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TVS REGZA片岡秀夫さんに聴く、「テレビはこう見られている」(05)

TVS REGZA株式会社 クラウド事業センター センター長の片岡秀夫さんにお話を伺う、最終回。

これまで様々なデータとともに、今のアニメ視聴の姿を伺ってきたが、週に40本以上のアニメ作品を見ている片岡さんならではの知見から、これまでコデラが調べてもわからなかったアニメのトレンドや傾向などのお話を伺って、本対談の〆としたい。

これまで分析に興味があるという方は、以下のところにフォームがあるので、問い合わせてみるといいだろう。


小寺:さてここまで様々なデータとともにアニメ作品を分析してきましたけど。片岡さんの目からみて、昨今のアニメのトレンドを総括すると、どんな格好になりますか?

片岡:アニメのヒット作として有名なところでは、『鬼滅の刃』とか『呪術廻戦』があるじゃないですか。『SPY×FAMILY』はそれに続くとか、下手すると初期は超えてる、と言われてるんですけど。

ある方が評論でおっしゃっていて僕もそうかなと思うのが、フジテレビが『鬼滅』を夕方にやって、深い時間にやらずに成功した、というのがありました。これまでは、子供向けのアニメだから子供騙しで作る、というのはよくあるんですよね。でも『鬼滅』って子供向けなら残虐じゃないですか。装備ちぎられて親は食べられるし。

今まではわりと子供向けは子供用に作ってたのを、子供用じゃなく作っている。で、それを子供が喜ぶし、大人も観られるクオリティになる。子供に観せとけじゃなくて、自分も楽しくなっちゃう。そうすると家族が観ます。家族が観ないと視聴率は上がらないんですよね。家族が観てる=翌週も観るんですよ。誰かが観るから。

小寺:ああ、なるほど。1人じゃなくて誰かが観るからか。

片岡:観る確率が上がるんです。放送局も、家族が観る番組編成をしたほうが、特定の一人だけが観る番組よりも、家族の誰かが観ているのでつられて観るというトリガーの発生確率がどうやら上がるようなんですね。

よって、キーワードとしてやっぱり“家族で観る道具”としてのテレビであり、家族で観る番組を家族が観られる時間帯にやる。深夜じゃない、大人と子供が観られるアニメも、実はむしろ局に視聴を引き戻す大事な材料になるんじゃないの、という観点。

逆に言うとこれがヒットの秘密でもあるし、そこで稼いでいる。『SPY×FAMILY』ももしかしたら、もっと浅い時間に持ってきて再放送すると、もっとファンが増えるかもしれません。「アーニャかわいい!」というのはみんな言ってる。グッズ売り場に行ってもアーニャグッズが真っ先に売れてるという。で、美人なヨルさんのがいちばん売れ残ってるんで、え、その順番なの? という。

小寺:あー、そうなんですね。

片岡:ロイドさんもイケメンだから、きっと女性ファンに買われるんですよ。

小寺:そこですか(笑)。でもあの作品は残虐なシーンもあんまりないし、ファミリー向けとしていけますよね。

片岡:はい。スタイリッシュなので。

あと昨今のアニメでああいうヒットしたものは、いわゆるコアなアニメファン層からは「ええっ、あれがなんでそんなに流行るの?」って言われるんですね。特に『鬼滅』は。

なぜかというと、脳内にアニメ文法が入ってる人たちは、全部テンプレがわかってるので、お話とか説明が省略可能なんです。

小寺:テンプレ。文法というかお作法というか。

片岡:それがありすぎると、外国人もそうだし、一般層も入っていけない部分って出てくるんですよ。たとえば、髪の色と眼鏡のあるなしで、だいたいもうキャラがわかる。特に女性キャラはそうですね。青髪の人、赤髪の人で、だいたいこういう性格ね、って説明されなくても予想しちゃう。

小寺:はいはい。

片岡:ああいったテンプレがあるものは、当然そっちのファンには刺さる一方で、それを知らない人にはなかなか入りにくい。

ところが『鬼滅の刃』はそういう心情もちゃんと描くし、悩みも言葉にするし説明するから、ある意味かったるいんですよ、展開が。そういうのがぽんぽんわかってスピード良く圧縮されたものを見慣れてるアニメに慣れた人からすると、丁寧すぎるというか、テンポが悪い。でも、アクション場面とか絵は素晴らしいよねと。

漫画やラノベからアニメにする時に、深夜アニメに行きたくなくてもっと視聴率が取りたいんだったら、そういう演出をしてあげればいいと。そうすれば、より広い層やら、昼間の時間帯で稼げるコンテンツ、よりグローバルでもウケる部分というのは出しうる。

■「異世界転生もの」は、どこまで続く?

小寺:あとね、片岡さんに個人的なご意見でもいいのでお伺いしたいんですけど。異世界転生ものってもうけっこう長いこと流行ってるというか、各シーズンには必ず1作、2作、3作ぐらいは入ってますよね。

片岡:そうですね。

小寺:これ、ある意味トレンド――誰が発明したのかわからないですけど、ひとつの……なんでしょうね。ある意味ジャンルを築いちゃった感があるんですけど。

あれはやっぱり一過性のものじゃなくて、まだまだ息が長いというふうに見られますか?

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