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僕のいない世界

ふとベランダに出て
妻娘の営みをのぞいて見る
夕焼けが空を染めはじめていた

娘は宿題をして
妻は夕飯の支度をする
穏やかなカーテンの揺らぎ

内と外の境界線となる
カーテンを境にしてある
僕のいない世界

チャイムが鳴り
誰か入ってくる
カーテンで顔は見えない

おかえりなさい
妻はそう言ってその誰かを迎え
娘もそれに倣う

僕はベランダに立ち
それを理解し受け容れる

空は赤々と燃え
夜の帳を前にいっそう美しかった

ありがとう
僕は声にならない声で呟き
目を閉じた

ピーエーピーエー
娘が僕を呼ぶ声に
ふと我に帰る

一緒に絵を描くよ
破いた落書き帳を突き出すと
娘はぞんざいに言い放つ

手を引かれるまま
カーテンの境界線を超えると
もうご飯よと妻

あぁいつもと変わらない

涙が出そうだった

確か未来の街を描くんだっけ
潤んだ目に気づかれないように
僕は見え見えに大きな声を出す

パパは死んじゃって居ないかも知れないなぁ
余韻が僕を境界線の向こうへと誘う
何変なこと言ってんのと妻

人は生かされている
僕を求めてくれる人たちに
ささやかな感謝を

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