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エッセイ:1歳児と大雨を楽しんだ日

朝、長男の通園バスを見送ると、鉛筆で書いたような色の雲が、ものすごいスピードで流れていた。

「うわっ、空やばいね」
「早く帰ろ、帰ろ」

同じバス停のママ友たちは、今日は立ち話もなしにそそくさと去っていった。



自分だけなのだろうか。

この自然が荒れ狂う気配に、胸がうずうずと沸き立っているのは。



長男が登園したあとは、1歳の次男と昼過ぎまで2人で過ごす。

いつもなら、すぐ家に入り家事をするが、今日はガレージに留まり、「そのとき」を待つことにした。

アンパンマンの乗り物で遊んでいる次男をよそに、早送りのような空を見つめ続ける。


ポツ、ポツ、ポツ……

やった、降ってきた。

ボッ! ボッ! ボッ!

雨はすぐに、叩きつけるように勢いを増した。

次男は、「へっ?」という顔をして、アンパンマン号から、地面へと視線をうつす。

たちまち、いたずらな瞳を輝かせ、ガレージの外へと、てくてく歩いて行った。



「濡れちゃうよ、風邪ひくよ!」

残念だけれど、私はそんなことを思う親じゃないのだ。


「行け行け、濡れてこい!」

そう思うタイプの、たぶん世の中の少数派の親だ。



次男は、文字で表現するなら
「うきゃきゃ!」とでも言うような顔をして、空が与えてくれた突然のおもちゃを、全身で楽しんでいた。


すごい。
つめたい。
おもしろい。
ぬれる。
おとがする。
はじける。


大きくなったら、君はどんな言葉で、この激しい雨を表現するの?


まだ言葉を知らない内に、感じてほしかった。

自然の力強さ。
抗えない、パワー。

服が濡れたっていい、泥が跳ねて汚れたっていいよ。
 

秋の六甲山に行かなくても、西の魔女のお家で暮らさなくても、身近で自然は感じられるよ。

雨の日に、家にいるだけなんてもったいない、とやっぱり私は思うのだ。



10分ほどの豪雨が過ぎ去ったあと、雨粒が垂れる葉っぱのオマケまで楽しんでから、私たちは家に帰った。


もちろん私もびしょ濡れだ。

ぬるい部屋で着替えさせ、やわらかい髪を乾かし、いつものお茶を2人で飲む。


少数派の親なのかもしれない。
それでも、君と遊んだ今日を忘れない。




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