電話が鳴ったら深呼吸する──マインドフルネスの12の練習 WEEK10
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『「今、ここ」に意識を集中する練習 心を強くやわらかくする「マインドフルネス」入門』(ジャン・チョーズン・ベイズ著)から、日常生活の中でできるマインドフルネスの練習を紹介しています。
10週目の今回は、仕事中や作業中に電話が鳴ってもすぐに反応せず、深呼吸をして間を置く練習です。この練習を続けていくと、忙しさの中でもいったん思考をリセットし、新しい状況に落ち着いて対応できるようになります。
(本書PARTⅡ マインドフルネスを日常で実践する53の練習 より)
どんな練習?
電話が鳴ったら、出る前に今やっていることをやめて、マインドフルな呼吸を3回して心を落ち着けます(受付の人の場合は、深呼吸は1回か2回にして、電話に出たほうがいいかもしれません。大事なのは少し間(ま)を置いて、少なくとも1回深呼吸をすることです)。
ほとんど電話がかかってこない人の場合は、53分おきとか、長めで半端な間隔で日に何度かアラームが鳴るようにセットしておき、アラームが鳴ったら、止めて深呼吸します。
取り組むコツ
「呼吸」と書いた小さい紙を電話に貼っておき、受話器を取り上げたり、携帯電話を操作したりするたびに気がつくようにします。
この練習による気づき
電話が鳴ると、たいていの人は「すぐに応えなければ!」と、反射的にそちらに手を伸ばします。そのため、最初はまず間(ま)を取って呼吸をするというのが難しく思えます。
でも、電話が鳴ったときに2、3回マインドフルな呼吸をするというのは、すぐに効果が現れやすい習慣です。とくに難しい相手(クライアントや患者など)、つまり不満や悩みを抱えていて、電話に出た人にいくらかでもそれをぶつけたいと思っているような相手と話さなければならない場合は、毎回すっきりした広い心で向き合えます。
受付の仕事をしているある女性は、次のように言っています。
「電話のベルが3回鳴り終わるまで待てるようになってきました。この間(ま)が、思考や動作を中断して心を落ち着かせます。心を空にして、相手の言葉に集中できるようになります」
この練習に参加した、救急治療室の看護師はこう言いました。
「いつも大急ぎで休みなく働くことに慣れているので、最初はベルの音を聴くと腹が立ちました。寺院の温室のなかで草取りをしていても、そのわずかな時間も手を休めるのがイヤだったんです。ところが手を止めたとき、周囲に生えていたフダンソウの深紅の茎の色が目に飛び込んできました。太陽の光が茎を通して差し込んでいて、本当にきれいでした」
こういう美しさは、誰でもなかなか気づくものではありません。私たちはみな、忙しさに追われて「今、ここ」を十分に生きていないのです。何かが網膜に映っていても、本当には見ていません。
深い教訓
この練習によって体が突然静止すると、同時に心のなかも静止します。人は体を動かしていいときには、たいてい何かを考えています。体が静止すると、それまで漠然と進行していた思考がはっきりしてきます。
ある若者は「この練習には2つの効果がある」と言いました。動作や会話を止めることによって精神の緊張がゆるむことと、3回のマインドフルな呼吸によって、体の緊張がほぐれることです。
私たちは、ほとんどの時間を無意識にあわただしく暮らしています。いったい何に向かってそんなに急ぐのでしょう? この「今」という瞬間を充実させる代わりに、次の1分を、次の1時間を、次の1日を捕まえるために、常に先を見て走っていませんか?
私たちは自分の心の状態を、ゴミ袋のように引きずって次へ進みます。誰かと不愉快な電話をすると、不機嫌な気持ちを、次に電話をかけてきた不運な相手にぶつけることになります。焦燥感や不安やイライラを引きずることなく、1つひとつの電話を新たな気持ちで受けるためには、少しペースを落とす必要があるのです。
電話の音を聴いたら、まずは落ち着いて1回ないし2、3回深呼吸しましょう。そうやって体や心や頭のなかにあったものを追い出し、オープンで透明な心で、新しい相手や新しい状況に向き合います。
鈴やベルを使ってこの練習を始めますが、やがてこれは、生活のいろいろな面に波及していきます。今ある感情を手放して、新たな気持ちで次の出会いを受け止める新しい姿勢が身につきます。これを身につけると、有害な習慣を弱めさせ、新しい健全な習慣を育んでいけるようになります。
自分を変える言葉
電話に出る前の3回の深呼吸は、生活の「タイムアウト」。
この間(ま) が自分をリフレッシュさせてくれる
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