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【日本酒の香り 編①】 カプロン酸エチルの科学

こんにちは、酒好き大学生 にとろん と申します。
お酒についてのちょっとマニアックなことを調べて、発信してみようと思い始めてみました。

つたない文章ですが、お付き合いいただけると嬉しいです!
まだまだ未熟者ですので、間違っているところやわかりづらいところは逐一修正していこうと思うので、ぜひコメントの方もよろしくお願いします。

今回は吟醸香の一つ、カプロン酸エチルについて書いていこうと思います。

前提として酵母の働きをいくつかと、カプロン酸エチルがどのように生成されるかを書いていきます。
半ば備忘録のような感じですが、理解しやすいように書いたつもりなので是非読んでってください。

・はじめに

まずはじめに、カプロン酸エチル(以下カプ)とは何者かというのを書いてみようと思います。

芳香性のあるエステルで、リンゴ様の香りがする無色の液体(Wikipedia)

エステルというのは、簡単に言うと酸とアルコール(エタノール)が結合したものであり、カプはC(炭素数)6の脂肪酸とエタノールが結合することによってできたエステルです。

つぎに、一般的にどのような日本酒にりんごの様な香りがするものが多いのかを考えてみます。
・吟醸・大吟醸と名の付くような吟醸造りをしているもの。
・カプロン酸エチルをよく出すような酵母を使用しているもの。(K1801やM310など?)

主にこの2つのイメージがあります。
この2つを少し意識しながら考えていこうと思います。

・カプロン酸エチルの生成

まず、カプがどのように合成されるかを見ていきます

カプロン酸エチルは主に下の図のように2種類のでき方があります。
この2つの反応は働く酵素が違うだけで、同じエステル化の反応です。

画像1


エタノールはたくさん存在しているため、カプの量を増やすには

・カプロン酸やカプロイルCoA(以下、カプロン酸たち)の量を増やす
・酵素の働きをもっとよくする


の2種類がありますが、一般的に行われている方法である、カプロン酸たちの量を増やす方を書きたいと思います。

はじめに。で書いたように、カプロン酸は脂肪酸です。次は、脂肪酸がどのように合成されるかを書いていこうと思います。

・脂質合成

突然ですが、皆さん甘いものは好きですか?
自分は大好きなんですが、運動もせず甘いもの食べたり酒を飲んだりしていたら、腹は出るし顔も夏に比べて丸くなってきた気がします。そうです、奴です、脂肪です。

でもこれ実は、自分たちが食事できなくなったときにある程度生きていけるように蓄えられているエネルギーなのです。(まあヒトだとそんなことあまりないけど)

酵母も同じように、栄養がたくさんあるときは脂質を合成してエネルギーを蓄えます。

ここからはそんな脂質の合成の話です。

下の図が脂質合成の簡単な模式図です

画像2

栄養がたくさんあるときといいましたが、ここでは主にグルコースです。
米がよく溶けて、グルコースが多くなると解糖がよく進むようになり、ピルビン酸やアセチルCoAが多くなります。
脂質は簡単にいうとアセチルCoAが重合しているような反応なので、このようにしてアセチルCoAが多くなった時に脂質の合成が始まります。(詳細は下の参考文献を山椒)
http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/fa-syn.htm

上の図の水色の矢印のように、アセチルCoAが一つずつ結合していって、炭素(C)が2つずつ増えながら脂肪酸は合成されていきます。

この反応の初期の方に出てくるC6の脂肪酸がカプロン酸です。
一般的な酵母(K-7など)の場合、C18のステアリン酸やC16のパルミチン酸などの長鎖脂肪酸まで合成が進むため、C6のカプロン酸などの短鎖脂肪酸はあまり合成されません。

この脂質合成を少し変異させたものがカプロン酸エチル高生産酵母です。

・カプロン酸エチル高生産酵母

画像3

このカプロン酸エチル高生産酵母たちは、端的にいうと、大きい脂肪酸を合成するのが苦手な酵母たちです。

一般的な酵母たちがC18,C16まで合成を続ける中、この酵母たちはあまり大きい脂肪酸までいかずに、短鎖脂肪酸で合成を終わってしまうことが多く、結果としてカプロン酸たちが多くなります
よって、一般的な酵母よりもカプロン酸エチルの生成量が多くなるということです。

・吟醸造りの意義

最後に、はじめに で書いた吟醸造りの意義について書いて終わりにしようと思います。

吟醸造りとは?ということで、国税庁の文言を引用しますと

吟醸造りとは、吟味して醸造することをいい、伝統的に、よりよく精米した白米を低温でゆっくり発酵させ、かすの割合を高くして、特有な芳香(吟香)を有するように醸造することをいいます。

だそうです。

今回はこの中でも醪に直接に関係ありそうな低温でゆっくりと発酵させることの意義について考えようと思います。
(高精白の方まで手が回りませんでした。不飽和脂肪酸がAACTaseを阻害するなど、面白そうなことはあったのでまた調べて書きたいと思います)


低温で発酵させることの意義は主に2つあると考えます。

➀低温発酵によって酵母の活動を抑え、糖分を多くすること。
②合成される脂肪酸の短鎖化。

➀:低温発酵をすると、全体的に酵母の活性が低下し、それに伴いグルコースの消費速度が遅くなります。その結果、醪内がグルコースが多い状態となり脂肪酸合成が活発になると考えられます。
脂肪酸合成が多くなると必然的にカプロン酸の量も多くなるため、カプの量も多くなります。


②:低温発酵すると、脂質合成の産物の脂肪酸が短くなります
その結果、カプロン酸たちが増え、カプがたくさん合成されます。
また、低温で発酵させることでカプを醪から揮発させない様にするという効果もあります。
※飲むときに常温に戻ってきた時の方が香高いのはそのせいかも。

・まとめ

カプロン酸高生産酵母(k-1801,M310など)を使用して、低温でじっくり発酵させると、合成される短い脂肪酸の量が多くなり、カプロン酸エチルが多く合成される

今回は以上です。


気になった点、わかりにくかった点、間違っていたものなどありましたらコメントしていただけたらうれしいです。

自分は、なぜ生物がこのような反応をするのか、なぜこのような香りを出すのかなどを考えるのが好きなので、これからもゆるーく書いていこうと思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!!!

・参考文献

・ほぼこの論文から
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/88/2/88_2_101/_pdf/-char/ja

・香りについて優しくまとまってる
https://www.gekkeikan.co.jp/RD/sake/sake05/

・脂質合成詳しく
http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/fa-syn.htm




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コメント (4)
C16,18まで行かずに止まるのが何故かって分かってるんでしょうか..?
それ以降の経路につかう酵素の発現量が低いとか..?

次は酢酸イソアミルお願いします
コメントありがとうございます!!!

詳しいことまでは書かなかったんですが、一般的な酵母の脂肪酸合成はFAS1、FAS2の2つのサブユニットからなる脂肪酸合成酵素がC18までの合成全てを担っています。

一般的な酵母をセルレニン(脂肪酸合成酵素阻害剤)で選抜すると、縮合活性を持つFAS2に変異が起き、セルレニン耐性を持つとともに、合成される脂質が短鎖化するという形です。

書き方が悪かったのですが、カプ多産酵母はC16,18の脂肪酸も合成しており、それに加え合成酵素の変異によって、一般の酵母ではほとんど残らないC6,8の脂肪酸が合成されるといった感じです。

酢酸イソアミル系は今書いてるところです!
がんばります!!
お返事ありがとうございます!遅くなっちゃってすみません!

まだちょっと分からないところがまだあって、もう一回だけ質問していいですか....しつこくてすみません...

こういう理解で合ってますかね...

まず、セルレニンによる選抜ではのその感受性と一緒に酵素活性も下がってると思ってます。
だとすると、FAS2に変異が入ることでがAcetyl-CoAとMalonyl-CoAからCaproyl-CoAを作る部分の速度も落ちるけど、Caproyl-CoAに更にMalonyl-CoAをつなげて長鎖をつくる反応も遅くなるからCaproyl-CoAが通常より余ってカプロン酸エチルがより多く出る

参考にしたのは
https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/8912/8912_tokushu_1.pdf
とbiocycです。

あとあの、一部の協会系酵母とかカプ高生産株はみんなFAS2に変異があるんでしょうか。それとも別の経路でカプ高生産になるようなやつも知られているんでしょうか

なんか学会みたいな雰囲気の質問しちゃってすみません
すみません追加されていた参考文献読みました。FASは7種類もの酵素活性があってCaproyl-CoAを分解する段階の活性だけを抑制しようという戦略なんですね。すごい...
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