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その新製品、本当に必要ですか?

中判フィルムカメラのHasselblad 500C/M を使うようになって、1年半くらい経ちました。

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そのカメラは、写真家だった伯父が使っていたものです。伯父は別のカメラをメインにしていたため、Hasselbladはかなりの年月、防湿庫で眠っていました。

製造から40年以上。
防湿庫で放置され数十年。

ぼくがHasselbladを見つけ、ともかくフィルムを入れて撮ってみたとき、できあがった写真には意図しない光が入り込んでいました。フィルムを装填するマガジンに隙間があって、光が漏れていたのです。

そのままでは、撮る写真すべてに意図しない光が入ってしまいます。

ネットでHasselbladを修理する会社を探し、コンタクトを取ることに。すると「長期間、使っていないなら、ほかに不具合があるかもしれません。オーバーホールしてみましょう」と話が進み、ひと通り直してもらっての料金が約13万円。なかなかのお値段です。

話は、これで終わりません。さらにその一年後、今度はシャッターに不具合が発生しました。シャッターボタンを押しても、シャッター幕の降りない現象が多発したんです。

フィルムを巻き上げるクランクを小刻みに動かすと、「カチッ」と音がしてシャッターが切れるようになります。つまり、撮れなくはないんですが…。撮りたい瞬間にシャッターの降りないのは、かなりストレス。

ということで、再び修理へ出しました。なるべく安く済むことを期待しましたが、シャッターまわり以外にも不具合が見つかり、今度は9万円強かかりました。

Hasselbladを使うようになって、2年弱。これで修理代だけで、トータル約22万円です。22万円と言えば、今どきのデジカメならそこそこ良いクラスのものを買えます。

しかも「これで、2度と修理に出さなくて良い」なんてことは絶対にないんです。

なにしろ生産から40年以上たっているカメラですから、部品のところどころが摩耗しています。これからも、ことあるごとに不具合が出てくるでしょう。修理に出すと別の不具合が見つかり、また10万円前後の費用がかかってしまう。

こうして考えると、古いフィルムカメラを使うのは割りに合わないように思えます。

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Hasselbladを使うまでは、10年以上、デジタルカメラを使ってきました。デジカメは素晴らしいことに、故障らしい故障は一切ありませんでした。スペックの高い新しいモデルが出て買い換えるまで、問題なく使えていたんですね。

ではデジカメのほうがフィルムカメラよりコスパが良いかと言えば、それは一概に言えません。なぜかというと、この、「持っているデジカメを、高スペックの新製品に買い換える」が曲者なんです。

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デジカメは毎年、新製品が登場します。発表されるたび注目されるのは、スペックです。

画素はどのくらいあるのか、オートフォーカスの精度、ホワイトバランスの性能、手振れ補正はどのくらい効くか、カメラ内フィルターに良いものはあるか、などなど。

少しでも簡単に、より正確で美しい写真を撮れるよう、絶えず性能アップがはかられます。

そのためデジカメを使っていると、どうしても新製品が気になってきます。ホワイトバランスの性能が少し良くなったところで、撮る写真が劇的に良くなるわけではありません。でも「新しく出た」というだけで、目移りしてしまうんです。

これは、新型スマホと同じです。iPhoneの新しい発表があると、今持っているものとたいして性能は変わらないのに、手に入れたくなってしまう。「必要かどうか」より、「ともかく欲しい」という衝動が湧き上がってきます。

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もちろんHasselbladが現役だった40年前もまた、同じような感じでした。それこそ毎年のように新製品が生まれ、Hasselbladの場合は1949年の初号機の発売から凄まじい種類の機種が誕生しています。

そのため、いま自分が使っているHasselblad 500C/M よりも性能の良いHasselbladのフィルムカメラは、すでにたくさん世の中に出回っているんですね。スペックを考えれば、買い換えたほうが今よりストレスなく写真が撮れるはず。

でもぼくは、それらに興味を持ちません。もちろん手にしているカメラが、伯父の遺品なのが大きいですが…。古いフィルムカメラを手にしたからには、そのカメラが持っている性能で撮れるものを受け入れよう。不便な部分も、愛そう。そんなふうに思うからです。

話を整理すると、

・デジカメを使っていたときには、スペックの高い新製品が出るたびに目移りしていた
・一方、古いフィルムカメラを使っている今は、より性能の高いフィルムカメラには興味を抱かない

これが何を意味しているかといえば、性能の善し悪しは所詮あとづけの理由であって、新製品が欲しいと思うのは、ただそれが「新製品だから」なんです。

カメラだけでなく、先に例に出したスマホであれ、パソコンであれ、スピーカーであれ。すでに持っているものの新製品が登場すると、「欲しい」という衝動が生まれてくる。

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この「新製品が欲しくなる現象」について、いま読んでいる本に記述がありました。

本のタイトルは、『THINK SMART』です。

この本の第28章に、新製品の記載があります。タイトルは、そのままずばり「私たちが『新しいもの』を手に入れようとするわけ」。

50年前の人類は、50年後の生活をどのようなものになると想像していたでしょうか。当時の本を見ると、「空飛ぶ車が走り、ビルの間にはリニアモーターカーのチューブがあり、不老不死を手に入れて、食事はカプセルの錠剤だけで済ませている」と考えていたんですね。

でも、実際の50年後の今。そのような、絵に描いたような未来の光景はありません。身の回りのほとんどのもの(本棚や食器、衣服、靴、本、メガネ…)は、50年前にもあった大昔からの発明品に占められています。

50年前のひとは当時の先端技術を見て、「このぶんだと、未来は今とまったく違った世界になっているに違いない」と考えたわけですが、結局、今でも残っている大部分は大昔からあるものなのです。

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つまり人間は、最新技術というだけで過大な評価をしてしまうんですね。新しいデジカメが出ると目移りしてしまうのは、それが必要だからではありません。単に、「今持っているものよりも、段違いに素晴らしい」と過大評価しているだけ。実際には、大差ないにもかかわらず。

新製品のたび買いたい衝動が出てくるのは、精神的によいとは言えません。買い換えてばかりいれば、故障の多いフィルムカメラより、費用もかかってしまいます。

「デジカメのほうがフィルムカメラよりコスパが良いかと言えば、それは一概に言えません」と書いたのは、こんな意味からでした。

そうは言っても、毎年のように修理費がかかるカメラはなかなか大変です。

Hasselbladの写す世界が好きになってしまったので、それほど修理費が掛からないよう、大切に使っていきたいと思います。


写真展します。

『NORDIC LIGHT(仮)』
期間 2020年7月18日(土)〜2020年7月22日(水)
場所 カフェ&ギャラリー ミュゼ(石川県金沢市柿木畠3-1 2F)

準備のあれやこれやを、Twitterでリアルタイムにお知らせしています。
こんな写真を撮っています。→ Instagram @nishidekoichiro

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伯父の遺したフィルムカメラで、写真を撮っています。年に数回、ヨーロッパへ一人で行き、旅行記も発信しています。