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西表島、アダナデの滝その① 仲良川を目指す

 「知らない」を「知る」好奇心はこの先、何歳になるまで持ち続けられるだろう。与えられて「知る」のではなく、自ら「知らない」ことを「知って」、意識的に「知り」に行く。

意識的に知りに行こう。知らないのだから。

 2020年7月、人生5回目の西表島で今まで行ったことのない場所に眼差しを向けようと思った。特に今回の旅のテーマのひとつである、「地に足をつけるための活動、人間が作らない、自然に触れる」の達成も兼ねてだ。

 私の「知らない」レーダーに引っかかったキーワードは「仲良川」。

 2年前、西表島に訪れたことがきっかけで三線を始めたのだが、三線の師匠である山内昌也先生が弾いていた「なからた節」という歌が好きになった。だから、いま私は練習している。どこの場所の事を歌った歌なんだろうと調べた時に運命だと思った。なぜなら、その場所は西表島だったからだ。

「なからた」は「仲良(なから)川」と同じ場所。

 山内先生の歌っていた「なからた節」の歌詞は、琉球舞踊である「瓦屋(からやー) 」という演目の時に踊りに合わせて演奏する曲、「なからた節」、「瓦屋節」、「しゃうんがない節」の三曲から構成される中のひとつで、十五夜の立派なお月さまの下で遊びましょう、という様な内容だ。一方、本歌は八重山民謡で、仲良川周辺に広がった水田の名前を「なからた」と呼び、歌詞の内容は稲の豊作、粟の豊作を喜ぶ歌だ。なからた節を練習するたびに、「なからた節の仲良川」の景色を想像するようになっていた。

 2年ぶりの西表島、行ったことのない所を探していた時に、なんとも魅力的なツアーを見つけた。「西表島ティダカンカン」というショップのアダナデの滝に行くシャワークライミングツアーで、その滝は、仲良川の支流の先にあり、仲良川をカヌーですすむっ!っというではないかっ!

知りたかった仲良川と、行ったことのないアダナデの滝。私に行かないという選択肢はないのだ。

  ツアー当日、良く晴れた無風の静かな朝、お世話になっている民宿さわやか荘の前の道路でツアーの迎えを待っていた。車の音がして、顔を向けると遠くから見慣れた風貌の男性が小走りでこちらに向かってくるのが分かった。背は高く、こんがりの日焼け、背中近くまで伸びたロン毛に口のまわりの毛むくじゃらのヒゲ。

のけ反りながら、思わず吹き出した。静けさのなか、1人で爆笑だ。そこには約1900km離れた自宅で私の帰りを待ってくれているはずの旦那さんがいたからだ。

ウソです。

ロン毛の毛むくじゃらのヒゲ正体は、カヌーツアーのショップ、ティダカンカンのKさんだった。初対面で迎えに来た客が爆笑していたら、何事かと思っただろう。あいさつも早々に、私が笑った理由を話し、旦那さんの写真を見せると、Kさんも爆笑だ。西表島には、実にロン毛の毛むくじゃらが良く似合う。

西表島の白浜地区にある白浜港まで向かう車の中から後ろを振り向くと、三艘のカヤックが後を付いてきている。今日の相棒だ。相棒は時々、道のデコボコでガタンと言う。また、ガタンッ。今日はよろしくねと聞こえた。つづく