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これからシティプロモーションに取り組む皆さんへの提案「しみ出す広報」とは

 このnoteでは、私が大阪府四條畷(しじょうなわて)市役所でシティプロモーションにも関わってきた中で見えてきたことを実例も添えてお知らせしたいと思います。地方創生のキーワードのひとつである関係人口、ひいては転入者を増やすためのプロモーションのやり方はこれまでと違っても良いのではないか?そしてそれは原点回帰に近いものではないか?という提案です。withコロナ、afterコロナの時代を踏まえた考え方を読んで参考にしていただければ幸いです。

まず、シティプロモーションとは 

 この言葉に馴染みのない人もまだまだ多いかもしれませんが、シティプロモーションとは、

地方活性化を進めるために、各自治体はさまざまな戦略を検討しています。地元の特産品をテレビなどのマスメディアでアピールしたり、地元のマスコットとして「ゆるキャラ」を作ったりして、地元地域を宣伝していることは良く知られているでしょう。シティプロモーションとは、このような自治体ごとの「営業活動」を総称して呼ぶ言葉です。近年、地域の魅力を探し出し、地域イメージとして確立させることが地方活性化の秘訣になっています。

ネオマーケティング社は定義しています。補足すれば、自治体は持続性、長く存続する力を持つことが重要であり、その源となる人口をどのように維持していくか、あるいは企業等を誘致するかという点で、地方創生と言う名の人口獲得競争時代にあっては域外からの人の流れを作っていく上で各地域で情報発信することが重視されてきています。

シティプロモーションの実情

 シティプロモーションの取り組みがどのようになされているか、現状把握をするのに良い調査がありました。千葉県我孫子市と社会情報大学院大学が2019年7月に発表した関東圏5都県自治体シティプロモーション実態調査結果によると、

関東圏の自治体の中で、シティプロモーション・セールスなどを事務分掌に記載している割合は、98 自治体で約 4 割。市と東京 23 区でみると約 5 割となっている。

 つまり人口が集中している中でその獲得競争がなお厳しい関東地方にあっても、自治体としてしっかり取り組んでいるところが全てではない、きわめて新しい概念であることがわかります。なお、この調査では関東圏の自治体のシティプロモーションの取り組みの様子を多角的かつ定量的につかめるので、これからシティプロモーションに取り組む担当者にはおすすめです。

シティプロモーションの類型

 このように比較的新しい考え方のシティプロモーションも、取り組み方によって類型を分けることができます。すごくざっくり分けてしまうと以下の2種類に収斂できると思います。これらはゼロサムではない(どちらか一方に偏っていてどちらかを完全にやらないということはない)ので、どのような割合で使い分けるかは自治体によるところになります。

1)メディア活用型
 マスメディア、インターネット、OOH(屋外広告)など、企業の有する媒体を使ってメッセージを発信する方法です。テレビCM、テレビ番組での取り上げ、インターネット広告、SNSコラボレーション、雑誌掲載、駅などの看板掲載、デジタルサイネージなどなど手段は多岐にわたります。

メリット:一度に認知度などを高められる
デメリット:お金がかかる、アウトプットがコントロールできないことも、コスパが悪いことが多い、効果測定が困難な場合あり

2)シビックプライド醸成型
 ここ数年のトレンドはどちらかと言えばこの類型です。
 地域住民とともにその地域の強みや特色を共有し、住民とともにメッセージを発信していくものです。いわゆるクチコミを重視しつつ、1)の媒体を活用するパターンもあります。

メリット:地域住民を巻き込み大きな力となりうる、高コスパでの成果が期待できる
デメリット:市外への効果はまちまち、内輪ネタで終わる恐れも

良いシティプロモーションと成果のギャップ

 自治体が取り組むシティプロモーションの事例はテレビや新聞などマスコミやネットニュースなどでも日々紹介され、そのことがさらに認知度を上げブランディングにつながることもあります。

 しかし、注目すべきはその取り組みを通じて自治体の人口は増えたのか、定住人口でなくても関係人口は増えたのかということです。こちらについての詳細な検証はまた後日公開しますが、少なくとも言えることとして、シティプロモーションの質や結果と人口増減には完璧な正の相関が見られるわけではないのです。自治体が行うプロモーション以外にさまざまな要因で人は動くので特定できないのと、ちゃんと発信したのかというアウトプットを重視し、結果どうだったかのアウトカム検証がまだまだなされていない状況が散見されるからです。途中の効果検証としてネットプロモータースコア(NPS)などを調査によって測るケースも見られますが、あくまで「シビックプライド醸成型」で住民を巻き込めているか、ということが重点であり、最終的な目標に向けた検証ではありません。今後はシティプロモーションの効果検証として、コストと成果をしっかり見極めた上で次年度の取り組みにつなげるというプロセスが必須と言えます。

新概念「しみ出す広報」とは

 これまでで紹介した既存のシティプロモーションの取り組み方に一石を投じるのが、「しみ出す広報」という考え方です。どの自治体でも広報の仕事は必ずあって、オフライン媒体では広報誌の制作、広報板へのポスターの掲示、地区回覧板での周知などを行い、オンラインではホームページ、SNS(ソーシャルメディア)の管理を行っています。これらの仕事は対象が住民向けに限定されていて、その地域に住む人々に伝われば良いものですが、実はその質に結構な差があります。特に差が大きいのはインターネット媒体ですが、ネットでの広報には市町村や都道府県では限定されず地域外の人も見ることはできるので、ある意味では関係ない人々の耳目に触れる機会はあるのです。例えば、ある市に住んでいる人が自分の市役所のツイートがすごく良い発信だったと感じて「いいね!」やリツイートという行動をすることによって、市外の人がそれを読む。そのような事象の積み重ねで、市内向け広報が市外へ染み出していく(しみだしていく)、これを「しみ出す広報」と名付けたわけです。

 つまり、これからのシティプロモーションはあえて市外に向けて人的金銭的コストをかけずとも、地域住民向けに良い広報をすることに注力することで、自然とその地域の魅力が感じられ、移住しようという思いを醸成できるのではないかと考えています。これをひたすら遂行するだけでなく、メディア活用型とシビックプライド醸成型との組合せでシティプロモーションに相乗効果を生むのもアリだと思います。

「しみ出す広報」の事例

 一例として、2018年2月に四條畷市が公式LINEを開設した時のことをご紹介します。私はスマートフォンで住民とつながる手段が必要と感じ、当時も普及率が高く普通に使われていたLINEに着目し、公式LINEの開設を市長へプレゼンテーションし、庁内調整に奔走しました。その際、ただ開設するだけでは住民にも知ってもらいにくく友だち登録してもらえないと考え、全国初となる事例を生んで注目を集めたいと考えました。さまざまな経緯の末、トーク画面から市内道路の不具合について住民が市役所に知らせられるようにしようとして、この仕組みを整えてスタートしたところ、テレビや新聞、ネットニュースで取り上げていただき、友だち登録数のスタートダッシュに成功しました。今でも、大阪府内のLINEアカウントで比較すれば人口あたりの登録数はトップクラスです。

 幸運だったのは、たまたま関西テレビで報じてくださった時のパネラーに犬山紙子さんがいて、とても関心を寄せてくださいました。おそらく出演時に友だち登録してくれて、その後発生した大阪北部地震の際に、犬山さんのツイッターから四條畷市公式LINEのことをご紹介くださり、さらなる登録増につながって住民に有効な広報手段になったばかりか、市外にもその評判が広がりよく問い合わせをいただいています。

 私は犬山さんと面識があるわけでもなく、お願いしたわけでもありませんが、ツイートしていただくほど感情を動かさせていただいたことに、この仕事の意義を感じています。もともとは住民のためにと考えたことが、市外の人を介してまた住民に伝わる。市外にしみ出すことによって、その人達を動かせるという可能性があるわけです。

結論

 これまで自治体が行った業務としての広報のあり方、取り組み方をもう一度振り返り、その質をひたすら上げる努力をすること。それが住民にとって良い広報、命を守る広報につながり、その良さがクチコミで地域外に伝わることが最強のプロモーションとなる。広報は広報、シティプロモーションはシティプロモーションと別なものではなく、より良い広報の先に関係人口増、転入増がつながるということを共有できればと思います。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。今後、広報に関する書籍を出版予定ですので、関心をお持ちの方はフォローしていただけますと幸いです。関連情報を公表していきます。


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