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理不尽な世界 ― エピソード① ― ラーメン屋

フリーランスの庭師です。
これから書く内容はフィクションです。


〖理不尽な世界 ― あるラーメン屋〗


お昼はラーメンにしよう。

この前初めて入ったラーメン屋は特別に美味しいわけではないけど、不味いわけでもない。値段もまあ普通で高くも安くもない。そのためか、昼時だというのに店内は空いていた。

今はちょうど正午。俺は並ぶのが嫌なので、そのラーメン屋に行くことにした。

店に到着して入ろうとしたら、入り口に張り紙がしてあった。

『本日、大盛無料!』

ラッキーだ。腹も減っているし大盛にしよう。

店内に入ると、他の客は2人。大盛無料で客寄せしている割には空いている。

前回来たときは醤油ラーメン屋を注文した。初めて入る店は、味噌とか豚骨とかの専門店以外は醤油ラーメンを注文することにしている。東京では基本のラーメンだから、味の良し悪しを図るにはこれがベストだ。

今回は二度目なので、大好きな味噌ラーメンを注文した。もちろん大盛で。

直ぐに味噌ラーメンが運ばれてきた。器は大きいし、モヤシがどっさり載っている。かなりの大盛だ。これが無料とは店主も太っ腹だ。

まずはレンゲで汁を飲んでみる。

「ん? メチャ味が薄いぞ…。」

これはいただけない。調味料を探す。すると普通の店では置いていない調味料が並んでいる。まさかの味噌と粉末の出汁。

取り敢えず、味噌と出汁を入れて味を調整してみる。そこそこ濃さが出たところで、七味唐辛子とラー油を加えて、何とかピリ辛味噌ラーメン風の汁になった。釈然としないものがあったが、まぁ仕方ない。大盛無料なのだから。

次にドサッと載ったモヤシと麺を混ぜる。

「ん? モヤシは多いけど、麺は多くないんじゃないか?」

思わず店主に聞いてみる。

「これって大盛だよね?」

「そうですよ。大盛です。」

「何が大盛なの?」

「はい、汁とモヤシが大盛です。」

「えっ? 麺は大盛じゃないの?」

「はい。麺を大盛にしたければ、麺大盛と言ってもらわないと。麺大盛は100円増しです。」

「・・・」

そりゃ張り紙には大盛としか書いていない。麺大盛とは書いてないよ。でもさ、一般常識的にラーメン屋で大盛って言ったら麺大盛でしょう。

もちろん大盛無料なので、割り増し料金を支払っている訳ではない。汁とモヤシが大盛なので詐偽でもない。

いやいやおかしいだろう。

更に店主に聞いてみる。

「汁の味が薄いけど、普通盛りの汁も薄いの?」

「いや、普通盛りの汁は濃厚な味噌味ですよ。」

「えっ? じゃ何で大盛は薄いの?」

「普通盛りの汁にお湯を足してるだけですからね。」

「いやいや、それって酷くない?」

「お客さん、このご時世タダで大盛にありつこうなんて考えが間違ってますよ。薄味に我慢できない客のために一応味噌と練り出汁を置いてあるじゃないですか。ちゃんとサービスしてますよ。」

「・・・。じゃモヤシが多いのはどういうこと?」

「モヤシくらい大盛にしないと詐偽じゃないですか。だから近所のスーパーでモヤシの特売をやっている時だけ大盛無料をやるんですよ。へへっ。」

これ以上店主と話をしていると腹がたってくるので、話を打ち切ってラーメンをすすった。

味を調整したからそう不味くはない。モヤシが多いし汁も多いから満腹感もある。大盛は無料だ。

でも、何だか騙された気分だ。

旨くも不味くもなく、値段も普通、大盛無料のからくり…。決して優良店とは言い難い。

よく潰れないなと思うのだが、前回も今回もそこそこの客がいる。『蓼食う虫も好き好き』と言うことか。

味が良くても潰れる店はある。値段が安くても潰れる店はある。

『蓼』を出せばコアな客は来る。潰れないない程度の少数の客さえ来ればやっていける。仕事も楽だろう。この微妙さは巧妙なのかもしれない。

世の中は理不尽だ…。

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