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ストレスケアでは不十分、ウェルビーイングの重要性

Boulderで CTO 兼 Chief Researcher をしている中村です。
今月から始めた Work Lab というマガジンの2本目の記事として、弊社の目指している「エンプロイ―サクセス」において非常に重要な概念である「ウェルビーイング」について書きたいと思います。

エンプロイーサクセスとウェルビーイング

前回の記事でも書きましたが、エンプロイーサクセス (Employee Success) とは、簡潔に言えば「従業員のウェルビーイング (Well-being) を企業の収益に繋げる」という新しい概念です。

似た概念に、カスタマーサクセス (Customer Success) というものがあります。カスタマーサクセスでは、顧客(カスタマー)が目的を達成することを目標に置きます。そして、企業は製品やサービスを提供することで顧客の目的達成をサポートし、その対価として収益を得えます。

これと同様に、エンプロイーサクセスでは従業員(エンプロイー)のウェルビーイングを目標に置きます。そして、従業員が仕事をする中でウェルビーイングを得られるように企業はサポートし、その結果として、従業員の生産性や能動性が向上し収益に繋がるという考え方です。

ウェルビーイングとは

このウェルビーイングとは、「幸せ」に近い概念です。
「幸せ」というと「嬉しさ」や「楽しさ」、「心地よさ」、「満足感」などのポジティブな感情を連想するかと思います。しかし、「ウェルビーイング」ではポジティブな感情だけではなく、「エンゲージメント」という何かに熱中している状態や、「意味・意義」というより長期的に充実感を得られる要素などを含んだ複合的な概念です。
「幸せ」は瞬間的なポジティブな感情を中心とした概念であるのに対し、「ウェルビーイング」は継続的により良く生きるために必要な要素といった側面が強い概念です。

この考え方は、「ポジティブ心理学」という分野で盛んに研究されています。この分野は、1998年、当時ペンシルベニア大学 の Seligman 教授が、アメリカ心理学会会長就任時の所信演説の中で「ポジティブ心理学」という言葉を使用して以来ムーブメントとなった比較的新しい分野です。それにも関わらず様々な研究結果が出ており、ウェルビーイングが退職率を 25% 減少させたり、生産性を20~40% 改善させたという報告もあります。 

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従来のストレスケアでは不十分

このように企業にとってもメリットの大きいウェルビーイングですが、多くの企業ではそこにフォーカスした取り組みが行われていないのが現状です。従来の従業員のサポートというとストレスや心の病気に対するケアが中心的でした。日本では2015年に労働安全衛生法の改正によりストレスチェックが義務化され、この観点で労務管理されている企業も多いかと思います。

しかし、ストレスケアなどのネガティブな側面に対するメンタルヘルスケアだけで十分なのでしょうか? 仕事にやりがいも感じられない活気のない職場だと、たとえストレスがなくても退職してしまう人も多いのではないでしょうか。
また、昨今の労働人口の減少により、日本のさらなる経済成長には労働生産性を2倍以上にしなくてはいけないという試算もあります。単純作業などは機械が代替するかもしれませんが、新規施策を考案や、顧客満足度や効率を上げるための工夫などの創造的な仕事は機械にはまだ困難です。そのような仕事はやる気があり能動的な従業員でないと行うのは難しいと考えられます。

企業視点で見ると、従来のネガティブな面のメンタルヘルスケアは、問題を抱えている従業員のみをケアをし、マイナスをゼロにする所謂コスト削減の施策だったのに対し、ウェルビーイングを向上させるポジティブなメンタルヘルスケアでは、多くの "普通" の従業員に対してもケアをし、ゼロをプラスにしていく売上アップの施策と見なせます。
このように、ネガティブなメンタルヘルスだけではなく、ウェルビーイングを向上させるポジティブなメンタルヘルスケアが重要になってきています。

仕事におけるウェルビーイングの仕組み

ポジティブ心理学の分野の研究に、 仕事の要求度・資源モデル (Job Demand - Resource model) というものがあり、ウェルビーイングの仕組みの理解に役立ちます。

このモデルにおいて重要なことは、仕事におけるウェルビーイングは、仕事の要求度ではなく、仕事の資源と呼ばれるものに影響されるということです。

ここで言う「仕事の要求度」とは、従業員が仕事から受ける負担のことです。仕事の量が多く労働時間が長かったり、内容が難しかったりした場合に従業員は負担に感じることもあります。また、対人関係や役割などから気持ち的な負担を感じることもあります。

「仕事の資源」とは、仕事を行う上で糧となるモノのことです。例えば、職場における信頼関係、周囲からのサポートがある、成長実感、仕事のコントロール感、報酬、などです。さらに個人的な心理的資源というものもあり、自己効力感、レジリエンス、楽観性、柔軟性などがあげられます。

この仕事の要求度と資源がどのように従業員に影響を与えるのかをまとめたのが下図になります。

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仕事の要求度は従業員の憂鬱や不安などのストレス反応を増加させ、これが長期化すると心疾患や鬱病などのストレス性の健康障害に繋がり、最終的に生産性の損失に繋がります。この流れは「健康障害プロセス」と言われ、従来のメンタルヘルスケアはこの対策に当たります。

そして重要なのは、この仕事の要求度はウェルビーイングには影響を与えないということです。残業を減らしたり仕事量を減らしたりして仕事の要求度を小さくしてもウェルビーイングは向上しないのです。つまり、従来型の従業員のサポートはウェルビーイングの改善には寄与しません。

ウェルビーイングに影響しているのは仕事の資源です。仕事の意義や周囲のサポートによって改善され、従業員のモチベーションや生産性、満足度の向上に繋がります。
また、仕事の資源はストレスへの予防や改善にも役立ちます。したがって、仕事の資源を中心としたケアが必要なのです。

エンプロイーサクセス実現のために

「従業員のウェルビーイングを会社の収益に繋げる」というエンプロイーサクセスはこれから必須になってくる概念だと考えています。
エンプロイーサクセスが実現した会社は非常に魅力的です。そこでは全ての人々がポジティブに能動的に仕事をし、しかもそれが会社の収益に繋がるので持続的に発展できるのです。

しかし、上記で見たとおり、従来の従業員サポートだけでは実現できません。従来型のメンタルケアの中心だったストレスなどのネガティブな側面だけでなく、ウェルビーイングというポジティブな側面にも取り組んでいくことが必要になります。

さらに知りたい方へ

"「幸せ」について考えてみよう", 学習院大学 経済学部経営学科 特別客員教授 斉藤 徹

S. Lyubomirsky et al., “The Benefits of Frequent Positive Affect: Does Happiness Lead to Success?”, Psychological Bulletin, 2005.

A. Bakker et al., "The Job Demands-Resources model: State of the art", Journal of Managerial Psychology, 2007.


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Boulder CTO 兼 Chief Researcher 東京工業大学大学院知能システム科学専攻博士課程修了後、リクルートホールディングスに入社。旅行領域の新規事業の人工知能構築に従事し、数億単位の年間利益貢献により全社賞を受賞。創業期より Boulder にジョイン。