ニューヨーカーという雑誌を知っていますか

かつて編集の仕事をしていた身としては、とあるPR誌で村上春樹に原稿を書いてもらったことはかなり印象に残る出来事だった。

ファッションメーカーの株主に配布する数ページの小冊子だった。そのトップを飾るエッセイ数枚である。直接電話して依頼した。OKだった!

はじめから受けてもらえるなんて考えもしなかったから、喜びもひとしおというところだった。しかし『ノルウェイの森』以前なのか、以後なのかまったく覚えていない。ありえない。まあ、なんで受けてもらえたのか? とまでは思わなかった。というのも、当時としては原稿料がかなり良かったから。

一方、私のいた小さな出版社は『ニューヨーカーストーリイズ』(常盤新平・編 訳)を出していた。それが原稿を受けてくれた理由だったかもしれないことに、だいぶ後になって思い至った。その本は言うまでもなく「ニューヨーカー」という雑誌の名作短編を集めた書籍だ。私は入社してから読み、すぐにファン(⁈)になった。

そして、村上春樹の愛読者にとって「ニューヨーカー」は、もっとも身近な米国の雑誌と言っていい存在だ。

そういえば、今は亡き山際淳司も同じ小冊子でかなり無理な依頼を受けてくれたとき「おたくの会社、常盤さんの翻訳本出してるよね」と親しげに語ってくれたことがあった。

いま考えると随分と豪華な執筆陣にお願いできてたんだな、と思う。それはPR誌のスポンサーのおかげもあったが、「ニューヨーカー」のおかげも大いにあったのだなと思うのだ。

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