真実の盗撮事件簿 第一章 二 盗撮ビデオを検証する

 当時の私の事務所は、和歌山市内の狭い二階建の建物であった。
一階部分は、探偵用の調査機器や防犯カメラなどを販売しており、二階部分が4畳程の資料や機材部屋と台所、そして7畳程の狭い部屋を調査部として分けていた。
 事務机とモニター・ビデオ機器・応接セットを置くと他のモノは何一つ置けないぐらい狭い部屋に協力者を呼び、簡単な経緯と主旨を説明し、業務用のVHSビデオデッキに購入してきたばかりの盗撮ビデオテープを入れ再生ボタンを押した。

 再生が始まると、海賊ビデオに関する注意書きの後、コピー防止警告・告知CМ・タイトルが順次映し出された。浴場の臨場感を出すためか、ざわめく声と共にまだ若い女性達が脱衣所で服を脱ぐシーンがアップで映し出される。一般に販売されているアダルトビデオと同様に、被写体となる女性の顔には一切モザイク処理はされておらず、またアンダーヘアー部分においても同様に画像処理などはされていない。それより通常のアダルトビデオとは違い、下着の痕が妙にリアルだった。

 ビデオの内容が進むにつれ、小学生位の子どもの声、スクール水着のような日焼けの後がクッキリとついたあどけない中高校生ぐらいの少女、OL風の女性達のたわいもない会話、年配の女性など、年齢に関係なく混雑した脱衣所と思われる場所で撮影された映像がモニターいっぱいになった。ただ、一部の場面にはモザイク処理がされており、老婆と思われる女性や、太った女性と思われるシーンには、字幕で「見苦しい場面には修正を入れております。」とテロップが流れる。
 
 それと、遠くに聞こえる店内アナウンスなどがリアルな感じがして印象に残ったのだった。
「これは本物か、偽物か」を考える前に、何点かの疑問が私の中にあった。
第一の疑問、一本の盗撮ビデオを作成するにはいったいいくらの制作費が掛かっているのだろうか?という素朴な疑問である。

第二の疑問、映し出されるシーンのどの場面をみても手の凝った浴場施設さながらのセットである。「本物さながらの浴場施設の風景」を演出するためには、脱衣所の装備品から浴室までどれを取っても本物さながらの迫力にはビックリしたのはいうまでも無い。
 
 先にも書いたのだが、一本の盗撮ビデオの中には数件の異なる施設の映像が映し出されているのだから、別々にセットを組んで撮影するとしたら、膨大な制作費が掛かっているのだろうか…。

 第三の疑問、地域に密着した「癒しの空間」を売り物にしている浴場施設が卑猥な盗撮風ビデオの撮影をするためにその施設を提供するだろうか?という素朴な疑問である。
 
 私は、全てのビデオを見終わった頃を見計らい、感想や疑問点を聞いたところ、全員が私と同じ疑問を感じていた。
 その疑問点についてそれぞれの意見をぶつけ合った結果、私達が最終的に行きついた答えは、「これがもし本物だったとしたら」と考えると、全ての疑問は解決するという自然な答えに行き着いた。
 
 出演の女性に対する出演料0円+大掛かりなセット作成費用0円かつ制作に掛かる費用0円で作品のベースを作る事ができる。
例え撮影犯の人件費+機材台を経費として考えたとしても、撮影の都度に機器を購入する訳でもなく、最低限の人件費で賄えるのだから、製作側としてはこれ程利益率のいい商売はない。全員一致の答えとして、「盗撮ビデオは限りなく黒に近いグレー」という答えにたどり着いたのだった。

 さらに当初の目的である「和歌山県下で撮影された盗撮ビデオ」を探すためには一体何本の盗撮ビデオを購入しなくてはならないのだろうか?

 1本一万円以上する盗撮ビデオを何本も購入する余裕は弱小企業の当社にはない。解明するためには、いったい何処から着手して何処を着地点にすればいいのだろうか?私は答えの出ないままその場を一旦終了したのだった。

 それから仕事の合間を見計らって、日々セルビデオ販売店回りを繰り返した。和歌山市内から海南・有田方面のビデオ店を訪れ、情報がないと解れば紀北筋を橋本方面へ、岩出・打田・粉川と上がり、端に行き着くと今度は泉南の岬町から泉佐野・貝塚・岸和田・鳳・堺方面へと、セルビデオ店舗一軒一軒を徹底的に調べて周り、情報収集に明け暮れた。

 店舗によって入手先も違うし取り揃えている商品数もかなり違う。
それは調査当初の段階で感じていた。

 通常のアダルトビデオに重点を置き販売している店から一部のマニア向け商品に力を入れている店もある。
 
 私達は、盗撮商品の販売に力を入れている店舗を数週間がかりで探し回った。一軒の店舗で得た情報を元に二件目の店舗へ行き、盗撮マニアのフリをして、少しずつ情報交換を繰り返したのだった。

 盗撮ビデオに主力を置いている店では、店員に対し盗撮ビデオで得た情報と、探偵流撮影手口とを掛け合わせ「あたかも自身でも撮影している」マニアのような振りをして、情報を収集して回った結果、気がつけば私の手元には数十本の盗撮ビデオといくつかのヒントとなる情報が集まっていた。
つづく・・・


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