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休業補償問題で浮かび上がる“セーフティネット格差”

10日(金)午後、小池百合子東京都知事が娯楽施設や大学、劇場などに11日から5月6日まで休業を要請すると発表しました。要請に応じた事業者には50万円の「協力金」を給付する方針も示しました。要請の対象などを巡って東京都と政府のせめぎ合いが続きましたが、何とか週末前にいったんの折り合いは付けた格好です。きょう取り上げるのは、これらとも関連していますが、一連の休業補償問題を巡って浮き彫りになった日本社会の“セーフティネット格差”の問題です。結論を先取りすれば、フリーランスを中心に、極めて脆弱な仕組みになっている。「アフターコビッド」を考える上で欠かせない課題です。

少しだけ基礎知識の確認。(※10日(金)に日経CNBC朝エクスプレス「マーケット・レーダー」にご出演いただいた第一生命研究所の副主任エコノミスト、星野卓也さんの解説に基づきますが、僕自身にとっては正直言って普段なかなか意識しない分野の話でした。とても勉強になりました。)

2 休業時の公的な所得補償制度

上記の図表にある通り、休業時の公的な所得補償制度には①労働基準法に基づく「休業手当」、②健康保険制度による「傷病手当金」――の2種類があります。「休業手当」は企業側から「休みなさい」という指示があって初めて労働者が受け取ることができます。企業には平均賃金の60%以上を支払う義務があります。一方、「傷病手当金」は被用者保険に加入していれば企業都合かどうかにかかわらず支給されますが、こうした保険に加入しない働き方をしている人には適用されません。ちょっと別の整理をしてみましょう。

3 所得補償制度の整理

図にある①の場合、「休業手当」「傷病手当金」の両方を受け取れる可能性があるのに比べ、②になると「傷病手当金」は受け取れません。そして、切ないのが③。自営業主やフリーランスの場合、こうしたセーフティネットの枠外にいるのです。

今回の新型コロナウイルスではライブ、劇場などの大規模イベントが一斉にストップになりました。また、大規模な会場での講演の類もほぼ消失しました。僕のまわりには業務委託契約の形で一緒に仕事をしている制作スタッフ、コメンテーターやゲストがたくさんいます。一言でいえばフリーランス。従来のセーフティネットの枠外なのです。

現在、こうしたフリーランスという形態で働く人は約300万人、全体の5%程度といわれています。こうした人たちの多くを、コロナウイルスによる休業が直撃しているのです。「さすがにこれでは……」ということで7日に発表された政府の経済対策では、大幅な収入の減少があった自営業主やフリーランスに対して、最大100万円の給付金を支給することが決まりました。日本では初めての仕組み。どのような手順が必要で、どのくらい時間がかかるのか。そもそもこうした制度を必要とする人たちに必要な情報が行き届くのか――。課題は山積です。東京都などで非常事態宣言が発令されたとはいえ、新型コロナウイルスの感染拡大を食い止められるのかどうか、瀬戸際の闘いが続いています。休業がどのくらいの長さになるのか、場合によってはさらなる追加措置の可能性も十分に考えておく必要があるでしょう。

前出の星野さんは「フリーランスを巡る社会保障格差はかねて大きな問題だったが、今回のことでようやくスポットがあたった格好」といいます。少し前まで日本では、ある意味では世界中で人手不足が大問題でした。フリーランスという働き方は、「自分自身の専門性を活かして自由に働く」スタイルとして最先端のものだと受け止められてきています。日本型雇用見直しの必要性が叫ばれる中、政府成長戦略の中でもシンボル的な位置づけを与えられていたとも言えます。しかし、セーフティネットがあまりに脆弱なままでは、こうした働き方を選ぶ人が減ることは避けられないでしょう。雇用の流動化、働き方改革、クリエイティブ人材の創出――こうした課題が絵空事で終わらないためにも、危機対応と同時にアフターコビッドのセーフティネット再構築が必要です。

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