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帰省

最近、YouTubeで『THE FIRST TAKE』を見ました。僕は上手に歌えないので、文章でチャレンジしてみました。そのためいつもの400文字ではなく1300文字くらいになっています。もし読んでいただけたら嬉しいですが、いつにもまして荒削りかもしれないです。400文字に削る前はこんなに書いているのだと自分でも驚きました。
そして題名はもっと良いのがある気がしています…

文字数のお知らせです


 「携帯を携帯しないと、携帯の意味がない」。早口言葉かと思うくらい親友が同じ言葉を連呼した。「今、こうして飲めているのだから問題ないよ」。僕は笑顔で返す。たしかに僕は携帯を携帯しない。ほとんどの用事はパソコンで済んでしまうし、電話をする習慣もない。正確に時間を計ったことはないが、おそらく僕は1日1時間も携帯を見ないと思う。どうやら親友は何回か連絡をくれていたようだが、僕は自然に無視をしてしまっていたようだ。たまたま取引先に親友の会社があって、打ち合わせが終わって帰ろうとしている僕をたまたま見つけてくれたらしい。さすが親友だと感心してしまう。
 「お盆は地元に帰るのか」親友に聞かれた。「帰るよ。お墓参りをする」。「予定はそれだけか」親友が同情の目を向けるが、僕は頷くしかなかった。僕含め友人はみんな県外に出ている。そのため地元で会える人がいないのだ。僕だって予定は埋めたいが、埋まらないものは仕方ない。実家で読書をするなら、今住んでいる家のお気に入りのソファが良いし、何より猫が心配だ。
 「じゃあ、地元のお祭りに行こう。おやじが盛り上げたいらしい」。僕は小学生の頃の記憶を思い浮かべたが、盛り上がっているシーンを1つも思い出せなかった。だが、断る理由は一つもない。僕は十何年振りかに地元のお祭りに行くことになった。
 お祭り当日、親友のお父さんに挨拶をしたら、親友と僕にりんご飴を買ってくれた。もう良い歳なのだが、まだまだ親世代からすると僕たちは子供らしい。実際、今でもりんご飴は好物だし、すごくおいしい。多分そういうことなんだろう。親世代の人はビール片手にイカ焼きを食べ、僕らはハイボール片手にりんご飴を食べている。熟練度の差を感じる。
 そう、目の前の景色は昔と変わらない。ジュースがハイボールに変わっただけだ。小学生が盆踊りをして、大人たちが写真撮影をする。みんな少しずつ年齢を重ねているが、ちゃんと次世代の人たちも楽しそうにしている。盆踊りとジュースは次世代に引き継いだ。いつか僕らがビールとイカ焼きを引き継ぐことになる。
 親友のお父さんが言う。「今年も盛り上がりそうだ。このまま最終日まで安全に運営するよ。来てくれてありがとう」。「こちらこそ、ありがとうございました。最終日まで頑張ってください」。静かな盛り上がりだが、確かな繋がりがここにはある。何十年も同じ景色を作り続けられることも、盛り上がりの一つなのだと思う。僕が見えていないところでは、きっとこのお祭りを通して家族の絆が深められ、小さな恋なんかも生まれているかもしれない。
 「来てよかっただろ」親友がりんご飴を僕に向けて言ってきた。「そうだね」。僕は親友のりんご飴に交差させるようにりんご飴を差し出した。まるでナイトの誓いのようでわくわくした。良い帰省だった。

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