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Spotifyが日本に来るので語ってみる。

 ついこの間、「時代は完全にストリーミングになっている」という話を書いたばかりなのだけど。


 何度も「今度こそ本当に上陸するらしい」という知らせが舞い込んできては、「そういえばそんな話もあったね」と、いつの間にか忘れていた。世界的に音楽業界に革命が起きていた"はず"なのに、日本におけるストリーミングサービスは「音楽好きが使うもの」みたいな位置付けになっていた。そうか、音楽にお金を払う人の方がこの国では少数派なんだ。と思っていた。

 「今はライブの時代だ」という割には、「音楽ライブ市場が3000億円を超えた」という割には、Frank OceanもKanye Westも向こう数年日本にやってくる気がしない。海の向こうでは国民的スターのDrakeは、この国ではすっかりマニアックな音楽好き達の酒の肴になっている。

 Spotifyが日本に上陸する。今度こそ、本当に上陸する。もしかしたら、今までの状況が少しでも、変わってくれるかもしれない。

 音楽好きの間では、今まで日本で使えなかったのに圧倒的な知名度を誇るSpotify。そもそも何故、これほど長い間に渡って彼らはSpotifyを語り続けたのだろう。僕自身、Spotifyを使っていた事があるので、その辺りも交えて書いていこうと思う。

 Spotifyはいわゆる「定額制の音楽ストリーミング・サービス」である。つまり、ざっくり言えば、「好きな時に、好きなだけ、音楽が聴けるサービス」だ。もちろん使うためには条件がある。Spotify以外のストリーミング・サービスは、その多くが「毎月利用料を払ってね」という課金制を導入している。

 とはいえ、WEBサービスは実際に試してもらわないことには話が始まらない。だからこそ、どのサービスも「最初の数ヶ月間は無料で、その後はお金を払ってね」という仕組みを導入した。結果は悲惨だった。正確なデータは明らかになっていないが、現在、AWAやLINE MUSICのユーザー数は10万人程度と言われている。

 Spotifyが導入しているのは、「フリー+プレミアム=フリーミアム」という考え方だ。他のサービスと同様に、有料会員はパソコンからでもスマートフォンからでも自由に音楽を楽しむ事が出来る。Spotifyの特徴は、お金を払わなくても、時々広告を見る事で音楽を自由に楽しむことが出来る事である。無料の分は広告費で利益を出すというビジネスモデルだ。とはいえ、他にも制限はある。例えば音質は少しだけ下がるし、スマートフォンで聴く時にはプレイリスト/アーティスト別のシャッフル再生しか選べない。とはいえ、無料で音楽を最初から最後まで楽しむ事が出来る。それもミュージシャンにお金が入る形で。

 そして自由にシェアをすることが出来る。それを見た人は、たとえ非会員でもtwitter上で、Facebook上で聴く事が出来る。ブログに埋め込む事だって出来る。もちろんフルというわけにはいかないけれど、4分の長い動画をtwitterに投稿するよりも、楽曲の一部を30秒間投稿する方が、受け取る側にも負担がかからない。何より、アルバム曲だろうとカップリング曲だろうと聴いてもらう事が出来るのだ。音楽を聴いてもらう時の敷居が少しでも下がるかもしれない。

 はっきり言って、日本における音楽メディアは一部のシーンを除いてほとんど機能していない。音楽メディアは音楽好きのために、あるいは今残っているシーンを残すために存在している。より内向きに、より閉鎖的になっている。枠を超えることが、更に難しくなってきているように思う。

 それどころか、今や海外の音楽に関してはもはや国内盤が存在しないケースも増えているため、国内のレコード会社やCDショップが宣伝することも出来なくなってきている。2016年現在、音楽を宣伝する役割を担うのは、他ならぬファンである。Frank OceanやKanye Westの来日を待ち続けているファンである。Spotifyは、宣伝するための強力なツールになるかもしれないのだ。

 とはいえ、別に音楽好きに「Spotifyを使って宣伝しろ」という脅しをかけているわけではない。Spotifyを使う理由は他にも沢山ある。

 例えば、身近なところでいえば、最初にSpotifyを使った時にはそのロード時間の短さに驚くはずだ。Spotifyはロード時間を短くする事に多くの労力を注いできた。だからこそ、Apple Musicでは最初の楽曲再生に1~2秒ほどかかるところを、Spotifyは一瞬で再生してしまう。使ってみると、これがかなり気持ち良い。

 ストリーミング・サービスにおける重要なポイント、プレイリストにおいてもSpotifyは驚異的な充実ぶりを誇っている。例えば他のストリーミング・サービスでは、エレクトロニック・ミュージックにしても、「派手なやつ」、「地味なやつ」、「新しいやつ」、「古いやつ」のような区分になってしまう。あるいは、AWAなどで顕著だが、ユーザーが作るプレイリストに関しても、あくまで有名な楽曲しか並ばない。

 Spotifyの場合、例えば「コーヒーを飲んでいる時に最適な音楽」であったり、「シャワーを浴びている時に歌いたくなる音楽」といったプレイリストが並んでいて、聴いてみるとこれがまさにその通りの楽曲だったりする。ありがちな「集中したい時のための音楽」にも様々なアプローチのプレイリストが並ぶ。例えば、穏やかなクラシックや、自然音を用いた電子音楽といった具合に。常にSpotifyは、その都度「知らなかったけれど、その時のムードに合う良い感じの楽曲」を選んでくれる。人工知能を使った、オススメの楽曲を教えてくれる機能なんて当然のように存在している。

 一方で、流行の楽曲を押さえておきたい人にとっても重宝するだろう。何せSpotifyの有料会員数は全世界で4000万人である。1ヶ月の間に使う人の数は1億人を超えているとも言われている。だからこそ、チャートの信頼性は絶大だ。Spotifyのランキングを上から聴いていけば、すぐに流行を追うことが出来る。更に国別のランキングが用意されていて、例えばマレーシアやフランスのTOP40を聴く事だって出来るのだ。これは結構面白い。

 他にも操作の分かりやすさや、他の機器との連携など、他のストリーミングサービスよりも優れている点は数多く存在する。正直なところ、僕は現在Apple Musicを利用しているけれど、その利点は「Apple Music限定配信」と「Beats 1 Radio」、そして「iPhoneのミュージックアプリからすぐに選べる」点のみだ。普通に音楽を聴く分には、Spotifyの方がずっと便利だし楽しい。

 そもそも、現在のストリーミング・サービスの状況を作り出したのはSpotifyである。Spotifyがスタートしたのは、今から10年前の2006年。アメリカに上陸したのが2011年だ。Apple Musicも、Google Musicも、Amazon Prime Musicも、勿論AWAもLINE MUSICも、Spotifyの状況に対抗するために生まれたものである。しかし、Spotifyは最後にやってきた。そして、その理由は、Spotifyが今なお最強のストリーミング・サービスとして影響力を持つ理由でもある。

 「無料で、合法で音楽を聴く事が出来る」。CDの時代はついに終わる。価値観が変わる時が来た。


(余談)

 まあ大きな事書いてますけど、懸念することが3つありまして。招待コードが届いたので、実際に日本版を使った感想も含めて書いていくと、

1. 邦楽のラインナップ

 これは何度も色々なところで書かれてますけど、例えばMr.ChildrenやSMAPの曲が全曲聴けないと、日本でのストリーミングサービスってほぼ意味が無いんですよね。大多数の人が聴きたい曲が聴けないわけですから。

 楽曲のラインナップは、サービスの明暗を分ける上で最も重要な要素です。現在、世界最大のストリーミング・サービスはSpotifyで、2位がPandora、3位がApple Musicです。そして、昨年開始したばかりのApple Musicがここまで成長した理由の一つとして、もちろんApple/Beatsのブランド力やiPhoneユーザーの多さは大前提として、「唯一、Taylor Swiftの曲を聴けるストリーミング・サービス」である事も大きな理由の一つです。広告にも出演しています。

 だからこそ、とにかく楽曲のラインナップは重要。正直、今の時点ではかなり弱いです。11月の正式リリースまでにラインナップが増えないと、相当厳しいのではないでしょうか。更に言えば、今後Spotifyの広告展開に誰が起用されるのかも含めて注目です。

2. スマートフォンでの機能制限

 正直、「無料会員は、スマートフォン使用時、プレイリスト/アーティスト別のシャッフル再生のみ可能」ってとんでもなく不便ですよね。特に、好きな曲を深く聴く傾向が強いらしい日本だとちょっと辛い。例えば、三代目 J Soul Brothersの「R.Y.U.S.E.I」を聴きたいなと思っても、「O.R.I.O.N. -Maozon @ ASYtokyo remix-」や、「Summer Madness (Instrumental)」とかが流れていつまでたっても聴けない!みたいな事も有り得る。

 「じゃあ有料会員になろう!」って人が増えるかどうか、これは実際に蓋をあけてみないと分からないです。とりあえず、無料版を利用していて思うのは、「何よりも有料会員への移行を促す広告がウザい」ことです。

3. 「広告」嫌いのユーザー

 僕たちがtwitterやFacebookを無料で使うことが出来るのは、会社が広告によって収益を得ているから。ただ、今ひとつ「完全無料のビジネスモデルは慈善事業じゃない限り不可能」っていう考え方が浸透していないからか、それらのサービスに対して「広告がウザい」って思う人々がいるのも事実。Spotifyに対しても、同様の理由で敬遠する人々は結構いるのではないでしょうか。

 「そう思う人はそもそも購買層じゃないのだから気にする必要はない」という意見もありますが、忘れてはいけないのは、彼らは確かに「音楽を聴きたい」と思っているという事です。

 ストリーミング・サービスにおける最大の敵はダウンロードサービスでもCDでもなくて、YouTube等を使った法的にグレーな無料音楽アプリです。

 はっきり言って、Spotifyでダメだったら、もう対抗する手段はありません。

 ちなみに「もっと詳しく色々知りたい」という方は、榎本幹朗さんがMusicman-netで連載していた「未来は音楽が連れてくる」を読んでみてください。2012年から現在まで続いていますが、今の音楽業界を語る上で、最も重要な文章です。YouTubeではミュージシャンが食っていけない事もしっかり書かれています。


 それと書いていて思い出したのでもう一つ付け足すと、


4. そもそも、もうみんなそこまで音楽聴かないんじゃないか問題

 これ一番大事かもしれない。でもどうすればいいんだろうね。

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26歳の会社員。趣味で音楽の事を書いてます。第一回「rockin'on presents ONGAKU-BUN 音楽文大賞」入賞。 連絡先 : neu_mura@outlook.com

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【Musicman-netで連載していた「未来は音楽が連れてくる」】のリンク
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