ぽかぽか犬

ぴくぴくと動いている。あっ、という口のかたちのまま声を出せずに固まっている。手綱の先にいる犬。名前がある。どの家の犬にも名前がある。野犬には名前がない。アフリカの象や、アマゾンの極彩色の鳥のように、日本の野犬と呼ばれる。僕の手に握られた手綱の先の痙攣するものには名前がある。それは徐々に変質する状態に名付けるにはあまりに冷ややかな響き。日曜日のテレビ番組、扇風機とスイカ。電線の上のカラスがじっと僕たちを見つめている。僕は想像する。真っ暗な暗闇に浮かぶ青い星の中で、バンパーを凹ませたまま走る一台の赤い車の、運転手の額から顎にかけて流れる汗を。

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