ソクラテスの死こそが最高善?~ユウと僕「ソクラテスの弁明編③」~

 図書館で「ソクラテスの弁明」を借りたのは金曜日。そして3日後の月曜日。通学中ユウとその話となった。

ユウ「お前読んだ?」

僕「まだ途中。」

ユウ「俺もだな。まぁ、もともとそんなに分量はないけど、やっぱ時代が違うと飲み込みづらいところはあるな。」

僕「なんたって二千年以上も前だからね。」

ユウ「そうだな、二千年以上前だって考えたら、ちょっと感動するな。」

僕「なにが?」

ユウ「なにがって、お前は感動しないのか?」

僕「いや、僕も感動してるけど、一緒な理由なのかと思って。」

ユウ「お前はどう思ったんだ?」

僕「二千年も前だと文化も習慣も言語もテクノロジーも何もかも違うじゃん。さらに僕ら日本人だから、よりそこには障壁があると思うんだ。でも、それでも僕らに語りかけてくるものがあるって、哲学というか、人文学っていうのか、そういうのも底力を感じるなって。」

ユウ「俺もいっちょどんなものかお手並み拝見ってな感じで読み始めたけど、なんか襟元ただしちゃうところはあったな。」

僕「ちなみにどこまで読んだ?」

ユウ「告発者のメレトスだっけ、あいつがボコボコにされてるところ。」

僕「あー、じゃぁ、一緒なくらいかな。」

ユウ「読んでてメレトスが気の毒になるくらいだな。まぁ、ソクラテスも自分の身に危険が迫ってるから、人のことなんて言ってられないけどな。」

僕「どう、実際のソクラテスの語り口を聞いてみて?」

ユウ「うん、むかつくのには変わりねーな。」

僕「それはそうかもね。それが原因で告発されてるからね。」

ユウ「けどまぁ、あの語り口は現代社会でも通用しそうだよな。自分を落としておいて、相手を刺すみたいなあの論法。」

僕「うん、論破しようとするとあの語り口になるだろうね。」

ユウ「ちなみにお前はソクラテスが水戸黄門だの言ってたが、あの印象はどうなった?前は入門書的なところでそう思っただけなんだろ?」

僕「あぁ、うーん・・・。難しいな。」

ユウ「どこが?」

僕「前もモヤモヤするとは言ってたと思うけど、両方の側面はやはりあるのかなって。」

ユウ「なんだ?」

僕「ソクラテスは配慮とか言ってたけど、やっぱりソクラテスはよく考えていたのは間違いないと思うな。それは僕もキラキラとあこがれるというか、純粋にいいなって思う。けど、僕はソクラテスみたいに善についてそれを求めることができないんだ。それがないものだと感じちゃうから。けどソクラテスはその存在を信じてやまないと思うんだ。そこの善の存在を信じてやまない部分がナイーヴっていうか、なんかね・・・。」

ユウ「ソクラテスの時代に感情移入してみたら、お前の言い分もわからないではないな。けど、今の視点から見ると、バカバカしいことをやってるなとは思はないか?善とかなんて単なる決まり事ぐらいだろ?」

僕「ほんとに善を単なる決まり事ぐらいに思ってるの?」

ユウ「そんなもんだろう。」

僕「そっか・・・」

ユウ「俺はソクラテスがなんだかんだ気に食わないのは、あの粘着質なやり口だな。神様から『ソクラテス以上の知者はいない』って言われて、無知の知、いや不知の自覚か、それに至ったのいいさ。そこはかっこいい展開というか、弱点が一気に強みに変わるっていうなんかドラマチックなものは感じるのは認める。ただそれを証明するために、いろんな人のところに出向いて、あいての不知を暴くってのは、やっぱり性根が曲がってるとしか言いようがないと思うな。」

僕「僕はそこまでは言えないな。独善的な部分はあるだろうけど、善のためにそうしていたのだから。」

ユウ「なんだ、意図が正しかったらなんでもやっていいのか?」

僕「そうじゃないけど・・・」

ユウ「神の信託を証明するって大義名分で、論破して楽しんでたって言われても仕方ないね、ありゃ。」

僕「まぁ、そうかもね・・・」

ユウ「あぁ、ソクラテスがもしアテナイの皆さんに不知を自覚してほしかったら、もっといい方法を考えるべきだったな。」

僕「いい方法って?」

ユウ「すぐには思いつかないけど、相手のメンツがつぶれないくらいの方法もあったんじゃないか?」

僕「いや、ソフィストたちは善とか徳について知っていますって顔で商売をしてたから、それに水を差すにはああする以外、なかったんじゃないかな。」

ユウ「恨みを買うとわかっててやるのもばかばかしいような。」

僕「これは本にあったと思うけど、人生で大事なことは、自分の損得や生死を考えて生きるんじゃなくて、善についてだけ考えて生きることだって。」

ユウ「まぁ、俺からしたら、ソクラテスさんがそんな高尚なことを考えて行動される分には、かまわないぜ。だが、俺の人生までもそんな価値観を押し付けてほしくはないね。」

僕「けど、ソクラテスが自分の死を顧みず善く生きたからこそ、哲学って伝統が成り立ったて思うと、それこそがソクラテスが行った最高の善だって考えもできない?ソクラテスはそう意図しないまでも。」

ユウ「・・・おれもことさら人の死を馬鹿にするつもりはないがな。」

 そうこうしている間に学校に到着した。喧々諤々議論していたが、二人で話し合い、この続きは今週末にすることに決めた。まだ全部読んではないし、こういう風に話し合っても埒が明かないと感じたからだ。

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