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松本 啓/素ヱコ農園

法人名/農園名:株式会社sueco/素ヱコ農園
農園所在地:佐賀県伊万里市
就農年数:2年
生産品目:平飼いの採卵鶏「ごとうもみじ」の卵生産、飼料用米作り
HP:https://suecofarms.com/

no.19

大好きな婆ちゃんの元で、循環型農業を実践。田舎から新たな価値観を!

■プロフィール

 中学から高校までの6年間を伊万里市黒川町で農業を営む祖母、末子さんに育てられる。

 佐賀大学農学部進学後は、生命機能科学科でタンパク質などの研究に携わりながら、3年生の時にオランダとパラオに留学し、最先端の農業技術を体験したり、農業メディアでライターとして取材を経験。

 オランダでは、アニマル・ウェルフェア(動物福祉)に配慮して、持続可能な方法で飼育された養鶏や畜産が普及していることに感銘を受け、循環型農業に強い関心を持つようになる。

 2020年の卒業後は、愛知県のハーブ農家で研修したのち、伊万里市にUターン。オランダで知った平飼い養鶏なら循環型農業が実現できると、佐賀県北部の脊振(せふり)町で、堆肥の発酵熱を利用した自然養鶏法を実践している先輩農家のもとで技術を学ぶ。

 耕作放棄された農業用ハウスがある土地を借りて、クラウドファンディングで集めた開業資金を元に、自分たちで養鶏のための環境を整える。

 自然由来の餌にこだわって米作りを始め、地元の豆腐屋や魚屋などから出るおからや米ヌカなどを、低コストで仕入れることを可能にした。

 2020年11月、「ばあちゃんの昔たまご」として発売を開始。2022年2月には法人化して、中学時代の同級生が入社し、規模拡大に弾みをつけた。

 農園の取り組みが、日本のアニマルウェルフェアの事例として、NHKの国際放送や佐賀新聞、TBS、KBC九州朝日放送などで取り上げられる。

■農業を職業にした理由

 大学3年生の時に留学したオランダで、効率優先の最先端の農業技術に触れるなか、機械化され、外国人労働者に依存した大量生産の農業に疑問を抱くようになる。

 一方で、消費者の間では、環境や動物へのストレスを軽減した農産物を選ぶ考えが普及しているようすを知って、理想とするのは循環型農業だと考えるようになった。

 帰国後は、大手企業への内定を蹴って、愛知県のハーブ農園で研修を受けたのち、祖母と暮らした伊万里市黒川町にUターンして就農。まずは祖母が育てた水菜やスベリヒユなどを飲食店相手に販売しようと考えたものの、2020年のコロナ禍ということもあり、経営の厳しさに直面する。

 オランダで体験した平飼い養鶏なら、限られた農地でも収益が見込めるうえ、循環型農業も目指せると気づき、養鶏農家で技術を学びながら、7年間放置された農業用ハウスがある耕作放棄地を借り受ける。

 クラウドファンディングで開業資金を調達しながら、手作りで鶏舎を立てて、2020年9月に鶏を導入。3カ月後に飼養頭数を200羽に増やし、SNSを通じて「ばあちゃんの昔たまご」として売り出したところ、首都圏を中心に人気が集まるようになった。

■農業の魅力とは

 オランダでは、スーパーマーケットなどの小売店で平飼いの卵が当たり前のように売られていましたが、消費者は「安心・安全」や「美味しさ」だけでオーガニック食材を選ぶのではなく、「地球や動物への負担が少ない」という理由で購入する人が多いのが印象的でした。

 鶏は育雛(いくすう)農家から購入したヒナが、孵化から150日ほど経過したら産卵を始めますが、体調が悪くなれば産卵しなくなりますし、産卵を開始してから約1年も過ぎると、ホルモンの関係で羽が抜け替わって休産期に入るなど、思うようにいかないこともたくさんあります。

 鶏が休産期に入ると、10日ほど絶食させて「換羽誘導」する農家もおりますが、僕は自然のサイクルに合わせて、通常通り餌を与えていますし、その餌も地元で採れるくず米やおがくず、米ヌカ、いりこなど自然由来にこだわって、豆腐屋や精米屋、魚屋から仕入れています。

 また鶏糞が発酵する時の熱を利用してヒヨコを育て、できた堆肥は米作りに利用するなど、すべて自然を生かして、自然に貢献する形で農業をしています。

 平飼いの卵は一般的な卵に比べると、手間がかかっているぶんだけ、割高ですが、飼育情報をすべて公開することでお客さまから理解を得ています。東京など首都圏のお客さまからは「味が濃くて、クセや臭みがまったくない」と高い評価をいただいております。

■今後の展望

 現在、純国産鶏の「ごとうもみじ」を、ヒヨコも含めて1,500羽飼養しており、1日あたり700〜800個の卵を出荷していますが、最終的には2,000羽まで増やして、卵も倍以上に増やすことを目標にしています。

 日本の採卵農家の9割がケージ飼いをしており、1羽あたりの飼養面積はB5コピー用紙1枚分という過密状態ですが、ウチでは1㎡に1羽という自然に近い伸び伸びした環境で育てています。

 採卵は人の手で行わなければならないですし、害獣被害や鳥インフルエンザ対策など管理には手間がかかりますが、僕の農園を通じて、地方で暮らしたいけれど、仕事が見つからないと悩む若者たちが主体的に働ける場所にしたいと考えています。

 2022年には、大学生や高校生のインターン研修の受け入れや、障がいを持った人たちを対象にした1週間の職場体験を実施しました。留学先のオランダでは、先進的な大規模農場化が進む一方で、小規模農家が「ケアファーム」など多面的な農業活動を行なっています。

 今後は農福連携にも積極的に取り組みながら、傷ついたりして売り物にならない卵を利用して6次化など加工にも挑戦していきたいと考えています。

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