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町屋に泊まる

 2014年7月、姫路に転居した頃の日記です。
 
 姫路に来て2週間後の休日、何は兎も角、京都に行こうと、
東山の片泊りの宿を予約した。
片泊まりの宿は、夕食なしの一泊と朝食、気軽に泊まれる。
 
 京都駅からバスに乗り祇園の手前、東山安井で降りて、
脇道に入ったところに目当ての宿屋を見つける。
通りに面した狭い間口の左側に小さな門があり、個人名の表札がある。
看板がなければ、普通の古民家にしか見えない。

片泊まりの宿 京都町屋


 
 門を潜ると、奥行きは意外と深い。
数メートル先の右側、幅広の玄関は開けっ放しだ。
木造3階建て、元々はお茶屋さんだったとか。
黒い柱と厚い床板が目立つ旧い日本家屋は、如何にも町屋だ。
 
 60歳に届きそうな女将が、大きな声で気さくに、且つ丁寧に挨拶して
身軽な身のこなしで2階に案内してくれる。
板張りの階段を上がり、廊下に面した大きな襖を開け、部屋に案内される。
 
 12畳ほどの和室には、次の間も洗面もトイレもない。
意識的にレトロ感を出しているわけではなく、現役の普通の住居だ。
床の間の左側には紫檀の違い棚が造作され、
欄間にもそれなりの飾りが施されており、
よく見るとなかなか手が込んでいる。
床の間と反対側は明かりとりの障子で、外の廊下が中庭に面している。
 
 女将が冷たいお茶を持ってきて、暫し話をする。
言葉つきから想像したらしく、東京からですか、と聞くので、
姫路からだと言うと意外そうだったが、
仕事の関係で2週間ほど前に姫路に来たばかりで、
元々は東京だと言うと、納得顔でうなずく。
 
 更に、どんなお仕事ですか、と聞かれるが、答えにくい。
本当のことは分かりにくいし、出来れば言いたくない。
年齢から、サラリーマンの転勤とは言いがたいし、
特別な技術を持っているわけでもないし、先生でもない。
結局、鉄鋼関係の技術者ということで、一応、納得してもらった。
片泊まりには一泊と朝食に加えて、女将のお喋りがつく。

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