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1日5分の読書にオススメ 『言葉の色彩と魔法』ラフィク・シャミ著 松永美穂 訳 西村書店

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ラフィク・シャミ。なんとも不思議な響きの名前です(クシャミではないですよ!)。アラビア語でラフィクは「友、仲間、同志」、シャミは「ダマスカス人」という意味のペンネーム。1989年発表の『夜の語り部』(邦訳は1996年、松永美穂訳、西村書店)は世界150万部のベストセラーとして話題をよんだので、記憶にある方もいらっしゃるかもしれません。

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                          ⒸArne Wesenberg

1946年、シリアの首都ダマスカスに生まれたシャミは、祖父母や近所の大人からたくさんのお話を聞いて育ちました。しかし、大学時代に発行した風刺的な壁新聞が発禁処分を受け、「言論の自由の無い社会で生きる困難を感じるように」なり、71年に兵役を避けてドイツへ留学、そのまま亡命してしまいます。家族と離れ、職業を転々としながら苦労して習得したドイツ語で執筆を続け、ドイツではミヒャエル・エンデにならぶ人気作家として現在も活躍中です。

『夜の語り部』でも描写されていますが、故郷のダマスカスには「マクハ」というアラブ風喫茶店があり、店にはプロの語り部がいて、面白い話が聞ける店ほど繁盛するという土地柄。まるでアラビアン・ナイトのように物語を次々とつむぎ出すシャミの素質は幼少期から育まれてきたといえるでしょう。

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『言葉の色彩と魔法』はそんなシャミのエッセンスがぎゅっとつまっています。「人生の物語の宝庫」ともいうべき59編の短編一つひとつに、妻で画家のレープが美しくも懐かしい挿絵を描いており、少年時代の思い出や、アラブとドイツの文化的な違い、童話や寓話など、どこから読んでも楽しめます。
「描かれているのは、あらゆる物語の萌芽だ」(作家・水原涼さん)*1
「辛さの周りにあるおかしみが心を楽しませてくれる」(林さかなさん)*2

フランクフルト・ブックフェア会場に、シャミさん登場

2019年10月14日、訳者の松永美穂さんがシャミさんご夫妻に面会しました。写真でシャミさんが手にしているのは『言葉の色彩と魔法』の新しいドイツ語版です。本書はもともとカレンダー(!)として数年つくられていましたが、好評のため書籍化されたそうです。朗読がさかんなドイツで場数をふんできたシャミさん自身の朗読によるCDブックもあるとか。聴いてみたいですね。

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「59編のうち、どの作品がお気に入りですか?」と松永さんが尋ねると、なんとおふたりとも同じ作品を挙げられました。「バラーディ」(128ページ)。そこには「亡命先の国の言葉に、ぼくは文学的故郷を見出した」と書かれ、ドイツでアラブ人にとってとても根源的な言葉「バラード」の語源について知ったことが綴られています。
 ちなみに日本語版の表紙の絵の短編は「よその習慣」(12ページ)。こちらはアラブ人とドイツ人のおもてなしにまつわる話で、思わず笑ってしまうこと請け合いです。
くつろぎたいときに、夜寝る前の5分に……シャミの世界に浸ってみてはいかがでしょうか。

*1 北海道新聞 2019年8月4日付 水原涼の「降っても晴れても」
*2 本の雑誌2019年8月号 「新刊めったくたガイド」林さかな

【第1回紀伊茶屋ブックサロン(2019年10月24日、紀伊國屋書店大手町店にて開催)より一部再構成】

ラフィク・シャミ 好評既刊(西村書店ホームページ)

◆特別インタビュー:ドイツ語で故郷シリアを書き続けるラフィク・シャミさん 2018年10月ニュースレター『With You』(国連UNHCR協会発行)第40号掲載