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「昨年では早すぎて、来年では遅すぎた」マーケ1年目のプロジェクト担当者が今、考えていること

5人のメンバーたちとともに、“生理や身体の悩みを気兼ねなく話せる社会の実現”と“生理ケアの選択肢の多様化”を目指している #NoBagForMe プロジェクト。その立ち上げのきっかけとなったのは、ユニ・チャームのとある社員の声でした。

入社4年目、マーケティング部に来て1年目という20代の彼女。いったいどんな想いでこのプロジェクトを立ち上げ、そして走り続けてきたのか。前代未聞のプロジェクトの種は、たった一つの悩み事から始まっていたのです。

ポジティブな自分が、ただ一つ嫌だったもの

――大企業のプロジェクトなので、勝手に発起人はベテランの社員さんだろうと思い込んでいました。しかも、入社以前からプロジェクトの構想があったと聞いて、さらに衝撃を受けています……。

そうなんですよ。証拠としてES(エントリーシート)を持ってきました!

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大学時代に使っていたPCから発掘したというESのデータ。「なぜユニ・チャームで働きたいか」という理由に、プロジェクトの種となる熱い想いが綴られていた。

読み直してみたら、ちょっとかっこつけて書いてあるし恥ずかしいんですけど、読みますね(笑)

世界中の女性が、生理がくる女性に生まれたことを肯定的に捉えられる社会を作りたい。なぜなら、生理用品を買うことを恥ずかしいものとして扱う現状を経験したからだ。生理用品は通常、小売店の奥の方や日用品売り場の棚の下の方に置かれている上に、購入後も袋から透けないように紙袋に入れられる。(中略)まず日本で女性が堂々と生理用品を購入できるような売り場を作り、将来は海外でも日本で培った能力を活用して夢を実現したい。それは、(中略)日本で初めて生理用品の現物をテレビCMに映して生理用品に対する印象を変えた貴社だからこそできることである。

――まるで予言の書ですね。こんなふうに学生時代はいろんなことに問題意識を持っていたんですか?

世の中には課題が山ほどありますが、自分ごとと思える範囲で、当時トップクラスに嫌だったのが生理なんです。

私は、基本的にめちゃくちゃポジティブで、落ち込んでもすぐ回復するタイプ。誤解を恐れずに言えば、大学生までの人生でこれと言って不自由したこともありませんでした。

でも生理は、ずっと口に出すのも恥ずかしかったし、大学時代のデート中に突然来てしまったとき、生理用品があまりに買いづらくて……なんとかならないわけ!? と思ったんです。

入社から2年間は営業を担当していました。マーケティング部に異動となったのが2018年の春で、11月からタンポン担当になりました。

2019年度に向けて動いていた矢先に、たまたま五味ちゃんがTwitterで発信してくれて。今プロジェクトを一緒に進めている事業本部の部長と2人で、すぐに会いました。

プロジェクト発足につながったハヤカワさんのツイート。自ら生理用品事業の立ち上げを試みたが実現が難しく、国内で唯一タンポンを製造・販売しているユニ・チャームへ指名で協力を呼びかけた。

メンバーもタイミングも“奇跡的”なプロジェクト

ーーそこからハヤカワさん以外のメンバーはどのように集まったのでしょう?

ただ単純に、PR投稿を依頼して発信してもらうのはちがう。それに、生理の話はセンシティブなもの。だからこそ、「生理をとりまく環境を変えたい」という私たちの思いに共感してくれる方、熱量高く一緒に取り組んでくれそうな方を他にも巻き込んで、何かできないだろうか? と、スタッフの間で議論しました。

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メンバーの属性や活動分野は多岐にわたる。瀧波ユカリさん(写真右)はマンガ家で一児の母。あっこゴリラさん(右から2番目)はラッパー、ハヤカワ五味さん(中央)はアパレルブランド経営者だ。「センシティブな商材ゆえに、全員に二つ返事でOKをいただけたのは奇跡的」と話す。

たとえば今でこそ、最近発売した「超熟睡ショーツ」も、たくさんの方々がSNSに投稿してくださったんです。3〜4年前だったら考えられなかったですよね? 生理用品をSNSにアップするなんて。

だから、“今年”なんです。年始くらいに「シンクロフィット」がTwitterで話題になったり、パッケージについて議論されたり。SNS上で、少しずつ生理用品が語られだした。

きっと昨年だと早すぎて、来年では遅すぎた。プロジェクトのスタートとして、最高のタイミングを捉えられたと思っています。

プロジェクトの方向性は、部長と「走りながら考える」

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――今年6月にプロジェクトが立ち上がるまでは、困難の連続だったと思います。

それが、まったく! 3月に五味ちゃんと直接会って、私や他の担当者たちとも価値観を共有できた。そこからは社内調整はほぼいらなくなりましたね。

――大企業あるあるの稟議書が何枚も……みたいなことは?

そういった苦労もまったくなかったですね……インタビューとしておもしろくなくてすみません(笑)。

そもそもこのチームは、マーケティング部長とソフィのブランドマネージャーである長井、そして最若手の私だけというレアな少人数編成でした。

生理用品を包む紙袋をずっと断り続けていたという長井千香子さん。いつかそれが当たり前の世の中になってほしいという想いにメンバーも共感し、プロジェクト名は #NoBagForMe に決まった。

――なるほど。だから意思決定が速くなって、これだけのスピード感で進行できたんですね。

私、本当に上司に恵まれているんですよ。彼によく言われることがあって、「現場で芽を見つけてくるのは各担当者の仕事。それをいけるか判断するのが上司の仕事だ」と。まったく前例がないなか、「まずやってみよう」と、走らせながら進めることを認めてもらえたのは、今の部長だからこそだと思います。NGを出される施策もたくさんありますが、リスクもちゃんと考えてくれていて、何でも相談できる心強い上司です。

みんなのことなのに、語られてこなかった話

――プロジェクト始動の発表は、とても多くのメディアに取り上げられていましたね。率直に、どのように感じられましたか?

ローンチと併せて発表した第1弾のアクションが、“紙袋で隠す必要性を感じさせない、タンポンの新パッケージの開発”。世間の関心を集め、ネット上に賛否の渦を巻き起こした。

これほどの反響をいただけたのは嬉しかったです。まず興味を持ってくださってありがとうという気持ちでいっぱいでした。そして、応援してくださる方もいれば、「余計なことしないで」という反応もたくさんいただいて……覚悟はしていたのですが、しっかり凹みました(苦笑)

ただ、反響の大きさに対してはそこまで驚きませんでした。このプロジェクトが目指しているのは、生理のあるかたはもちろん、その周りの方々も含め、多くの人に関係のあることだと考えているので。

私たちは決して、今ある考え方を全否定したいわけではないんです。もうちょっと世の中を生きやすくするプロジェクトだという自負はあるので、今後もどれだけ誠実に発信していけるかだな、と思っています。

――誠実な発信、ですか?

生理のあるすべての人が対象なので、とにかく「誠実に、慎重に」を一番大事にしています。新パッケージ投票の結果が出たときは、本当に悩みました……。最終的にどういう形で世に出すのがベストかは、メンバー5人とも相談しながら考え抜きました。

3つの新デザイン案から、一般投票で1位になったパッケージを商品化。気になる結果ははたして……? 詳しくはこちらの記事をどうぞ。

タンポンのパッケージに「できること」と「できないこと」

――私もメーカー勤務だったのでわかるのですが、パッケージ変更って一大事ですよね。

はい。売り場でちゃんと選んでもらえるかどうかがすべて。既存のお客さんが迷わないように、どこのブランドか、何の商品かが一瞬で判別できなければいけません。今までにない新しさと、残さなければならない要素のバランスが難しかったですね。

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新パッケージ候補だったデザインたち。この3案に絞るまでに100案を超えるサンプルが作られたという。「デザインには好みがあるので、何を残すか本当に難しかった」と振り返る。

――既存のデザインとはまったく違うものを、というのは意識されました?

現行のパッケージがベストなのかは営業時代からずっと考えていました。今のデザインも、「もう少し手に取りやすく」と考えて、2年前にリニューアルしたものなんです。

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歴代のユニ・チャーム製タンポンのパッケージ。2017年3月、吸収力を表現したデザイン(写真右から2番目)から現行パッケージ(写真右)にリニューアル。ポップな女の子たちのイラストで「生理を忘れて楽しめちゃう」という価値観を表現。

いつもと違うやり方で選んでみてもいいんじゃないかな、と。今回みんなが意見を交換しやすいという点でパッケージデザインの開発を実施しましたが、私は、タンポンのパッケージには限界もあると思っていて。

――え、どういうことですか?

タンポンって、パッケージが変わったからといって、使ってみよう!とすぐ思ってもらえるアイテムではないんですよ。もし突然パッケージだけ変更しても、きっと何も起こらない。

プロジェクトメンバーたちの「こんなものを作ったから、よかったら使ってみてね」「最初は怖いと思うから、こういう情報を見てね」「私はこう使っているよ」といった発信なくして、興味を持ってもらえるわけがない。私たちがタンポンを使うメリットをちゃんと伝えていって、その先に目印としてのパッケージがあるんです。

――パッケージはあくまでも一部だ、と。たしかに、#NoBagForMeプロジェクトの趣旨はそこじゃないですしね。

そうです。今はまだ、“生理用品のパッケージを変えようプロジェクト”だと思っている方も多いと思いますが、#NoBagForMe が目指しているのは、“生理ケアの選択肢の多様化”“生理について気兼ねなく話せる世の中の実現”です。その第1歩としてのパッケージ開発なんです。生理用品の歴史や、防災観点での生理用品など、いろんな発信をしていることも知ってもらえたら嬉しいです。

ユニ・チャームのマーケティング担当者に必要なもの

――いよいよ12月3日に、#NoBagForMe限定パッケージが発売になりましたね。デザイン決定からの約3カ月はいかがでしたか?

文字通り社内を駆け回っていました(笑)。ユニ・チャームのマーケティングの仕事は、いわばジェネラリスト。今回の限定パッケージのタンポンに限らず、普段の業務でも、工場から売り場まで、各ブランドの担当者が一気通貫ですべて決めます。川上から川下まで全部に関わりながら、その根幹となる消費者調査も手掛けます。ただ、私たちマーケティングができるのは考えるところまで。各部署の人たちとの連携は不可欠です。

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デザイナーとの打ち合わせ風景

――仕事をする上で特に求められる能力はありますか?

調整役になれるかはすごく大事! いわゆるコミュニケーション能力が求められます。でも、それは話し上手ってことではなくて、正しい情報・必要な情報を伝えられること。そして「この人のためなら動こう」と思ってもらえるようなコミュニケーションを積み重ねる力が欠かせません。

私も、相談相手に納得してもらうためのロジックの立て方や資料作りは、日々学んでいます。成果もきちんと見える形にしなければ、たとえプロジェクトの立ち上げに成功しても、続きませんからね。

――全社的に見ても、#NoBagForMe プロジェクトの反響は大きいのでは?

今年、WEBをきっかけにタンポンを使い始めたひとが昨年に比べて3.3倍に増えています。

また、社内からもめちゃくちゃポジティブな反応をもらっています! この前、五味ちゃんと工場見学に行ったんです。生産調整でかなり無理を言ったのですが、タンポンを使ってくれる人が増えるのを、みんなすごく喜んでいて。人事からも、#NoBagForMe でユニ・チャームに興味を持ったという採用応募者がいたと聞いています。

広報曰く、新聞や雑誌からこんなに問い合わせが来ることは滅多にないと。最近は、ファッション誌も生理をオープンに扱うようになってきました。そのきっかけの一つになれていたら嬉しいですね。

(聞き手・構成:中道薫 写真:山口雄太郎



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