エッセイ 安保克則さん

日本声楽家協会が定期的に発行している会報には、毎回声楽家や講師の先生方よりオピニオンやエッセイをご寄稿いただいております。このnoteでは「エッセイ」と題しまして、以前いただいた寄稿文をご紹介します。
今回は2015年4月号-5月号より日本声楽アカデミー会員のテノール歌手、安保克則さんのエッセイを掲載いたします。

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「私の一曲~オペラ作品の心の故郷『椿姫』」
安保克則 テノール

今回の寄稿に際し、どの作品をとりあげるか相当迷いました。考えているうちに、かつて日本声楽家協会の研究員に在籍した際に、1年間掛けて研究員の授業で勉強しました《椿姫》(ヴェルディ作曲)の事を思い出しました。

《椿姫》は、高級娼婦ヴィオレッタと田舎の良家の青年アルフレードの純愛と、ヴィオレッタの哀しい運命を描きました、世界中で有名なオペラ作品の1つです。この《椿姫》に初めて出会いましたのが、今から13年前の2002年4月。私が東京芸術大学大学院独唱科に在籍(当時は大学院2年生)しながら、日本声楽家協会の研究員に御世話になり始めた頃です。
当時の私は、今以上にオペラの事が判らず、上京して1年経ち、都内の生活に慣れ始めていたとはいえ、歌も生活もまだ手探りの状態でした。その時に出会いました《椿姫》。まず、ヴェルディのオペラ作品1本全てを初めて歌う事、オペラ作品1本を全て原語で歌う事自体が当時の私にとっては新鮮でした。学部時代を過ごしました山形大学で、モーツァルト作曲《コシ・ファン・トゥッテ》フェランド役、ヨハン・シュトラウス作曲《こうもり》アイゼンシュタイン役などの作品を1本歌わせていただく機会がございましたが、邦語公演、邦語と原語を混ぜた公演でした。

研究員の授業が開設しています水曜日夜間(18~21時)、私は《椿姫》アルフレード役を半分手探りのような感じで勉強していました。有名な二重唱「乾杯の歌」、第1幕ヴィオレッタとの二重唱「Oh qual pallor! ああ、何と青ざめていること!」、第3幕「Parigi,o cara, noi lasceremo パリを離れて、ああ、可愛い人よ」などを歌う機会が多かったように記憶しています。
当然歌い難い箇所もございまして、多かれ少なかれ悩み、考えました。その際に講師の先生方から、声、音の取り方についてのアプローチや歌い回し、言葉の捌き方、主役、二枚目役の心構え等、オペラの基礎となりますアドバイスをいただきました。その当時の私において先生方のアドバイスが有り難く、宝となりました。13年経ちました今となっても覚えています。また、周りの方々からの助けも多くいただきました。《椿姫》を通じ出会いました方々に感謝申し上げます。

今現在、有難い事に《椿姫》のハイライト及び全幕公演に携わる機会が時折ございます。その度に日本声楽家協会にて1年間勉強しました《椿姫》を思い出します。今後もオペラ作品、他の作品に取り組む際にこの《椿姫》 を心の故郷とし、歌の活動の原動力となりたいと思う今日この頃です。