見出し画像

『ひと夏の人間離れ』(毎週ショートショートnote)

今年の夏は、深い森の中に忘れ去られたように
ポツンと佇むこの一軒家で誰とも会わずに
たった一人で過ごそうと決めていたんだ。
大量の食糧と僅かばかりの酒。それと大好きな作家の本。
携帯電話は置いてきた。
もとよりここは電波が届かない。
世間の喧騒から逃れ、ひと夏の人間離れってやつさ。

大きなプロジェクトを終え、
金と時間を持て余していたところだった。
「夏の間、祖父の別荘を使わないか?」
古い友人からの誘いは、まさに渡りに船。
他にも何か言っていたけど耳に入ってこなかったね。

で、いざ着いてみると、君だ。
そう、君がいたんだよ。
友人の置き手紙によると、君の世話をするのが家を貸す条件。
1日3食の食事と3時のおやつ。
夜は風呂にいれてベッドに寝かしつけるだけってことだが
「遊んでくれ」だの「散歩にいこう」だの
まったく一人の時間なんて取れやしない。

まぁいい、それも今日までの話さ。
明日からは一人の時間を満喫するさ。
さて、手についた泥を洗うとしよう。


<あとがき>
やはりお題は、単語を並べたものよりも
「○○の△△」や「○○い△△」のような形のものが書きやすいなぁ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?