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ここから、どこへでも

(ガラガラ、と教室の扉を開ける音)

 みなさまこんにちは。

 えー、わたくしがnote文芸部部長兼代表の、神谷京介でございます。



……ってだれもいないじゃん!!

(教室を見渡しつつ、掃除用ロッカーを開けたり隣の教室を覗いたりする)


 活動休止宣言をしてからはや数か月、ふたたびこの部室に、最後のご挨拶をするべく、もどってきました。
 おもむろに窓を開けると、中庭から冷たい風が吹き込み、葉先のゆれる音が聴こえます。並べられた机と椅子、廊下からの足音が通り過ぎます。きっとほかの部活の人でしょう。吹奏楽部の演奏が向かいの校舎から聴こえてきます。

 あぁそういえば、ここが、いつもの、放課後の部室でした。
 サークル化やその他あれこれで多少の出入りはあったけれど、たとえば教室でいうひとクラスほどの、たくさんの部員のみなさまと、楽しい部活動ができていたなぁ、と、黒板のすみっこに描かれたまるぶんくんの絵を見ながら思い返しています。

 そういえば、と、自分がいつも座っていた席、その椅子に腰かけます。いちおう部長なのにはしっこ、でもここが落ち着くのです。
 ふと腕になにか紙のような感触がふれ、机の中を覗きました。そこには、作業途中の部誌用の原稿がわんさかねじ込まれていました。


 あっ……そうだ部誌……


 そうです。まずは謝らなければなりません。夏頃からいろいろありすぎて、なかなか手をつけられませんでした。大変申し訳ありません。
 そんなわけで神谷OBは文芸部解散後も、ゆるゆると持ち越し作業します。もちろんみんなでつくっていたので都度、確認やご依頼はさせていただくと思います。いつまでに完成できますと言えないのが心苦しいけれど、なにか形にして残したい気持ちは変わりません。

 完成したあかつきには部員のみなさまに配布します。こっそりと、にはなりますが、それはそれでいいのでは?(よくない)とか。だって卒業アルバムとかだいたい6月ごろにとどくじゃないですか。それと同じですよきっと。
 大変申し訳ありませんでした。重ねておわび申し上げます。



 さてこのまま謝り倒してもいいのですが、これがnote文芸部、最後の記事となります。ただべつに「どうしても伝えたい! おれの話をきけ!!」みたいななにかがあるわけでもなく、特段たいしたことは言えません。
 ただただ、感謝を伝えたいです。
 なのでこのまま一人一人に感謝し倒してもいいのですが、それはそれでちょっとこう、さらりと読めなくなるな、とも考えたので、やはり、さらりと終わって、部室に鍵をかけて、職員室の鍵庫に返して、そして去りたいです。


(数時間の休憩を挟み……)


 
……と、この間にあらためて文芸部の記事をいろいろと読み返してみました。楽しい企画たくさんしてたなぁ。そしていろんな部員が書いてくれてる! こんなアカウントそうそうないよなぁ。

 でもここに書いてある以上に、たくさん得られたような気がしてなりません。
 今ぱっと思い浮かぶのは、たくさんの友人、でしょうか。べつに文芸部という場所ありきではなく、現に文芸部が本格的に休眠しはじめて以降も、変わりなく関係性がつづいた方がとても多いです。
 これは僕だけにかぎらず、ほかの部員も同じかもしれません。ちょっとおせっかいすぎかなとも思いつつ、あながち大外れでもないような気もします。


 とはいえ僕はこんな性格なので、たったひとりでも書きつづけていけたのかもしれません。むしろそっちのほうがかっこいいとさえ考えている厄介な昔気質の作家です。ただ、最近は少しずつ変わってきたのかも。


 見てください、このとんでもなく肩に力の入った文章! 
 当時は本気で、刺し違える覚悟で書いたんです(誰と?)。
 一年経った今では、だいぶ物腰がやわらかくなって、友人も増えました。
 そして変わらず、小説を書きつづけていました。
 でも、この先の未来はどうなるかわかりません。なにかやらかしてすべてを失うかもしれないし、小説を書いているかどうか、書けているかどうか、これもわかりません。
 今が奇跡で、今までも奇跡で、そしてこれからどうなろうと、たとえばなにかを失ってもそれはそれで(ちょっと漢字を変えて)軌跡なんでしょう。

 過去を振り返るのは好きです。文芸部のいろんな思い出は、かけがえのない友人たちと出会えた、その一人一人への回想の場所になっていました。

(あっ、大事なことですが、このアカウントは残しておきます。いつでも読みに来てくださいね)

 
 さっき、小説を書いているかどうかもわからない、と言いました。ただし、小説以上に打ち込めるものを僕は知りません。きっと、とても合っているんでしょうね。

 なぜこんなにも小説を書くのが楽しいのか?
 ……と、おもわせぶりに言ってみたものの、当の僕さえすべてをわかってはいません。あなたはどうでしょうか。



 小説の楽しさ、ほんのひとつに「世界が開けていく感覚」があるような気もします。

 人を知っていく、世界を知っていく、そしてその先に見えないなにかが光のように差している。たとえばちょっと暗い物語なんかも、根底はそんな気がします。

 想像の世界は、僕たちに決まりきったなにかを与えてはくれません。人によって、作品によって、受け取り方はさまざまですし、なにも得るものはなかった、これもまたひとつです。ときにはおおいに傷つくことだってあるかもしれません。
 扉を開けてみなければわからない。しかしだれか扉を開け、ページが開かれる以上、世界は必ず扉を開けます。このままならなさが、小説、文芸、そして創作なのでしょうか。

 
 ほんとうは、扉も鍵も、窓も、つくったままでよくて。
 そうは言っても今の時代……鍵あけっぱなし、さぁだれでもいらっしゃい! これが説明書で、こんな風に楽しめます! 所要時間は3分です! なんてのが必要とされている空気はひしひしと感じます。でもそればかりだと、息が詰まりませんか。

 僕たちは行列のできるお店を開きたかったのでしょうか。

 ちがう、と考える人たちが、僕の友人には多いかもしれません。

 ここに家がある、そしてその中に一冊のノートがあって、ここになにがしかの世界を書いたんだよ、と、それを知ってほしかっただけかなぁ、とか。
 

この世で一番優れた文芸作品があるとすれば、それはだれにも読まれない物語なのだと僕は思います。

 一年前に書いた「皿の上から望む夢」からの一文です。この自論は今でもまtttttttttttったく変わっていません。

 


 創作の楽しみを知っている人たちと友人になれて、ほんとうによかったです。同時にこの関係性はいくらでも流動するはずで、一生、などとはおこがましくて言えないけれど、「これまでも、これからも」という願いならいくらでも言います。

 ここにいてくれたあなたが、場所にとらわれず、家の鍵は持ったまま、今日もどこかで書いていてほしいです。

 ここから、どこへでも。
 その場所のひとつに、かつて文芸部がなれていたのだとしたら、こんなにうれしいことはありません。

 これまでこの部室を覗いてくれた方、入部してくれた部員のみなさま、かかわってくれたスタッフのみなさま、そして数多く生まれた作品たちへ。

 これまで、ありがとうございました。


 ではまたお会いしましょう。年末年始、あったかくして過ごしてくださいね。どこかへ行きたいとき、もどりたいとき、いつでもご連絡ください。


2020.12.30
note文芸部 部長/代表 神谷京介


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See you again!







 あっ……あと、その……



 最後に告知なんかしちゃったら最終回っぽくていいかも。
 唐突に、新番組のおしらせです。

 noteでの文芸創作の火を絶やしたくない、という発起人なみきかずしさん、よもぎさんの想い。実は文芸部の活動休止がきっかけでもあったそうです。
 僕自身、直接のかかわりはありませんが、このような経緯を教えてくれたこと、とてもうれしくて、陰ながら応援しています。6人の作家さんが書き上げた創刊号「あたためる」が現在発売中です!(無料でも読めますが、有料マガジン購入だとまとめて読めます、というシステムです)

 ちなみに運営のお二人からはなにももらってません。ステマじゃないです、個人的なシェアです~(なので文芸部代表、と〆たあとに書きました)

 よければ覗いてみてくださいね。

 ではほんとうに去ります~。ありがとうございました!



部誌作るよー!!