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クリエイティブは誰のものなのか論

今日は、僕の起業プロジェクトに一番最初に参画した人物の思い出を語りながら、「ブランドとはいったいなんなのか?」に迫るような話をしてみたいと思います。


事業をやっているとしばしば、「ブランドとは一体なんなのか」といった疑問にぶつかります。

前職ソニーを退職した2012年、僕はひたすらに事業計画書を作っていました。1人なのでオフィスもなく、最初は自宅の部屋でした。当時はリモートワークなんて概念はありませんでしたから、自宅に籠って作業をしているとご近所の目が気になりましたし、親戚が集まった時にはいちいち説明するのが大変でした。

事業計画と言っても、数値や経済的な計画のためにエクセルと睨めっこをしているだけではありません。どんな世界を作ろうとしているのか、どんな調査をしたのか、そして真っ白な紙の上に想像できるうる限りの具体的なオペレーションをイメージして描き起こしていきます。

「ブランドを作らなきゃ」
・・・僕の起業プロジェクトに1番目の仲間になってくれたのは、2つ年上のクリエイティブディレクターさんでした。

僕は当時だいぶマニアックな趣味を持っていて、自分でもPhotoshopやIllustratorを動かしたり、動画やプチ映画の制作をしたりしていたのですが、外資の巨大広告エージェンシーの第一線で1日20時間稼働しているようなプロのクリエイティブディレクターと出会うのはそれが初めてで。

彼と一緒に働くことで「デザイン」や「ブランド」に対する考え方が自然と自分に叩き込まれていったことはとてもラッキーな経験でした。

毎週 21:00頃から 恵比寿の高層階でミーティングを重ね、そのあとは近くのラーメン屋で一杯やりながら、「自分はいつかこんな世界観のラーメン屋を開きたい」なんて馬鹿な夢を語り合う、おしゃれでファンシーな価値観を持ちながら、クリエイティブに対しては超絶ストイックな人でした。

昼間に撮影があると、グラスジャーを片手にじっと見つめたまま15分くらい静止して、時折目を閉じて首を捻ったりしていました。

ラフスケッチを覗いてみると何度も消した跡が真っ黒になっていて、感情高まって何かを閃いてしまったのか、よくわからないコピーが派手な吹き出しで書き込まれていました。

AM 4:00 に電話で修正のやりとりをすることも何度かありましたし、撮影が夜中までかかって全員を車で送ることもありました。喧嘩することもしょっちゅうでした。


FICO & POMUM というブランドはそんな過程で生み出されていったもので、2013年にはそのディレクターさんと一緒に現在のF&Pのコンセプトやクリエイティブの原型が形成されました。

それはたとえば・・・

日本にやってきた新しい文化を表現するためにカップの代わりにグラスジャーを使うことだったり、

スタッフのことを「ガイド」と呼ぶことにしたり、

スムージーの撮影をするときには、それまでに日本にあったスムージーと「F&Pの本格スムージー」を区別し差別化するためにリッチな濃厚さを表現する「てっぺんの山」 (=マウンド) を意図的に作るようにしてこれがF&Pのアイデンティティになっていたり、

アメリカンクラシックなカジュアルスタイルを表現するためのユニフォームとしてデニムシャツが採用されていたり、

FICO & POMUM と書くときには必ず "&" の前後に半角スペースを空けることにしたり・・・

みたいな、本当に些細なことに至るまでです。

そしてそのディレクターさんが役目を外れてしまって以後は、西野がその役割を引き継いで現在に至っています。

「西野さん。ブランドというのは作り手が発信して生まれるものではなくて、受け取った相手が思い浮かべる時に生まれるものなんです」

「いいデザインとは、見る人がこちらの意図した目的に沿って動いてくれるデザインです」

「『見た目がいい』とか『かわいい』『おしゃれだ』というのは見る人の感性によって全部違うので、ブランドの人格とか世の中の時流に合わせていいか悪いかを判断しないといけません」


以来、夜な夜なこんなことを言っていたディレクターさんの言葉を思い出しながら、僕はそのマインドを自分の中にインストールして、「F&Pの人格」や「時流」「見え方」を計算しながら日々のブランドやクリエイティブに関わることを判断しています。


「ブランドとはなんなのか?」という議論は巷でも散々されていますが、少し自分哲学めいたところで (正しいかどうかはさておき) 僕自身のあくまでここまでの経験から自分の言葉で表すと、こんな感じになると思います。

・・・「ブランドとは、人格だ。」

(この記事は、2022年7月に社内向けに発信された内容をもとに編集を加えています)


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