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あれ、それ、これ、で通じます

 多くの調味料から僕はポン酢を選んで叔母に渡す。叔母はそれを餃子にかけた。親族は餃子にポン酢をかける人が多い。もちろん僕もだ。叔母の旦那さんが、醤油と酢を混ぜてラー油を垂らして餃子のタレを作るのを見たとき、さらに味を濃くして、辛くすることに衝撃を受けた記憶がある。ちなみに今は、普通だとちゃんと知っている。
 叔母が箸を止めて話はじめた。「あれなんだっけ、おばあちゃんがよく通ってた…」。「俊ちゃんとこのパン屋さんでしょ」。妹が言う。「帰りに寄りたい」。叔母が言う。「食事中なのに、よく別の食べ物のことを考えられるね」。僕は妹のツッコミに思わず頷く。「兄さん、それとって」。僕に目線を向けず妹が言う。僕は叔母さんの横にあるポン酢をとった。「これ?」僕が聞くと妹は頷く。
 「あれ」「それ」「これ」だけで成立してしまうこの環境があるから、僕は口下手なのかもしれない。でも良い。そんな環境があることが嬉しい。

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