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湖内の回遊行動?

科学論文を釣り情報へ還元する第3回目の投稿です。

今回ご紹介するのは、下記の論文です。
Ueda, H., Kaeriyama, M., Mukasa, K., Urano, A., Kudo, H., Shoji, T., Tokumitsu, Y., & Kurihara, K. (1998). Lacustrine sockeye salmon return straight to their natal area from open water using both visual and olfactory cues. Chemical Senses, 23(2), 207-212.
https://academic.oup.com/chemse/article/23/2/207/541304

今回はヒメマス(ベニザケ)は何を手がかりに自分の生まれた場所へ戻るのか?をテーマに湖内のヒメマスの行動を追跡したという研究です。
前回、前々回の投稿と同様に、発信機を魚に装着して行動を追跡するバイオテレメトリー手法を利用しています。
(行動を追跡する研究ではよく使われる方法なんですね。。)

結論を一言で言うと、
(題名にある通り)成熟したヒメマスは視覚と嗅覚を頼りに自分の生まれた場所へ戻るのだろう、ということでした。

というのも、
サケマス類の母川回帰性(自分の生まれた川へ帰る習性)には色々な説があり、
川の匂いを嗅覚によって探知する、視覚で探知する、磁気で探知する、太陽の位置を探知する、などして母川へ帰ると言われています。

今回の研究では、このうち視覚と磁気の利用について検証しています。
何も処置しないヒメマスは、直線的に自分の生まれた場所(今回の場合は孵化場)に帰って行ったが、
視覚を妨害されたヒメマス(網膜乖離)は自分の生まれた場所に帰れる場合と帰れない場合があったそうです。
また、強力な磁石を頭部に装着すること磁気感覚を妨害したヒメマスも、何も処置のない個体と同様に直線的に生まれた場所へ戻れたそうです。

下記の本によれば、サクラマスについても似たような調査がありました。
サケの記憶 生まれた川に帰る不思議(上田宏著・東海大学出版部刊)
https://www.amazon.co.jp/%E3%82%B5%E3%82%B1%E3%81%AE%E8%A8%98%E6%86%B6-%E7%94%9F%E3%81%BE%E3%82%8C%E3%81%9F%E5%B7%9D%E3%81%AB%E5%B8%B0%E3%82%8B%E4%B8%8D%E6%80%9D%E8%AD%B0-%E4%B8%8A%E7%94%B0-%E5%AE%8F/dp/4486021150

サクラマスも同様の追跡を行っており、
視覚を妨害したところ、ヒメマスと同様に迷走し、
ワセリンをサクラマスの鼻に入れて嗅覚を妨害した場合も迷走することがわかったそうです。

ちなみに・・・・
今回の論文の調査地である北海道の洞爺湖は、サクラマスやニジマス、ブラウントラウト、ヒメマスの釣りが楽しめるマス天国です。
しかも超大型のサクラマスやニジマスが過去に何度か連れています(2006年2月、82cm・6.7kgというモンスターサイズの記録も)。

今回の研究(特にサクラマスの方)では、湖のかなり沿岸を悠々と回遊をしていることがわかりました。
また、ヒメマスもサクラマスも視覚や嗅覚はかなり重要な感覚と言えそうですね。

だとするとルアーやフライなどの疑似餌は視覚のみですが、本物の餌であれば嗅覚も頼りに探索しているので釣果として成功率が高いのか??
と一瞬思ってしまいますが、その点は疑似餌の場合は派手なアクションも付けられるので、そう安易な解釈もできませんね。
疑似餌の場合は、着水地からキャスティング位置までの「線」で勝負しますが、いわゆる”餌釣り”の場合は「点」で勝負します。
この点も考慮するとどちらがが有利なのか、実際大規模に試験をしてみたいものですね。

また、昼夜で遊泳する層が違うそうです。
(例えば、サクラマスは日中は温度の変化の大きい場合の中層あたりを、夜間は表層をそれぞれ遊泳した結果もありました)
層が違うことで水温が異なりますし、イベント(産卵期など)によっても好む層が大きく変化するようです。

湖の釣りでよく言われる「回遊ルートを見極め、風を読みながら粘る」というスタイルは索餌回遊のパターンに入っている場合ですよね。
しかし、必ずしもこれだけとは限りません。先のパターンのように産卵時期であっても、プレスポーン(産卵前)、スポーンニング(本産卵の時期)、ポストスポーン(産卵後)と3つに分かれ、
それぞれ全く回遊ルートや好む層が異なることが言えます。もちろん産卵時期の釣りは避けたいものですが(禁漁の場合も多いですよね)、
こういったパターンの変化を読むにはやはり通うしかないのかもしれませんね。
洞爺湖の時期と回遊パターンは公にはわかっていませんが、きっと常連アングラーはこのパターンを知っているのかもしれません。

今回はあんまり釣りへの還元は出来ていませんね。
また次回にご期待を。

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