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これからの個人ブランド構築には「文脈力」が必要だ

これからの時代、個人個人がブランドを構築していく必要がある——というのは各所でくり返されている言説だ。これは、ぼくもそう思う。というのも、今や大企業に属していることがブランドとなりにくい。逆に、人は所属している組織以外のところに価値を見出すようになってきている。

では、何に価値を見出すのか?

いろいろあるが、一番はその人の「話しの面白さ」だろう。むしろ、それ以外が思いつかないほどだ。とにかく人は、話しが面白い人を信用し、そこにこそ価値を見出す。

今の時代は、相手に「この人は話しが面白い」と思われることが何よりのブランドとなる。特に、社会的に地位があったり能力があったりする人ほど、人を「話しが面白いかどうか」で判断する。だから、面白い話しができるようになれば、それだけでもう効果的な人脈は築けたも同然なのだ。

ところが、今巷に出回っている「話しを面白くする」というメソッドには、ある視点が欠けている。それは、「話しの内容を面白くする」という視点だ。その逆に、「話術」にばかり焦点が当たっている。

それは、料理でいえば「調理方法」に当たる。もちろん、調理方法で料理が美味くなることもあるように、話術で内容のない話しが面白くなることもあるだろう。しかし、料理でも食材さえ素晴らしければ調理などいらなくなるのと同じように、話しでも本質的にだいじなのは内容の方で、話術は「あればいいくらい」のものに過ぎない。

話す内容が面白ければ、話術の上手い下手は問題ではなくなる。だから、個人ブランドを向上させるためには、何よりも話しの内容を面白くする必要があるのだ。そのメソッドこそ、今求められている。

しかしながら、前述したように今の世の中には「話しの内容を面白くする方法」がなかなか見つからない。なぜかといえば、「それは教えられるものではない」と多くの人が思っているからだ。おかげで、端からメソッド構築を諦めている。また、これまでは「話術の向上だけで十分」というのもあった。話術を向上させれば、つまらない内容でもそれなりに面白くできる。そうすれば、社会の中である程度のブランドを築けた。

しかし、これからはそうはいかない。というのも、話術が面白い人というのは、それこそ話術メソッドの広がりなどによって、掃いて捨てるほどいるようになったからだ。そのため、最早それだけでは差別化できなくなった。これからの時代は、話しの「内容」が面白いかどうかが、決定的な差別化要因となった。だから、誰もが本気で話しの内容を面白くすることに取り組まなければならなくなった。

では、話しの内容はどうすれば面白くなるのか?

実は、それをする上で最も効果的な方法の一つが、「文脈を構築する」ということである。魅力的な文脈を構築し、それについて話すことだ。

先日、2019年のアカデミー賞が発表されたが、印象的なことがあった。それは、受賞スピーカーのスピーチが、必ずしも話す技術が高くなかったことだ。「話術」が拙かったことだ。

例えば、監督賞と撮影賞に選ばれた『ROMA/ローマ』のアルフォンソ・キュアロン監督は、ひどいスペイン語なまりだった。

主演男優賞に選ばれた『ボヘミアン・ラプソディ』のラミ・マレックは、シャイでおどおどとした態度を隠そうともしなかった。

主題歌賞に選ばれた『アリー/ スター誕生』のレディ・ガガは、人目も憚らず泣きじゃくり、おかげで言葉がなかなか出てこなかった。

それにもかかわらず、多くの人がこの3人のスピーチに釘付けになり、深い感銘を受けた。それは、彼らの話しが魅力的な文脈に則っていて、従って話しが面白く、非常に興味深かったからだ。

キュアロン監督は、自身のメキシコ出身という出自が映画のテーマにもなっているため、メキシコなまりを隠そうとしないばかりか、最後はあえてスペイン語でスピーチを締めた。マレックは、自身が移民だった出自を語り、そこに彼が演じたやはり移民のフレディ・マーキュリーを重ねるという文脈で受賞を解釈した。レディ・ガガは、アカデミー賞の受賞を「勝利ではなく諦めなかった結果だ」という哲学的な文脈でとらえてみせた。

これらを見て思ったのは、彼らこそ「現代に必要なのは話術ではなく、話しの内容だ」ということを証明する存在だということだ。彼らは、単にアカデミー賞の受賞スピーチだけではなく、これまでの人生の中でも魅力的な文脈を構築することに力を注いできた。おかげで、話術を磨く時間がなかったのだ。だから、この日のスピーチでも、話術は拙いままだった。しかしおかげで、内容はとても濃いものとなったのだ。

そうして重要なのは、彼らはそういうやり方——つまり話術ではなく話の内容を充実させるような生き方をしてきたことで、アカデミー賞を獲ったということだ。その選択によって、この日の栄光を勝ち取ったのである。

これを見ても、魅力的な文脈を構築し、話しの内容を面白くすることこそ、今の時代を生き抜く上で最も必要なことだというのが分かる。文脈力を向上させれば、自然と話しの内容も面白くなる。そして話しの内容が面白くなれば、個人ブランドは構築され、今のこの厳しい時代を逞しく生き抜いていけるようになるのだ。

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