◎湯あたりって何?
温泉が好きだ。
昨年、自宅から車で15分圏内に公共浴場を見つけてしまってから、
狂ったように温泉に通っている。
温泉の好きポイントはたくさんあるのだけど、
どこの湯に行ってもつい確認してしまうのが、濃度の濃い温泉によく貼ってある【湯あたり注意!3分を目安に出ましょう】という注意書きだ。
これぞ本物の温泉の証!という感じでついつい惹かれてしまう。
通い始めた当初は、看板通りに入らねばなんかえらいことになるのではないかと思い、律義に3分で出たり入ったりを繰り返していた。
しかし冬になると3分で出るとなかなか寒いということもあり、
5~10分入ることも増えたが、それでも湯あたりらしき症状は出ることはなかった。
そのため、
「なあんだ、一応のために大げさに言ってるんだなあ~」
と常々思っていた。端的に言うと温泉をナメていたのだ。
◎湯あたりってなに?立ち眩み?
ちなみに、看板に書いてある『湯あたり』というものの意味を、私はよく理解していなかった。「ぜーんぜん関係ない。だって若いし!」みたいな感じで思っていたのだ。
気になって調べると、「吐き気・頭痛・めまい・発熱など」の症状が出るらしい。
この中で唯一当てはまるとすれば、「めまい」かな?と思った。
お湯から上がると、クラっと立ち眩みすることがある。
しかし、これが湯あたりかと思って調べてみると、どうやら少し違うらしい。
湯船に浸つかって温まっている人間の身体は、血管が拡張して血流が多くなる。この時、もちろん頭に流れる血流も増える。
しかし、この状態から急に立ち上がると、重力の関係で一気に脳の血流が減ってしまい、くらっとなるらしい。これが立ち眩み。
何も温泉に限ったことではなく、自宅の湯船でも気を付けた方がいい症状だ。
ちなみに、立ち眩み防止には「できるだけ頭を地面に近い角度&位置にして湯船から出る」というのがあるらしい。
…貞子だ。
こんな湯船の出方を普通の温泉でやったら「あいつどうした」と思われてしまう。無理だ。
そんなことを考えつつ、「まあ立ち眩みするけど大丈夫でしょ!めまいとは違うらしいし!湯あたりじゃないっぽい!まだまだ若いし!」と思っていた。
◎これが湯あたりだ!
しかし、ついにその時が訪れる。
それは、高濃度の露天風呂に入り、「星きれ~」などと思いながら3~4回出たり入ったりを繰り返した日だった。「さあ出よう」と湯船から出て、脱衣所に入った時のことだ。
最初はなんてことはなく、ちょっと視界が揺れるなあくらいだった。
何なら「立ち眩みのバリエーション増えたな」くらいに思っていた。
それがめまいだと気付いたのは、脱衣所の風景がぐにゃぐにゃに曲がり始めたからだった。
「あれ…?これなんかおかしくない…?」
そう思っていたら、次は目の前が真っ黒になってきた。
目の端から円形にぞおおおおお~っと視界が黒で埋め尽くされていく。
そこでやっと気づいた。
「あ、これはやばい」
自分の衣服が入っている棚を両手でガッと掴む。
視界は真っ暗で、でも世界は揺れている。
なんなら耳の血管に血が猛烈に流れている音もする。
どっくんどっくんどっくんどっくんどっぐわんぐわんぐわんぐわん…
…うるせえ!!!!
そうして少し前かがみになると、次は猛烈な吐き気が襲って来た。
…やばい。
もんんんんんんんんんんんんんのすごい吐きそう。
自分に何が起こっているのかわからない極限状態で、
「ああ、終わった」と思った。
これ、倒れるしかないわ。
でも、まだ少しだけ残っている理性が必死に意識に訴えかけている。
「裸で倒れて介抱されるのだけは避けろ!!!!!!」
真っ黒な視界に、吐きながら倒れている自分の醜態が浮かんだ。
だめだ!!
それだけは何としても避けたい…!!!
残った力を振り絞り、イスがあったはずの方向へ歩を進めると、ひざにガンッと何か当たる感覚があった。
そこを必死で手でつかみ、這うようにして椅子に座った。
「ふううー…っ ふうー…っ」
ジョーが燃え尽きたのと同じポーズで、バスタオル一枚で目をつむり呼吸を整える。
どれくらい経っただろうか。そうしているうちに、静かに波は去っていった。
その後、私は症状を調べて驚愕した。
「あ、あれが湯あたりか…!」
と、そこでやっと気づいたのだった。
初めて経験した湯あたりは、言ってみれば
「身体の中でなんかすごいものがどんどこ暴れている感じ」だった。
どこが悪いとかではない、
とにかくむちゃくちゃ気持ちわるい。
愛していた温泉に、一回こっぴどくふられたみたいな気持ちになった。
まだ湯あたりを経験したことがない方、聞いてください。
それは経験しない方がいいです。
ぜひ、温泉の看板に従って、無理のない入浴を楽しんでください……。
(もしから③ 湯あたりって何)