いくえみ綾先生の話

ネットで本を物色していたら、いくえみ綾が40周年記念本を出していたことを知る。

いくえみ綾デビュー40周年スペシャルアニバーサリーブック『SMILE!』

買ってみたらとてもいい本で。
デビューからの全作品解説、松田奈緒子さんとの対談、すばらしいカラー絵、いろんな漫画家さんのトリビュート、そしてI LOVE HERの新作・・・!
このI LOVE HER新作、鉛筆絵なんですけど絵がきれいなこと・・・いくえみ先生の絵が大好きで模写していた中高生時代を思い出しました。

私といくえみ先生との出会いは確か「あの星になるから」という読み切り作品だった。
おそらく別マの立ち読みだろう。漫画雑誌の購読はしていなかったので、時々立ち読みするだけだった別マ。
「あの星になるから」は不思議な話で、高校生男子が小学生の女の子をかばって事故に遭う。生死の境を彷徨う間に、その女の子が前世で恋人だったことを知り、目が覚めた彼はその女の子を全力で愛する・・・というストーリー。
これだけ聞くと現実味のない話だと思うかもしれないけど、いくえみ先生はファンタジーと現実をつなぐのがすごく上手い。
特に終盤、女の子の父親が彼を危ない奴ではないかと疑い、「何かされたら言うんだよ」というシーン。確かに小学生女子に執心の高校生が現実にいたら親は心配するだろう。でもこんなシーンが少女漫画に持ち込まれるのはそれまで見たことなかった。
父親が疑いの目を向けていることを知った女の子はショックを受けて家出をする。そして自分が子供であることを自覚し、彼に「大人になるまで待って」と告げる。
このシーンが美しくて印象的で、またこの人の漫画が読みたいと思っていた時に始まったのが「バラ色の明日」シリーズでした。

「バラ色の明日」は読み切り連載という形で、基本的には1話完結なんだけども、何話か連続でシリーズみたいになるものもあった。
私が好きなのは2話の「巷に雪が降る如く」とイチとナナのシリーズ。ピーターも好きだしコナンも好きだな・・・

その後忙しくてあまり読まない時期もあったりしたけど、ふと思い出して読み直したり、新作を買ったりしてずっと読み続けている。
40周年本きっかけで、最近の作品をまたまとめ買いしたのですが、どれもいいですね。せっかくなのでいくえみ先生の良さ、私が好きなところをもっと語ります。

①表情のバリエーションの多さ

いくえみ先生は絵が上手い。所謂耽美系の美しい絵ではないですが、カラー絵のきれいさ、いろんなポーズのバリエーションを見るにつけ、「上手いな~」とため息が漏れます。
中でも私がすごいと思うのが、キャラの表情の付け方。
同じ笑顔でも「心から楽しい時の笑顔」「気を遣っている笑顔」「無理して笑っている顔」「冷笑」「苦笑」・・・と様々なバリエーションの「絵」がとても巧み。
なぜ「絵」を強調したかと言うと、漫画なので記号で表現することもできるのですよ(汗とか)。台詞で説明することもできる。
もちろんそういうシーンもありますが、表情だけで人物の心情を表現するシーンがとても素晴らしくて、それは高い技術が無いとできないと思うのです。

②独特のモノローグ

いくえみ先生のモノローグは、いい意味でとっちらかってて好きだ。
モノローグって心の声だけど、心の声っていつも理路整然としているわけじゃないじゃないですか。
その混乱した思考をそのまま吐き出しようなモノローグが好きなのです。
たとえば「I LOVE HER」4巻166ページの花ちゃんのモノローグ。
「(前略)
 だって人生は長いけど
 人は出逢って別れるけど
 心変わりはたくさん あるけど

 あたしは今17で

 ほんとはぜんぜん大丈夫なんかじゃなくて
 この先どんな出逢いが私にあるとしても
 ほんとは今はそんなのあんまし 期待なんかしてなくて
 だって今がさみしいからってそんなの そんなの

 思い込みでもいい

 今の17さいのこの時に
 欲しいものがぜったい ある」

ぐるぐる思考からはっと抜けて走り出すようなモノローグ。
17歳の勢いがリアルで大好きです。

③ずっと10代を描き続けているすごさ

いくえみ先生40周年本を読みつつ気付いたのですが、先生は10代の恋愛を40年間ずっと描き続けていらっしゃるのです。
これは決してバカにした発言でなく、すごい偉業だと思います。
先生のデビューは15歳なので、その頃は自分や周囲の感覚をそのまま漫画に描くことができたと思うのですが、当然そのままだと漫画の中はどんどん時代がずれてしまいます。
しかしいくえみ先生の漫画は時代に合わせて人物のファッション、アイテム、しゃべり方などがちゃんとアップデートされる。
私も10代ではないので今の10代が違和感なく見ているかはわからないですが、少女誌での連載が最近まで続いていたり、「潔く柔く」の人気など見ると、きちんと若者支持があるのだなーと思います。

④でも上の世代向け作品もおもしろい

③とつながる話ですが、10代向けを描きつつ30代、40代に向けた作品も同時に描いていてそれもおもしろい。天才でしょうか。
最近の作品では「おやすみカラスまた来てね。」とか「G線上のあなたと私」とか好きです。
G線はメインキャラの中に小学生の子供がいる主婦がいて、大変おもしろかったです。いろんな世代のキャラクターがそれぞれの魅力を持てるすばらしさよ。

⑤どのタイミングで思い出しても新作がある

上の方で読んでない時期もあったと書きましたが、今も連載をずっと追いかけているわけではありません。
漫画全般が好きなので別の漫画にはまっている時期もあります。
しかし、いくえみ先生のすごいところは、そんな感じで「は!いくえみ先生最近読んでない!」と思い出したタイミングで調べると、必ず読んでない新作が存在するところです!
40周年にして衰え知らず。本当にずっと読んでいきたいです。

他にも好きなキャラの話とかしようと思いましたが、長くなりすぎるのでこのへんで。
ちなみに私は長いことカブちゃん(バラ色の明日)派だったのですが、潔く柔くで清正が出てきた時に心を持っていかれました。
トーチソング・エコロジーのスーも好きです。
あーでもやっぱり新ちゃんかな-!

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