寺の鐘六月柿を食む童

寺の鐘は夕刻五時になると鳴り出して、
子供衆たちに「はよ、かえれ。はよ、かえれ。」と急かす。
まだこの時期は外は明るい。
帰りたくない都会の子は、
帰省先のばぁばが作る畑のトマトを、
懸命に懸命に喰うては、汁と汗をTシャツに汚す。
「おーい、戻ってこーい!」
父の声がする。
この声にはもう観念したようで、
子供衆は詰まらなさそうにばぁばの家の元に向かう。
夕飯をせっせと済ましたら、夜の遊び。
軒先には蚊取り線香、子供たちは縁台で父と将棋を指す。
父は手加減をして、常に一手違いで負けてやる。
そうすることによって、上達するのを知っているからだ。
夜は障子を開け、星に見守られながら川になって寝る。
どこまでも続くような夏休みの一場面。
ありきたりな情景。
だからこそみんな思っている、
いつまでも続くと良いのになぁ、と。
「寺の鐘 六月柿を 食む童
      帰れ帰れと 蝉の音が急かす」

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