見出し画像

“緊急利下げ”はなぜ効かないのか?

大荒れが続く金融市場。週が明けても波乱が続きます。まず日本時間の16日(月)早朝、米FRBが緊急利下げを決めたのには正直びっくりしました。17-18日に定例のFOMCに控えるタイミングでありながら、わざわざ米国時間では日曜日の夕方に発表1%の利下げでゼロ金利政策へ。同時に米国債などの資産買い入れを今後数か月間で少なくても7000億ドル購入することで量的金融緩和も再開しました。市場は定例のFOMCで1%の利下げをかなりの確率で織り込むかどうかという感触でしたので、明らかにサプライズを演出したのだと思われます。

サプライズはFRBの政策にとどまりません。この動きを横目で睨みながら、シカゴCME取引所のNYダウ先物が1000ドル強の急落。取引が停止となるサーキットブレイカー水準で張り付いたまま、週明けの米国市場を待つことになりました。

さらに日本時間の午前8時50分には別のサプライズ。日本銀行が急遽前倒しで金融政策決定会合を16日の正午から開くと発表しました。もともとは18~19日に金融政策決定会合を開く予定でした。主要国の中央銀行がドル資金流動性供給で協調する姿勢も示しました。午後になって発表されたのは、(1)一層潤沢な資金供給、(2)企業金融支援のための措置(金融支援特別オペとCP・社債買い入れの増額)、(3)ETF・J-REITを当面これまでの倍のペース(年間12兆円、1800億円)で買い入れ――の3つの柱でした。“日銀待ち”だった市場では、日経平均株価の上げ幅が一時約300円あまりとなりましたが、結局16日の終値は429円安の1万7002円。こちらも株価に“効いた”ようにはみえない。控えめに言っても冷淡です。まあ、その後の黒田東彦総裁の会見の通り「短期的な反応だけではない」とは思いますが。。。

先週のECBも含めて中央銀行の金融政策が少なくても株式市場では歓迎されない、世界的な市場の混乱を収束させるに至っていないのにはいくつか理由があると思います。短期的なものと長期的な考え方を一つずつ。

短期的には、これはもっともな話なのですが、「新型コロナウイルスには金融政策は効かない」というものです。リーマン・ショックとの比較で言っても、当時は金融危機が世界経済を凍り付かせたわけで、その危機のど真ん中に資金供給し、量的緩和を含む金融緩和政策を取ったことは“効いた”と思います。新型コロナウイルス問題では、ウイルス、感染症という外部ショックが実態経済に影響を与えることが心配されている、もしかしたら金融システムにも影響があるかもしれないという話です。もし特効薬があるとしたらそれは新型コロナの特効薬であり、人の動きを止めていることで発生する資金繰り対策、所得補填のようなポイントになるはずです。

では長期的にはどうか。これは正直言って今回の危機の前から次第に認識されていたことだと思いますが、これだけ低金利が常態化してしまうと、そもそも金融政策の効きが悪くなるというものです。かなりざっくりした言い方ですが。次の金融緩和の余地があまりないところにショックが襲ってきてしまった印象です。特に米国で。もちろん量的緩和とかマイナス金利とかあるいは資産買い入れなどなど、金融政策の手法はいろいろと開発されていて、それらはそれらで何らかの経済環境の改善に資するのだろうと思いますが、政策としての比重は財政政策や所得再分配政策の方に向かいつつあるのではないでしょうか?今回の世界的暴落の中では、金融政策が効かないようにみえるところが市場の恐怖をあおっているように思えますが、そういう過程を経ながら、次第に政策の軸足が移っていく、そういう段階に今いるように思います。問題や対応が絞り込まれていくという意味で決して悲観一色ではないと考えます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?