若おかみは小学生!

すごくいい。めちゃくちゃいい。万人、観てくれ。僕は中盤で泣き、後半で泣き、最後でも泣いた。とにかく感動が止まらなかった。

人が生きていく中で味わう不条理、喜び、人と人の温かなやりとり、死と生を直視した時のかかわり方、働くことの意義やもたらしてくれるもの、時間が流れ季節が変わる中で生まれるものと失うモノの尊さ・豊かさ・素晴らしさを感じることができる最高の作品でした。個人的には万人に観てほしい映画ナンバーワン。今後、一番好きな映画を聞かれたらこれだと答えると思います。それくらい素晴らしかった。前述したが僕は何度も泣いた。

ちなみに監督は「茄子 アンダルシアの夏」を手掛けた高坂希太郎さんです(これもいい作品なのでぜひ)。


さて、若おかみの予告はこちら。


タイトルと雰囲気は「子供向けアニメかな?」って感じですが、違います。これは「全年齢向けアニメ」です。主人公のおっこより年下の幼稚園児から、おっこのおばあちゃんより年上のご年配まで、すべての人に向けられた作品です。

今回はストーリーの流れにはなるべく触れずに、素晴らしさを列挙することにします。なぜなら観てほしいから…!!!

それでは以下からこの作品をほめちぎっていきます。


① アニメ表現の豊かさ

とにかく映像が良い。アニメって表現の技法や種類がたくさんあるので一言で「良い」といっても色々とある。たとえば「言の葉の庭」では雨や光のによる空気感も含めた風景描写、「プロメア」ではカートゥーン表現によるテンポと迫力のメリハリなど、作品ごとの良さがあって、同居させるにも限界があるわけですね。ちなみにこの「アニメーションの映し方、タッチ、技法による作品の特徴やテーマ性の強調」は、個人的にアニメ作品が好きな理由のひとつ。実写にはできないからね!

さては話を戻して。「若おかみは小学生」の良さは「現実世界で味わう「良い感覚」を強調している」ところだと感じた。料理はおいしそう、温泉は温かそう、温泉街は探検のしがいがあってワクワクする、吊るしものやライトアップは広がりがどこまでもあっていつまでも見ていられる…そんな現実世界の映像だけでは表現できない、人間の五感も含めた体感に近い感覚を強調するように描いてます。嫌な感情、トラウマのフラッシュバックについても同様。苦しさもきちんと、視聴者の心に響いてきます。ほんと、映像をぼーっと眺めるだけでも幸せなアニメ体験になることが間違いないレベル。


② 登場人物の気高さ

とにかく登場人物みんなが、ちゃんと自分の人生を生きているのが美しい。主人公のおっこはもちろん、温泉街での仕事や出会いによって人間的にとても成長していきます。それだけでなく、脇を固める人たちも素晴らしい。

おばあちゃんは旅館業にとても誇りを持っていて、自分が大事にしていることをきちんとおっこに伝えて、ダメだと思うところはきちんと叱っている。なにより卑屈でない。おっこがおかみになりたいと言い出したときも、旅館の業務の悪いところなんて何一つ言わずに手伝いを頼むのだ。何より70歳を超えても最前線で接客をしているのだ。すばらしい。かっこいい。

板前も仲居さんも自分たちの仕事を楽しくやっていて、お客さんに喜んでもらうこと、笑顔になってもらうことを目指して頑張っている。

特に、クラスメイトとして出てくる「ピンフリ」こと真月(まつき)がそうだ。最初こそおっこに悪態をついてくるが、ただの難癖ではない。彼女も温泉街が好きで、来てもらった人々は何をしたら喜んでくれるのか、この温泉街を長く発展させていくためにはどうしたらいいのか、ということを常に考えて努力している。すごい。みんな、好きなもの、大好きなもののために頑張っている。

ほかの出てくるお客さんたちもいい人ばかりだし、自分ができることをおかみのためにやろうとしてくれる人もいる。大変な別れや辛い思いを経験している人たちばかりがやってくるが、みんな自分の人生に向き合って生きている。映画を観た人はわかると思うけれど、登場人物の人生観が良すぎる。登場人物みんな好きってなる。観た人は色々あるかもしれないけれど、僕はみんな好きです。そうじゃない人もたくさんいると思いますので、観た人はぜひ語り合いましょう。


③ 脚本の流れ

このテーマと題材を描くうえでこれ以上の脚本は無いだろう、と思うほどの素晴らしさ。バケモンかよ…と思うくらいの良さ。

ストーリーの軸は「若おかみ、おっこの成長物語」だが、そこへの人物の絡み方が本当によい。色々な人たちが、おっこに一歩を踏み出すきっかけを与えてくれたり、辛い時や大変な時に助けを出してくれたりする。ただ、おっこもその人たちを救ったり支えたりしている。そうして季節が巡る。

季節が巡る、その中で人々が交流して、つながりが生まれて、成長したり辛いことを乗り越えたり、理解しあったりする。人生を生きていくことの素晴らしさ、尊さがこの脚本にはあふれている。

特にこの作品が素晴らしいのは、「生きていくこと」には「死んでいくこと」も含まれている、ということ。生きていく上で必ず乗り越えなくてはならない「死」にも向き合って、この作品は生きることや、人々が心を通わせあう営みの素晴らしさを伝えてくれる。

主人公が小学生だと侮るなかれ。この作中でおっこは、大の大人でも経験しないであろう「両親との死別」という悲しい経験を自分の中で消化し、それを乗り越えてたくましくなる。


以上ほめちぎりタイムでした。

ほんと、映画体験として損はさせないと断言できる作品なので観てほしい。感動した。

あと、「ジンカンバンジージャンプ」という挿入歌(配信ストリーミングにある)は明るい曲なんだけど、よく聞くと、この作品が大事にしている人生観・スタンスみたいなものも伝わってきて良かった。

こういう挿入歌の歌詞って聞きこむと深いよね…


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