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ピアノ・フュージョン史に燦然と輝く大名盤 David Benoit "Freedom At Midnight"

こんにちは!!!
Everyday Fusion!!!、第4弾の記事でございます!!

先日、元号が「令和」に改元され、新たな時代を迎えようとしておりますが、前回の最後でアナウンスしたジャンルの中から今回ピックアップする作品は、「ピアノ・フュージョン史の新たな時代」をもたらした大名盤

David Benoit "Freedom At Midnight"(1987)

でございます。

初回は僕が初めて知った思い出のフュージョンとしてLee Ritenour "In Rio"をピックアップし、ここ2回分の記事で取り上げた作品(Howe/Wooten/Chambers "Extraction", Simon Phillips "Protocol Ⅳ")はどちらも「ハードフュージョン」に分類される作品でありましたね。

しかし、今回の作品はそれらとは比較にならないくらいの知名度を誇るといっても過言ではないアルバムでございます。今回のテーマとした「ピアノ・フュージョン」のみならず、フュージョン史上でも有名なアルバムであり、フュージョン本でもピックアップされていたりします。

「フュージョン」という音楽、元を辿ればMiles Davisによる "In A Silent Way"(1969), "Bitches Brew"(1970)、いわゆる「エレクトリック・マイルス」にルーツを持っており、1970年代にはLee RitenourLarry CarltonDavid Sanbornといったスタープレイヤーが出てきました。それを考えると本作品のリリースされた1987年はフュージョン全盛期からは少なからず外れており、90年代という「FMで流してもらえる」ことを第一に考えた商業ベースのスムースジャズの時代にもほど近いですね。

ちなみに、巷で売っているフュージョン本の表紙を見てみると、フュージョン黎明期のアルバムが割と多く掲載されており、「ジャズ・ロック」の域を抜け出せていないようなアルバムが多い印象であります。すなわち、1987年くらいの年のアルバムは少ない感じなので、本作品も掲載されておりません。これ、個人的には「うーん、、、」と思います。

現代ジャズ最高峰のピアニストの1人、Robert Glasperは、新しい潮流のジャズに耳を貸さないような頭の凝り固まったジャズファンを「ジャズ・ポリス」と揶揄していますが、フュージョンのディスクガイドの選定者はある意味「フュージョン・ポリス」であるのかもしれませんね。もし、僕がフュージョンのディスクガイドを作るなら、現在流通しているディスクガイドの表紙に掲載されているアルバムは、あまり選ばないかな。。。

何が言いたいかといいますと、本作品は一聴してフュージョンの心地よさや美しさを感じられるような傑作であるということです。

キャッチーで容易に口ずさめるようなメロディーラインキラキラとした音色といった点もさることながら、ジャズスタンダード曲やストリングスを取り入れた、深遠なサウンドトラックのような曲もあり、ジャズにルーツを持ち、映画音楽も手がけるというDavid Benoitの造詣の深さを感じさせる作品でもあります。すなわち、90年代の「売れればいい」「FMでかけてもらえるような」商業ベースの音楽とも一線を画すと言えます。

それでは、深い音楽的な教養に裏打ちされたフュージョン作、と言える本作品の主人公、David Benoitについて軽くご紹介いたしましょう。

【Daivid Benoit(デイヴィッド・ベノワ, 1953~)】

1953年、ロサンゼルス生まれのジャズ/フュージョンピアニスト。

彼のキャリアは、アメリカのインディーレーベルであるAVI Recordsからスタートします。初めてのリーダー作品は1977年、AVIよりリリースされた"Heavier Than Yesterday"であります。このレコードはその後、再プレスされており、彼のAVI時代の作品の中で最も入手がしやすいものであります。今でもディスクユニオンでは比較的簡単に買うことができます!
(1977年のオリジナル盤ですとそれなりに値段が張りますが、、)

"Heavier Than Yesterday"については1つ特筆すべき点があります。それは、本作品の6曲目に収録されている"Life Is Like A Samba"であります。
何に注目すべきかといえば、なんとこの曲、AVIによってDJ用にシングルカットされて使用されているという点です(ちゃんとBPMまで表記されているので確実にDJ用のはずです)。
曲名の文字通り、サンバのビートに乗って軽快な歌やメロウなピアノが流れるこのブラジリアン・フュージョン曲、いかにもクラブのフロアを盛り上げられそうな感じがしますよね!今でもヤフオクなどで、比較的高いですがオリジナルのレコードは出品されていたりしますよ!

そんな彼は1980年にAVIよりソロ2作目"Can You Imagine"をリリースします。タイトルソングは非常にメロウな名曲でして、昨年の来日公演でも聴くことができました。途中から一気にジャズの4ビートに変わるという展開も秀逸な曲であります。

そして、同AVIより"Stages"(1982), "Digits"(1983), "Chiristmastime"(1983)と立て続けにリリースしていきます。その中でも1982年リリースの"Stages"には特に名曲が詰まっておりまして、来日公演でも演奏されたタイトルソングをはじめ、彼が敬愛し、史上最高のジャズピアニストの1人でもあるBill Evans(1928~1980)へのオマージュである"I Remember Bill Evans"も収録されております。ちなみに、彼はのちに"Letter To Evan"(1992)という、純ジャズピアノトリオ作品でありBill Evansへのトリビュート作品をもリリースしております。

その後、AVIを離れたDavid Benoitは、ジャズ・フュージョン界の大物ピアニストであり、プロデューサーでもあるDave GrusinLarry Rosenが設立した、フュージョン専門のメジャーレーベルであるGRP(Grusin Rosen Production)に移籍します。そこで発表した作品、"Every Step of the Way"(1989)が、なんとグラミー賞にノミネートされたのです(Best Contemporary Jazz Performance)。タイトルソングは非常にメロウで明るく、本作品収録の"Freedom at Midnight"に匹敵するような名曲であります。

それ以降は2年に1枚程度のペースでコンスタントにフュージョン作をリリースしていきます。以下、それ以降のソロ作品のディスコグラフィーをご紹介いたします。

"Waitiong For Spring"(1989)
"Urban Daydreams"(1989)
"Inner Motion"(1990)
"Shadows"(1991)
"Letter To Evan"(1992)
"Shaken, Not Strred"(1994)
"The Best of David Benoit"(1995)
"Remembering Christmas"(1996)
"American Landscape"(1997)
"Professional Dreamer"(1999)
"Great Composer of Jazz"(2000)
"Here's to You, Charlie Brown: 50 Great Years"(2000)
"Fuzzy Logic"(2002)
"Right Here, Right Now"(2003)
"Orchestral Stories"(2005)
"Full Circle"(2006)
"Standards"(2006)
"Heroes"(2008)
"Jazz for Peanuts"(2008)
"Earthglow"(2010)
"Conversation"(2012)
"2 in Love"(2015)
"Believe"(2015)
"The Steinway Sessions"(2017)
"So Nice"(2017)

と非常に多くの作品を発表してきています。このような膨大なソロ作品の他にも、フュージョンバンドであるThe Rippingtonsのリーダーであり、ギタリスト、プロデュースも行うマルチ奏者、Russ Freemanとコラボレーションした "The Benoit/Freeman Project"1994年2004年と2作品リリースしております。こちら2作品も非常に完成度の高い、素晴らしいフュージョン作品に仕上がっております。

それでは、ここからは本アルバムに収録されている曲の中から選んだ、珠玉の曲を数曲ご紹介いたします。

M-1  "Freedom at midnight"

本アルバムのタイトルソングであり、ピアノフュージョンを代表する超名曲であります。非常にキャッチーで誰でも口ずさめるテーマ、コーラスを掛けたバッキングギターの織りなすキラキラ感とグルーヴ感、シンプルながら心地よいミドルテンポを先導するドラム、スラップと指弾きを使い分けてボトムを支えるベース、、、何を切り取ってもすべてが一級品であります。

ちなみに、本曲のドラマーは前回の記事でも言及いたしました、元TOTOのドラマーであるJeff Porcaroでありますし、ベーシストは現在のポールマッカートニーのバンドでのドラマーを務めるAbe Laboriel Jr.の父であり、バークリー音大の名誉教授でもあるAbraham Laborielです。

M-3 "Kei's Song"

David Benoitの奥さんは日本人であり恵さんというのですが、その奥さんに捧げた美しいバラードであります。映画のサウンドトラックかのような美しいメロディーとストリングスアレンジが特に秀逸でありますね。ドラマーは前出のThe RippingtonsのドラマーでもあるTony Moralesが務めております。

M-9 "Del Sasser"

Sam Jonesのペンによるジャズスタンダード曲をアレンジしております。
ジャズなのにイントロが非常に爽快で、実にフュージョンらしいアレンジとなっております。本曲のベーシストは、Chick Koreaのバンドでの活躍が非常に有名な6弦使いのJohn Patitucciですね。
さすが、全員が一流ミュージシャンであるのでジャズの演奏もお手の物という感じで、さらっとアドリブもこなして、フュージョンらしいアレンジがなされながらも、スタンダードなジャズとして演奏されております。


今回の記事は以上であります。
前回までは書きたいことを書きたいままに書いておりましたため、膨大な量になっておりましたが、いくつか貴重なご意見を伺いましたため、かなりコンパクトにまとめてみました。
ちなみに、この記事の冒頭の写真は、私の所有する本作品のレコードとCDです。あまりに好きなので、両方のフォーマットで持っております。

次回以降も、前回の記事の最後に書きましたカテゴリーに沿って書いていきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします!!!

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