STEAM教育

イノベーターを育てるSTEAM教育って?

こんにちは。
タイトルにもあるSTEAM(スティーム)教育という言葉を最近よく聞くようになりました。

STEAMとは次の社会に必要とされる人材を育てるための教育指針であり、Science(科学)・Technolgy(技術)・Engineering(工学)・Arts(芸術)・Mathematics(数学)の5つの分野の頭文字を合わせた語になります。

次の社会とは「ポスト情報社会」や「社会5.0」などと呼ばれているAIや5G通信が社会に普及することで築かれる未来の社会のことを指しています。
その来るべき未来に向けて「社会に適合できる人材」ではなく「社会を作っていく/変えていく人材(=イノベーター)」を育てるための教育方法として注目されているのが、このSTEAM教育というわけです。

以前からこのSTEAM教育について興味を持っていましたので、いくつか調べたことについてまとめてみました。

これからの社会はどうなるのか

「社会(Society) 5.0」って?

「社会(Society)5.0」とは、2016年に内閣府より出された第5期「科学技術基本計画」で提唱されている「超スマート社会」のことです。

超スマート社会とは、 「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、 性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会」である。
このような社会では、例えば、生活の質の向上をもたらす人とロボット・AIとの共生、ユーザーの多様なニーズにきめ細かに応えるカスタマイズされたサービスの提供、 潜在的ニーズを先取りして人の活動を支援するサービスの提供、地域や年齢等によるサ ービス格差の解消、誰もがサービス提供者となれる環境の整備等の実現が期待される
 (内閣府, 第5期「科学技術基本計画」)

端的に言えば、AIや5G通信の普及によりこれまで以上に情報が行き交うようなることでよりきめ細かなサービスが提供できるようになったり、誰でもサービスの提供者になれるような社会のことです。

STEAM教育の目的と実践

ここからはヤング吉原麻里子さんと木島里江さんの著書『世界を変えるSTEAM人材』(2019)を参考にSTEAM教育についてみていきたいと思います。

STEAM教育の目的
Science(科学)・Technolgy(技術)・Engineering(工学)・Arts(芸術)・Mathematics(数学)という文字列を見るとどうしても「理系教育」と思われがちです。実際私も最初はそのように捉えていました。

STEAM教育は元々STEM(ステム)教育から発展したものであり、本来は科学技術を実社会でも活用することを目的としたアメリカで発展した教育でした。
まさに理工学系科目を横断的に学び、実用的に使うことを重視した教育でした。

しかし技術の発達やニーズの多様化によりSTEM(=理工学)だけでは不十分となってきたのです。そこでArts(芸術)が付け加えられることで、STEAM教育へ発展しました。

このArtsには単に芸術という意味だけでなく、人文学やデザイン、リベラルアーツ(教養)といった複合的な意味が含まれています。
ただ理工学的な知識や技術をつけるだけでなく、それを人間の営みに融合させていくことの重要性が加わったということです。

STEM教育の特徴は各分野を重点的に学ぶのではく、それぞれの分野にまたがって学ぶことによって生まれる相乗効果により、学習が活性化されることにあります。そしてそれぞれの分野を学ぶことで最終的に「人の役に立つこと」「人間の生活をよりよくすること」が目的とされています。

なぜヒューマニズム(人文主義/人間主義)なのか?

私がヒューマニズムという言葉から想起するのはルネサンスです。ルネサンスとは15世紀のヨーロッパで起こった、古代ギリシア・ローマ文化の復興運動のことです。

この時代ヨーロッパでは黒死病(ペスト)という疫病が大流行し、おびただしい数の人間が死にました。当時の人たちはこのような状態になってもなお、救いを与えない神への不信を教会へ向けました。そして教会の権威は失墜し、中世以来の神中心の社会から人間の生き方へと目を向ける人間中心主義へと移り変わりました。

そこで彼らが参考にしたのが、古代ギリシア・ローマの人間の美しさや生々しさを表現した文化や神話でした。この人間中心主義こそがヒューマニズムです。

では現代社会とヒューマニズムにどのような関係があるのでしょうか?
その鍵となるのがAIです。

技術の発展により各分野においてAIは破竹の勢いで成長しています。
どんどんと人間に近づいてきているといってもいいでしょう。

その反動として起こっているのがこのヒューマニズムと言えます。人間でないものが人間に近づきつつあるというある種の不信感が「人間性とは何か」とい問いに再び回帰させていると言えます。

それによりSTEM教育にArtsが付け加えられSTEAM教育へと発展したのではないでしょうか。

イノベーターのマインドセット

STEAM人材は様々な社会課題を解決しイノベーションを起こしていくこと、つまりイノベーターになることが望まれます。

イノベーターに必要なマインドセット(考え方)に本書では以上の3つが挙げられています。

1.型にはまらない think out of the box
2.ひとまずやってみる give it a try
3.失敗して、前進する fail forward
(ヤング吉原麻里子, 木島里江(2019).「世界を変えるSTEAM人材」(朝日新書))

①型にはまらない -Think out of the box
イノベーターを育てるためには、これまでの常識や固定概念を捨てる必要があります。「こうだからこう」「これはこうじゃなきゃいけない」といった凝り固まった思考法ではイノベーションは起こせません。

型にはまらない、常識にとらわれない発想を身につけさせるためには、先に教育者の側の発想を変えていかなければなりません。「私が学生の頃は 〜」や「俺が言ってるんだから〜」という指導は最悪です。

生徒の様々な意見を柔軟に受け入れ、「こんな考え方をしてもいいんだ」という環境を与えてあげなければ子どもたちの思考は凝り固まってしまいます。

授業においても自分が受けてきた教育を再生産してしまいがちですが、それは既に十数年〜何十年も前の話です。コンテンツや指導方法はテクノロジーとともに多様化しています。先ずは教師の側から型にはまらない授業や指導を行っていく必要があると感じます。

②ひとまずやってみる -Give it a try
兎にも角にも行動です。失敗するか成功するかは考えなくてもいいので、先ずは手を動かしてみるチャレンジ精神を養わなければなりません。

これも欧州や米国との比較でよく言われることですが、日本型教育は正解を求めすぎる嫌いがあるため、失敗や間違いに対して敏感になりがちです。

この「失敗恐怖症」を「不実行恐怖症」にするぐらいに変えていかなければ日本から出てくるイノベーターは増えないでしょう。
そのためには義務教育の段階から失敗しても何度でも挑戦できるというマインドセットを作っておかなければなりません。

私もどのように取り組んでいくべきか試行錯誤中ですが、例えば小テストなどの結果が振るわなかった生徒に何度でも受け直しのチャンスを与えたり、ノート点に満足いかない子に対して再提出のチャンスを与えたりと、失敗した点を如何に次に繋げられるかを評価してあげることがチャレンジ精神を育む仕掛けになると思います。

③失敗して、前進する -fail forward
Fail forward は「前向きに失敗する」とも訳されます。
先ほどのチャレンジ精神の育成にも関連しますが、失敗を如何に次の一歩に繋げられるかが成長の鍵となります。

失敗の原因は何だったのか、どうすれば同じミスを防ぐことができるのかを反省し、次の挑戦へ繋げられる人こそ成長できます。

しかしただ失敗することには意味はありません。
例えば準備不足や確認不足から起こる失敗は時間をしっかり割いてあげれば防げたはずです。つまり能力的にはできたはずなので、そこから得られるものはありません。

一方で自分の能力を超えて起きた失敗は、自分の足りない部分を見直す機会になります。次に同じ失敗をしないためにはどのような能力を身につけなければならないかを反省し、次に活かすことができるということです。

教育で例えるなら、テスト勉強をせずに受けたテストとしっかり対策をして受けたテストでの失敗と言えます。最初から何もしていなければ結果はでなくて当然ですが、十分に対策をした上で結果に出なかった場合は、勉強時間や勉強方法などに改善の余地があることがわかります。

これまでの方法や掛けた時間を見直して次のテストに挑めば、その変更が正しかったか間違っていたかを検証することができます。

このように次に繋げることのできる失敗をサポートしてあげることが教師の役割であると私は考えています。

1つの職業だけでは生きていけなくなる

「働き方改革」や「副業解禁」という言葉がよく聞こえてきますが、裏を返せば企業が労働者の面倒を見きれなくなったので自分で稼げるようにしてくださいという見方もできます。

以前落合陽一さんの『日本再興戦略』を紹介させていただいたときにも取り上げましたが、これからの日本では1つの職業(会社)についているだけでは不十分で、いくつかの職業を兼ね、横断的にその能力を発揮していく必要があります。

AIやロボティクスの発達で単純労働や肉体労働、情報処理の分野はますます自動化・機械化されていくでしょう。2013年にオックスフォード大学のマイケル A.オズボーン氏によって書かれた論文によると、この10~20年の間に47%の職業がなくなるという試算が出されています。

しかし一方で社会に適応した新たな職業が生まれてくるため、これからを生きる子どもたちは今の私たちには知る由もないような仕事をしているかも知れません。

未来の仕事については堀江貴文さんと落合陽一さんの共著である『10年後の仕事図鑑』でわかりやすく書かれています。

新しい仕事ではこれまでの常識や慣例が通じない場合が多いです。
これまで仕事とは思われていなかったようなことが仕事になったり、誰も気づかなかった社会的なニーズに応えるサービスを作ったりと多様な仕事が生まれると思われます。

そのような社会で生きていくためには、これまでの画一的な教育を離れなければなりません。コンピューターサイエンスやエンジニアリングへの理解、数学的な論理性やアーティスティックな創造性が新たな仕事を生み出す力になります。

このような能力を身につけさせるSTEAM教育は次の社会を作り、イノベーションを起こせる人材を育てるための教育方法だということです。

まとめ -STEAM人材を育てるということ

日本にも「超スマート社会」は必ず訪れます。
むしろ日本はいち早く次の社会へ移行し、「超スマート社会」の成功モデルとなることが生存戦略に繋がると思います。

そのためには次の社会を受け入れられる土壌を作り、変革していく種を蒔かなければなりません。その変革を起こす種こそがSTEAM人材だと考えます。

しかし教育は教師と生徒の二者間だけのものではなく保護者や地域、社会全体がそうした風土を受け入れていかなければ、出る杭は打ち続けられます。

多様な生き方、考え方を大人が許容し、子どもたちがしっかりと伸びていける教育を受けさせることが次の日本を作ります。
社会が変わろうとする中で教育が変わらなければ、子どもたちは前の時代に取り残されてしまいます。

そうならないためにも我々教育者の側から柔軟に変化し、次の社会に通用する人材を育てていかなけらばならないと私は思います。

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