や筋肉ってどうなっているの?」「他の動物との違いや共通点は?」「そもそも、解剖ってどうやるの?」「何のために研究を続けるの?」etc. 10年で約30頭のキリンを解剖してきた研究者による、出会い、学び、発見の物語。 情熱溢れる素晴らしい一冊。 好きなものを仕事にしよう、という決意でキリン研究者になった筆者の軌跡が、解剖履歴、研究履歴と共に語られる。 動かな無いはずの骨が動くことを発見し、論文とする所までが語ら

『ガニメデの優しい巨人』ジェイムズ・P・ホーガン(著)、池央耿 (訳)

木星最大の衛星ガニメデで発見された2500万年前の宇宙船。その正体をつきとめるべく総力をあげて調査中の木星探査隊に向かって、宇宙の一角から未確認物体が急速に接近してきた。隊員たちが緊張して見守るうち、ほんの5マイル先まで近づいたそれは、小型の飛行体をくり出して探査隊の宇宙船とドッキング。やがて中から姿を現わしたのは、2500万年前に出発し、相対論的時差のため現代のガニメデに戻ってきたガニメアンたちだった。『星を継ぐもの』に続く第2弾! シリーズ2作目、ガニメアンあっさり登場

『マレ・サカチのたったひとつの贈物』王城夕紀(著)

誰か、私を留めて。どこかへ跳び去ろうとする私を――世にも奇妙な「量子病」を発症して以来、自らの意志と関係なく世界中をワープし続ける稀。一瞬後の居場所さえ予測できず、目の前の人と再び会える保証もない。日々の出会いは儚く、未来はゆらぐ。人生を積み重ねられない彼女が、世界に爪痕を残すためにとった行動とは? ポエミーなディストピアSFモノ。 世界経済は破綻し、バイオ食物会社とコンピューター会社に乗っ取られつつある世界で、主人公は量子病となり、世界中をワープし続け、世界の有様を見つめ

『イヴリン嬢は七回殺される』スチュアート・タートン(著)三角和代 (訳)

森の中に建つ屋敷“ブラックヒース館”。そこにはハードカースル家に招かれた多くの客が滞在し、夜に行われる仮面舞踏会まで社交に興じていた。そんな館に、わたしはすべての記憶を失ってたどりついた。自分が誰なのか、なぜここにいるのかもわからなかった。だが、何者かによる脅しにショックを受け、意識を失ったわたしは、めざめると時間が同じ日の朝に巻き戻っており、自分の意識が別の人間に宿っていることに気づいた。とまどうわたしに、禍々しい仮面をかぶった人物がささやく―今夜、令嬢イヴリンが殺される。

『裁きの曠野』C.J.ボックス(著)

失綜した女牧場主の莫大な遺産をめぐって憎悪を募らせる息子たち。否応なく巻き込まれた猟区管理官ジョーにさらに邪悪な復讐者の攻撃が迫り、愛する娘も危険にさらされていく。ジョーは大切な家族を守りきれるのか?ワイオミングの大自然を舞台に不器用だが熱い男の孤独な闘いを描く好評シリーズ第5弾。 まさかのゴシック・ホラー回。 西部ウェスタン物でこんな薄ら寒いラストに出くわすとは。 まぁ、シリーズ的に、キャトル・ミューティレーション回の次にハズレかな…。 消えた牧場主の話と、ジョーへの復