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増水後のニジマスの活性はなぜ上がる?

今回から科学論文から釣りに関する話題を提供していこうと思います。

今回ご紹介するのは、下記の論文です。
Cocherell, S. A., Cocherell, D. E., Jones, G. J., Miranda, J. B., Thompson, L. C., Cech, J. J., & Klimley, A. P. (2011).
Rainbow trout Oncorhynchus mykiss energetic responses to pulsed flows in the American River, California, assessed by electromyogram telemetry. Environmental Biology of Fishes, 90(1), 29-41.
https://link.springer.com/article/10.1007/s10641-010-9714-x


題名にある通り、日本でも一般的な釣りの対象魚「ニジマス」の河川の行動に関するお話です。
著者の疑問は、(人間の都合による)放水の乱発によってニジマスの行動量が増加することで、例えば成長や繁殖にエネルギーに使えず良くないのでは?というものした。
そこで、原産国のアメリカのダム河川で、ダム放水下でのニジマスの行動を追跡した、という内容でした。

結論を一言で言うと、
ダムから放水し始めると、その下流に生息するニジマスの行動量や代謝が大きく上昇するが、流量がピーク時にはすでに行動は低下している、ということでした。

ダム放水がされ、増水が徐々に始まった段階で、ニジマスの行動量が増加する理由を筆者は2つ考えているようです。
①普段いる居心地の良い場所(≒最適な餌場)を維持するため、増水してもその場を死守(保持)するため行動量が増えた。
②増水によって餌との接触機会が増加するため、積極的に餌を取りに動いている。


増水ピーク時に、すでに休憩状態に入っているというのは、
すでにプールなどの流れの緩い場所へ退避していることを示します。

これをニジマス側から考察すると、
増水開始時からピークに達するまでは、行動や代謝が増加し、エネルギーを一気に消費する。
増水ピークに入る頃には休憩に入る(エネルギーの回復期)。その際、餌場が近かったり、餌がたまたま流れ着けばラッキーですが、実際はある程度運でしょう。
そのため、増水が落ち着き、減水に入れば再び”いつもの行動”に戻るはずで、エネルギー消費がありましたから、当然餌を探す行動は活発化すると言えます。


雨や放水などの増水後、釣果が上がるのは河川での釣り経験者はご存知のことでしょう。
私も雨で増水した後やダム放水後(もちろん放水中や直後は危険です!)、流量がある程度落ち着いてからの釣りを経験したことがあります。
釣り人が良く話す”増水後に魚の活性が上がる”というのは、もしかするとこんな原理だったのかもしれません。
(実際、私も増水後の中規模河川で50cmオーバーのいわゆる”大物”を釣り上げたことがあります)

また、増水によって河川の様相は大きく変化します。
例えば今までなかった巨大なプールが形成されたり、複雑な流れが出来上がったり、いわゆる氾濫原の形成も増水後の変化の一つです。
これは魚にとっても餌場や生息域の拡大に繋がっていますが、釣り人にとっても狙うポイントが増加することでチャンスが増えます。


さて、これから梅雨も本番です。
河川の増水には十分注意しながら、楽しい釣りができたら良いですね。

ちなみに・・・・

ニジマスの追跡にはバイオテレメトリーという技術を使っています。
この技術は発信機を魚に装着し、受信機とアンテナを使って、その魚を追いかけまわすという方法です。
非常にシンプルですが、河川敷を一日中、重い受信機とアンテナを担いで行ったり来たりするため、なかなかのハードワークを強いられます。

バイオテレメトリーによるサクラマスの行動追跡事例
https://www.pwri.go.jp/jpn/about/pr/mail-mag/webmag/wm037/kenkyu.html

魚への発信機装着は魚の表面に外部装着する場合や、腹腔(体内で臓器が収納されている空間)に埋め込む(implant)する方法などがありますが、
今回は後者を採用しているようです。
私はインプラントと言われると、宇宙人に何か埋め込まれたXファイル的想像をしてしまいますが、魚から見ればまさにその通りかもしれません。魚には優しくありたいものですね。

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