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超大型機動自律兵器スノー・ホワイト

昔々。
王国。城の最深部。
「ああそうさ、やったのは私だよ。馬鹿な娘だ、見知らぬ人の差し出す物によく手を出せたもんさ」
老婆は腕と壁を繋いだ鎖をがちゃつかせる。皺と老斑に覆われているものの、姿の変わる前の美貌はその顔に確かな痕跡としてとどまっている。
「無駄話はいい。聞かれたことに応えろ」
「何度も言ってるじゃないか。口づけしかないんだって」
尋問官の手には押収した林檎が握られている。二週間外に放置しているのに、黴一つ付かない。
「愛する人の口づけでしか、目覚めない。あたしでも馬鹿げた仕組みだと思うよ。でも、鏡のいうことに嘘はなかった。私は美しさや純潔を見縊ってたよ……眠らせるしかなかった、それも馬鹿みたいな条件をつけてね」
白い雪のような美しさ。図らずも老婆に共感してしまっている自分への、なんともいえない感情が、尋問官の表情を硬くした。
「口づけすれば目覚めるんだったら、その呪いを解くことは簡単さ。だから、少し変えただけ。呪いの中核を変更する事は不可能でも、その周辺なら幾らか変えられる。口づけを行おうとする奴が容易に接近できないよう、娘を改造することもね」
震動が牢を揺らした。
「起きたようだね」

王国領西のはずれ。地盤を絨毯のように覆っていた深緑、その平面を唐突に引き裂いた亀裂を眺める人物が二人。
「本当にあの姫なのか」
「隠れて見えなくなってますが、姫様自身は生身のまんまです。ただ、ここまで成長しているとは思わなんだ」
城と同じ、いやそれよりも大きい。
周囲の樹木や岩が取り込まれていき、今さっき森を焼き払った熱で溶け落ちた砲が再構成された。尖塔のように角を突き立たせた山ほどもある威容が王国の首都を目指して歩を進めている。
「くれぐれも無茶しないで下さいよ。特別な唇を持っているのは、貴方様しかいないんですからな」
そう従者が言い終わらないうちに、王子は目を見張る。
「どうしました」
「こちらを見た」

【続く】

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