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2017年J2第8節 ヴォルティス徳島対名古屋グランパス レビュー「ボールは時限爆弾じゃない」

2017年J2第8節、徳島ヴォルティス対名古屋グランパスは、2-2の引き分けでした。名古屋グランパスの試合を観ていると、大抵の試合で前半は相手チームのペースで進みます。この試合も同様で、前半は徳島ヴォルティスのペースで進みました。

素晴らしかった徳島ヴォルティスのサッカー

徳島ヴォルティスは、2017年シーズンからリカルド・ロドリゲス監督が就任し、明らかにサッカーの質が向上しています。この試合は4-4-2のフォーメーションで戦いましたが、前節までは、3-1-4-2のフォーメーションで戦っていました。この試合では、センターバックがパス交換している時は、カルリーニョスがヴァシリェヴィッチの左に下がってきて、3人が並んでパス交換します。カルリーニョスの左足のロングキックを活かして、相手の守備の狙いを外すだけでなく、名古屋グランパスが5-3-2というフォーメーションで守っているのですが、名古屋グランパスのFW2人に対して、3人の選手でパス交換することで、数的有利を作り、相手にボールを奪われないように工夫していました。

また、敵陣にボールを運ぶ時の1人1人の役割も分かりやすかったです。岩尾が中央に位置し、DF3人のパスの受け手となり、左右のサイドバックがタッチラインギリギリまで開いて、相手の守備者同士の間隔を広げようとします。FWの渡は常に相手DFとGKの間のスペースを狙い、相手のDFを下げさせようとします。相手のDFが下がったら、杉本、島屋、前川といった選手が、田口とワシントンが守るスペースの両脇と間でボールを受けようと動きます。特に杉本が間で受ける動きは、タイミング、動き方共に抜群で、何度も彼の動きからチャンスを作り出していました。(鹿島アントラーズでは、サッカーのプレーモデルが違うので、彼の能力が活かされないのが残念です。)

名古屋グランパスがボールを運べなかった要因

名古屋グランパスは、徳島ヴォルティスのサッカーに対応できないまま前半を終えてしまいました。楢崎と櫛引の守備がなければ、前半のうちに失点していたと思います。まず、DFがボールを持っても、敵陣にボールを運べません。徳島ヴォルティスの守備も素晴らしかったのですが、ボールを運べなかった要因は4点考えられます。

1点目は、FWのシモビッチとフェリペ・ガルシアのボールを受ける動き、相手を外す動きが少なかったからです。2人共ボールを受けることが出来れば、ゴールチャンスを作り出せる能力を持っています。この試合で2得点とも2人がプレーに関与している事も、2人のボールを持った時の能力が高いことを示しています。しかし、2人共ボールを持っていない時の動きに課題があり、味方がボールをセットしてパスを出したい時に、相手を外して、パスコースに顔を出さないのです。ただ立っているだけの事が多いのです。したがって、名古屋グランパスのDFがボールを持って、2人が見えていても、2人が相手を外せていないので出せない。そんな場面が見られました。

2点目は、田口とワシントンのボールを受ける動きが遅く、タイミングが悪い事です。2人とも、動くことは出来ていましたし、相手を外すことを意識して動いている事は、プレーから感じ取れました。しかし、味方がパスを受けてから動いているので、相手のマークを外せないだけでなく、味方としては出したいタイミングから少し遅れてパスを出すことになってしまうので、テンポが少し遅れてしまうため、相手に捕まってしまいました。本当は横方向のパスでボールが動いている間に、動き直して、相手の守備者を外し、ボールが受けられる場所に移動しなければなりませんが、2人とも味方がボールを止めてから動いているように見えました。

また、2人とも相手の守備者が自分に向かってきたら、相手の背後を取るようにして動くのではなく、横に動いて、相手が向かってきた場所を避けられる場所で受ける傾向があります。相手の背後を取らないと、自分に向けられた相手の矢印を外す事は難しく、結局動いても動いても相手に捕まってしまいます。特に田口は相手を外そうとするあまり、どんどん受ける場所がDF近くに下がってくるのですが、そこには既にワシントンがいるので、受けたい場所が見つからない。そう感じているように見えました。ただ、僕は田口の受け方が改善されれば、その問題は解決されると思います。実際、玉田はポジションを必要以上に下げずに、ボールを受けているのですから、参考にして欲しいと思います。

3点目は、DFがボールを運べなかった事です。味方が捕まっていたら、自分でボールを運んで、相手を引きつけて味方をフリーにすることがDFにも求められます。櫛引は求められている事を理解し、何度もボールを運ぶプレーを披露してくれましたが、宮原と内田はなかなか実行することが出来ませんでした。特に宮原は相手が永井を警戒しているので、相手の守備者のアプローチが遅かったにもかかわらず、ボールを運ぶプレーより、味方のパスを選択していました。

一見、宮原自身はミスしていないように見えますが、宮原からパスを受けた選手は、厳しい場所でパスを受けるので、結果的にボールを奪われてしまう事がありました。宮原のプレーは、ボールを爆弾のように、自分のところで爆発して欲しくないから、人に受け渡したようなものです。自分はよいかもしれませんが、チームとしてはよい選択をしたとはいえません。そして、風間監督はこの宮原のようなプレーを許す監督ではありません。

そして、4点目は、杉本が相手に捕まっていたことです。上記3点の問題は、これまでの試合でもみられました。しかし、上記問題を解決してくれていたのが、杉本の運ぶドリブルでした。杉本がボールを敵陣に運ぶことで、味方が動き直す時間を作り、相手を自陣に押し込む事に成功していました。しかし、この試合では杉本に対して、徳島ヴォルティスの前川と広瀬が2人でマークにつき、岩尾がパスコースを塞ぐように立ち、これまでの試合のように杉本がプレーすることが出来ませんでした。開始早々の接触プレーによって、杉本が負傷した影響もあったと思いますが、徳島ヴォルティスは杉本をとても警戒していました。

選手交代で問題を解決した後半

名古屋グランパスは後半になって、選手交代で問題を解決しようと試みます。まず、宮原に代って古林を入れます。古林にボールを運ぶプレーをしてもらうことで、対面の島屋と馬渡というプレーヤーの注意を引きつけ、永井への注意を引きつける事に成功します。そして、杉本に代って八反田を入れる事で、中央でボールを受けられるプレーヤーが玉田だけだったのを、もう1人増やしました。この交代によって、名古屋グランパスペースで試合が進むようになりました。

八反田が中央でボールを受けてくれるので、今まで玉田だけマークしていた徳島ヴォルティスの選手が、八反田も警戒しなくてはならなくなったため、玉田が少しずつフリーになってきました。玉田への警戒心を強めた事で、田口がフリーになり始めます。八反田は出して受ける動きが上手いので、八反田が動いてパスを受ければ受けるほど、他の選手がフリーになり、後半の2得点につながり、一時は逆転に成功しました。

しかし、八反田を入れるという決断は、リスクも伴う決断でした。八反田は中央でパスを受けるので、徳島ヴォルティスの右サイドにフリーの選手が生まれます。そして、ウイングバックが永井と八反田なので、共に守備が得意な選手ではありませんので、相手の攻撃を古林、櫛引、内田とボランチのワシントンで迎えうつことになってしまいました。そして、前半から徳島ヴォルティスのペースで推移していたため、永井は守備に戻る時間が増えてしまい、体力を消耗させてしまいました。徳島ヴォルティスの同点ゴールは、永井がボールを奪われた事が要因ですが、永井を責める事は出来ません。後半古林に求められたのは、出来るだけ永井を守備に戻らせず、ミスなく敵陣にボールを運ぶプレーだったのですが、出来たのはボールを運ぶプレーだけでした。試合後の会見で、風間監督が珍しく不満を口にしていましたが、それは古林なら出来るという期待の現れだと思います。

櫛引と楢崎がいるからリスクがとれる

負けてもしかたないと思えるほどの試合で、勝ち点1を持ち帰る事が出来たのは、櫛引と楢崎のおかげです。

楢崎はこの試合で好セーブを連発。41歳の誕生日の試合で、健在ぶりをアピールしていました。楢崎が素晴らしいのは、あれだけ実績のある選手なのに、監督が求めるプレーに適応し、自身のプレースタイルを変えている事です。明らかに守備する位置は高くなり、相手がDFラインの背後を狙ってきても、的確な位置取りで相手に狙い通りの攻撃をさせません。また、キックが得意な印象はありませんでしたが、バックパスをしっかりと味方につなぐプレーを披露しています。開幕当初はロングキックを蹴る場面もありましたが、今は空いている味方をみつけ、しっかりパスを繋ぐプレーも出来ています。

そして、櫛引はここまで2017年シーズンのMVPといえるプレーを披露しています。守備範囲が広く、1対1で抜かれず、ヘディングも強い。そして攻撃も、開幕当初はパスのテンポが遅かったのですが、今ではテンポも上がってきましたし、ボールを敵陣に運ぶドリブルも時折披露してくれます。試合ごとにプレーのレベルを上げている選手の1人です。

この2人がいるからこそ、風間監督はDF3人のフォーメーションを採用しているのだと思います。櫛引以外のDFは宮原と内田が務める事が多く、2人ともセンターバックタイプの選手ではありません。どちらかというと、サイドバックかMFでプレーすることが多い選手です。しかし、この2人を起用する事で、DFのパス交換のテンポを上げて、より攻撃の質を高める事が出来るのも、櫛引と楢崎という素晴らしい選手がいるからです。名古屋グランパスの戦い方は、相手に押し込まれたら失点のリスクも高い戦い方なのですが、この2人がリスクを軽減してくれています。改めて2人がいるありがたみを感じた試合でした。

まだまだ課題だらけ。それでも首位。

4連勝でストップしてしまいましたが、連勝中も凄くプレーの質が高かったわけではありません。改善点は山ほどあるチーム状態でしたが、どうにか個人個人の力で相手をねじ伏せていただけでした。しかし、徳島ヴォルティス戦を終えた事で、課題も明確になり、よりレベルアップする必要性を選手、スタッフ、そしてサポーターも感じたと思います。まだまだシーズンは始まったばかり。課題がたくさんある状態で首位にいるのは、悪いことではありません。

チームがどのように課題を解決していこうとしているのか。チームがどのように成長していこうとしているのか。これからの試合が楽しみです。

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