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初めて一人暮らしする人に教えてあげたい

初めて借りた部屋、それは22歳で上京して借りた部屋だ。

先に上京していた当時大学生の弟と住むことになったので、最初からそれはそれは広い部屋だった。3LDKの分譲マンション。場所は町田駅から徒歩3分ほど、住所は相模原市(神奈川)だが、上京の仲間に入れていただきたいと思う。

引っ越して早々、弟の分と自分の分、2人分のご飯を作った。炊事洗濯などの世話は姉なので容易い御用だ。おかずに添えられたサラダを見て弟が、

「この野菜洗った?」

と質問してきた。

「え、洗うの?」

スーパーの野菜は全て業者が綺麗に洗ってくれているので買ってから洗う必要がないと思っていたのだ。それくらい何も知らないまま2人暮らしが始まった。

何も知らないままという位なので、初めて借りた部屋の、マンションの住人にも迷惑をかけた。1度ではない、2年間に4回も迷惑をかけた。それもほぼ下の階のSさんにだ。

以下、エピソードと共にやってはいけない事を紹介したいと思う。

1、脱水は絶対にしなければならない

季節は秋だった。洗濯日和だったので普段洗わない物を洗おうと、バスマットや玄関のマット、キッチンのマットなどを洗った。少量だったので風呂場で踏みつけて洗い、しっかりと雑巾絞りをしてベランダの手すりにかけた。

しばらくするとインターホンが鳴った。エントランスではなく、部屋のドアの向こうに人がいる。ドアの穴を除くと困った顔の女性が何度もインターホンを押していた。

誰! 怖い!

そのまま居留守を続け、恐る恐る外に出るとメモ用紙が壁のドアについていた。

「下の階の者です。上から水滴が落ちてきます。脱水をしてから干していただけないでしょうか」

という内容のものだった。洗濯物は手で絞ってもしばらく経つと下に水分がたまり、水滴となってたれる事を知った。手すりに干す洗濯物はどれだけ天気がよかろうと夏だろうと脱水は絶対にするべきだ。

メモ用紙を読んで、慌てて下の階のSさんに謝りに行った。小さなお子さんが2人いるお母さん。いい人だった。

2、ゴム手袋は洗わず捨てろ

これは今までの暮らしの中で最大の失敗だった。

私が通っていた小学校は、トイレなどで使うゴム手袋を定期的に洗う習慣があった。その記憶が残っていた為に、手袋の裏がくさくなったら洗面所で洗う癖がついていた。

この日もいつも通りゴム手袋を洗おうと洗面所の底に蓋をし、ゴム手袋と洗剤を入れて水を溜めるために水を出し続けた。ちょっと待てばすぐ溜まるのに、つい他のことに目が眩んでしばらくその場を離れていたら、ピチャピチャと聞きなれない水の音がしていることに気づいた。

ゴム手袋が上側に付いている排水口に詰まって洗面所から水が溢れ続けていたのだ。それも結構な量だ。

あ〜あ。私らしい失敗だなあ。と苦笑いしながら拭いて、事なきを得たと思っていたのだけど、数時間したら、家に不動産屋さんから電話がかかってきた。

「何か水を大量にこぼしたことはありませんでしたか?」

水? 嫌な予感がした。

「数時間前に洗面所を水浸しにしてしまいました。」

「おそらくその水が下の階のSさんのところに到達したのかもしれません。天井から水が落ちてくると電話がありました。」

またSさんに、しかもまた水の件で大迷惑をかけてしまった。管理会社の担当さんに、今から直接謝りに行きますと提案したところ、

「今日は夜遅いですし、Sさんも気持ちが高ぶってらっしゃったので明日が良いかと……」

Sさんはめちゃくちゃ怒っている。気が動転した。水ってこんなに簡単に床や鉄筋を通じて落ちていくものなの?

パニックになっているとインターホンが鳴った。今回も部屋のドア越しに人がいる。穴から人を見たら男性が立っていた。前回会ったSさんの旦那さんだ。

めちゃくちゃ怒られた挙句、どんな状態か見に来てほしいと家に招かれ、「あなたは賃貸でしょうけどこっちは分譲で買ってるんだ!」と私に向かって声を荒らげた。Sさんの奥さんはパニックになって、仕事中の旦那さんをタクシーで呼び戻したのだそう。旦那さんには場合によっては訴えるとも言われた。

頭が上がらなかった。申し訳ないしかない。家にいった時、Sさんの奥さんは顔を向けてくれなかった。

防水って水を使う小さな規模だけにしか効いていないから、水に関しては本当に気をつけたほうがいい。洗濯機も壊れて水が漏れたりなんかしたら、どんどん床を浸透していき、あっという間に下に到達してしまう。

後日、菓子折り(ヨックモック)を持っていき、Sさんの奥さんのところへ謝りに行った。一軒家しか住んだことがなかったので……。と余計なことを言ってしまったが、あと1年でこの部屋を出ますので、それまでは何卒よろしくお願いしますと頭を下げた。

あと1年でいなくなるという情報はSさんにとっては吉報なはずだ。ヨックモックより喜んでもらえたと思うのでこっちも安堵した。

「何をしてらっしゃったのですか?」と聞かれたので正直に「ゴム手袋を洗っていましたら、排水口に詰まって水が溢れてしまいました」と話した。ちんぷんかんぷんな顔をしていたが、結局Sさんは優しかった。

とはいえ、Sさんとばったり遭遇してしまうのが気まず過ぎて、毎日家を出入りするのが憂鬱で名古屋に帰りたくなった。玄関とエレベーター付近は人がいると毎回汗がじんわりと出た。そんな毎日をしばらく送っていたが、知り合いのアドバイスや楽観的な弟のおかげでなんとかなった。

ゴム手袋を洗うとき、半分裏返して中に水を半分入れ、ぎゅっと押すと綺麗に指のところまで裏返るという小学2年生の時に得た豆知識、そんなものを披露する機会はもうないだろう。物を大切に使うことはいいのだけど、トラウマになったのでもう洗うことはない。

3、ベランダでも音は響く

当時帽子を作る専門学校へ行っていたのだが、ちょっとパンチの効いた帽子を作りたくて、ハットのリボンのところにスタッズを打ったことがあった。

学校ではやる時間がなかったので家でやろうと思ったが、それだと打つ振動が下の階のSさんに響くので迷惑がかかってしまう。少し考えてベランダでやることにした。

当たり前だが下の階に響いてしまった。

Sさんとは直接やりとりすることなく、警察が来て注意された。

「カンカン叩く音がしたみたいなんだけど……何やってたの?」

と聞かれて、帽子のリボンにスタッズを打ち込んでいました。という説明が面倒くさくて、

「壊れた椅子を直していました」

と嘘をついた。

ベランダってなんでもできる最高のスペースだと思っていたのに、やれることもやれないことも部屋とほぼ一緒なんだとこの日に学んだ。

4、素振りは公園でしろ

弟から「やっちまった」とメールが送られてきた。

「なにをやっちまったの?」と聞いたら、

「部屋でゴルフの素振りをしていたら天井の火災報知器にカンって当たって、外からジリリリリ!って音が鳴ってしばらくしたら消防車が来た」とのこと。

さすがにそれは嘘だろ!!! 話盛ってるだろ!!と言ったら写メが送られてきた。うちのマンションの下に停車している、赤い光を放った消防車。

嘘でも盛ってもいなかった。

あと少しで引っ越しだというのに最後の最後になにをやってくれたんだ。私は家にいなかったから巻き込まれなかったけど、他の住人、管理会社、消防の人たちに多大な迷惑をかけた。Sさんは絶対私たちのせいだと思っているだろう。

引っ越しの時に、今度は管理人さんに迷惑をかけたのだけど、胸焼けするので割愛したいと思う。

Sさんはあのマンションで元気に暮らしているだろうか。たくさん迷惑をかけてから15年が経った。その経験があったからなのか、私は今、隣人や下の階の人に迷惑をかけずに暮らせていると思う。

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このタオルは引っ越してすぐ、両サイドの住人に「これからよろしくお願いします」と持っていったタオルの一部。当たり前のように居留守をされ続け、自分が使う羽目になった。これも都会ならでわ。

というか、これめっちゃ汚くない? 捨てるわ。

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