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小売はデジタル化が生き残り策だというが、EC化だけが答えじゃない。「小売の最先端で何が起きているのか」講座レポート

新型コロナの影響で、世界的に厳しい小売、アパレルを取り巻く環境。
5月、日本ではレナウンが民事再生の手続きに入り、オンワード HDが700店閉鎖、キャスキッドソンの日本法人が破綻するニュースがありました。
一方で、この変化に対応しようと、ZARAのように、思い切ったデジタルシフトをする企業も出てきています。

コロナ禍において変革を迫られている各業界ですが、とくに逆風吹きすさぶ小売、アパレル業界において、このピンチをチャンスに変えて乗り越えようとする企業の戦略は、他業界の企業、あるいはプロジェクト、個人の生き方にも応用できるエッセンスがあるはずです。

そこで、小売×テクノロジーにより、コロナ禍においてもぶれずに事業を推進する、国内外リテールテック企業、特にアパレル企業の戦略を学ぶ会を、日本経済新聞とnoteが共同で運営するコミュニティ「Nサロン」メンバー限定で7月16日に開催しました。

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メガネスーパーのEC事業を7倍、アパレル企業3社のEC事業を2倍以上にした実績をもち、日経COMEMOキーオピニオンリーダーも務める川添隆さんと、「ユニクロ対ZARA」や「アパレル・サバイバル」(日本経済新聞出版社)の著者である齊藤孝浩さんをお招きし、日経で小売を中心に取材を続ける大岩佐和子編集委員がお話を伺いました。

コロナで変わること・変わらないこととは?

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ー川添氏
ここ数ヶ月間の企業の取り組みを見ていると、コロナをきっかけに企業が新しいことを始めたということはあまりないような気がします。例えば、マスクの販売やzoom接客が生まれたことはコロナ特有だったかもしれませんが、基本的には「前もって準備していたこと」のように思います。

ファストファッションチェーンに関して言えば、店舗を増やさない(むしろ減らす)ことや、店舗を大型化すること、デジタル化を進めることなどを、コロナ前から着々と準備していたと思います。

ー齊藤氏
オンラインで情報を得る顧客が増えて、オンラインで済むことはオンラインで済ませれば良いという考え方が広がったと思います。顧客側のオンラインに対する期待の高まりで、これまで対応していなかった企業も急遽デジタル化を進めたはずです。対応に迫られて取り組んだ企業と、前もって準備していた企業とで、その差がかなり見られたと思います。

オンラインとリアル店舗の比率は変わる?

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ー川添氏
もともとアパレル業界のリアル店舗はオーバーストアの状態でした。ですから、ここから1年ほどはリアル店舗の数は減る方向に進むと思います。

ECの消費指数は、1月末に比べて4月以降は20〜30%程度しか上がっていないようですが、この数字はおそらく、Eコマース(オンラインで購入し宅配業者に配送してもらう)のみの数字です。オンラインでの購買体験は多様化しています。オンラインで注文して店舗受取するなど、Eコマースのみがオンラインではないことに注目する必要もあると思います。

ー齊藤氏
海外の事例を紹介すると、イギリスに「NEXT」というアパレルがありますが、オンライン比率は50%と非常に高いです。しかし、そのうちの半分は「店舗受取」です。店舗に行く時間がないからオンラインで買い物をする、でも宅配だと送料がかかり、日本より宅配事情はよくありません。そのため、自分の都合で受け取れて送料もかからない店舗受取をする人も多いということです。

決済のタイミングだけを見て(オンラインで決済されているからと言って)、その比率に合わせて店舗を減らすという判断はできないと思います。店舗には「受け取る場所」という役割もあり、取りに行けば「ついで買い」なども起こるからです。

百貨店はどうなるの?

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ー川添氏
ファッションに関しては、ここ数年、百貨店は変わらなければいけないと言われ続けてきましたから、これから百貨店がどう変わっていくか、私も期待感をもって見ています。一部では「百貨店はオワコン」という受け取られ方もしているようですが、営業利益を見れば、まだまだ普通のアパレルメーカーではとても追いつけないような数字です。

百貨店はセレクトショップのような存在で「編集力」が強みです。歴史的に「百貨店に行けばいいものがある」という店作りをしてきて、信頼もあります。これからの時代、百貨店がもっているような「編集力」は重要になってくると、私は見ています。

ー齊藤氏
海外では、百貨店やチェーンストアでは、オンラインで購入して店舗で受け取るスタイルが主流になっています。例えばイギリスでは、午前0時までに注文すれば翌日昼以降には店舗で受け取ることができるといったサービスが、イギリス全土でほぼ標準的に受けられるようになっています。宅急便が日本のように整備されていないという事情もあり、自分たちの店舗と物流網を使ってこのようなサービスを実現しています。

チェーンストアでは、店舗受取は事務的な作業になっていますが、百貨店の場合は、高級感のある受取りカウンターを設け、その奥に試着できるスペースを作り、必要があれば売り場から店員が来て商品説明をしてくれるなど、様々な顧客満足度を上げる施策もとられています。

質疑応答

Q.今後は、ブーム(トレンド)のようなものはなくなるのでしょうか?


ー齊藤氏
全身のコーディネートを作るようなブームはなくなっていくかもしれませんが、自分の持っているアイテムに対して、どのようなものを毎シーズン買い足していけばいいかという提案は、必要になると思います。トレンドというのは、新しく取り入れるべき色や柄なので、「皆さんがもっているアイテムや着回しに、こんなふうに取り入れるといいですよ」という提案になっていくのではないかと思います。

ー川添氏
もともとアパレル業界は「情報格差」で成り立っていました。パリコレで発表されたものが半年後にリリースされ、アパレル各社はそれを参考に商品を作り、その中でトレンドが生まれる、という流れでした。ところが今は、パリコレはネット中継、ZARAのようにコレクションを2週間後には生産する能力をもっているところまで出てきています。「情報格差」がなくなり、ブームを作ることは難しくなっていると思います。

一方で、企業側が意図していない形で、SNSでブームが起こることもあります。ユーザー側がブームを作るということも、引き続き起こると思います。

Q.返品された商品は、他のお客さんにわたるのですか?(コロナ禍で誰かが一度着た商品が回ってくるのは少し不安を感じます。)


ー川添氏
コロナ禍で各社がどのような対応をとっているかはわかりません。通常は販売できる「A品」と不良がある「B品」を分けていますが、「A品」は返品があった場合、引き続き販売されています。この問題は今後、考えていかなければならないことですね。

Q.コロナ禍でできた大量の在庫はどうなるのでしょうか?


ー齊藤氏
今シーズンに値下げして売り切ってしまうもの、アウトレットにいくもの、オンラインで販売を継続するもの、翌シーズンに転用するものなど、そういった分類に各社取り組んでいると思います。ここ最近は、トレンディブームというよりベーシックブームですから、比較的来年への転用がしやすい時流の中にはあったような気はします。ただ、仕入れ調整などが起こっているでしょうから、ものづくりや産業の現場には影響が出ているかもしれません。


川添隆さん
ECエバンジェリスト

川添さんのコピー

メガネスーパーなどのアイケア企業を束ねる株式会社ビジョナリーホールディングスの執行役員を務めながら、「ECエバンジェリスト」として活躍中。アパレル関連企業2社を経験後、クレッジでEC事業の責任者として売上を2年で約2倍、LINE@の成功を収める。その後、メガネスーパーでEC事業、オムニチャネル推進、デジタルに関わるすべてを統括。7年弱でEC関与売上を7倍に、自社ECの月間受注を13倍に拡大させる。O2O・オムニチャネル推進を図る。2018年よりビジョナリーホールディングス 執行役員。また、2017年にエバンを設立し、複数企業のアドバイザーを務める。日経COMEMOキーオピニオンリーダーとして発信中。

齊藤孝浩さん
ディマンドワークス代表/ファッション専門店の在庫最適化コンサルタント

斎藤さん

総合商社でアパレル生産、欧州ブランド日本法人で輸入卸、アパレル専門店で小売販売、商品管理からチェーンストア経営を経験。各社在職中に在庫過多に苦労した実体験をもとにアパレル・靴・服飾雑貨を販売するファッション専門店の在庫最適化のノウハウを体系化して2004年に独立。多くの新興・成長中ファッションチェーンの在庫最適化と人財育成を支援する傍ら、国内外のファッション流通を取り巻く環境や企業のビジネス構造をわかりやすく解説する専門家としても活動中。IFIビジネススクール講師として複数の大学講座のファッションビジネス論にも登壇する。著書に「ユニクロ対ZARA」、「アパレル・サバイバル」(共に日本経済新聞出版社)がある。

大岩佐和子
日本経済新聞 編集委員

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1996年入社し、流通業の取材を5年間した後、地方行政の担当に。2013年から再び流通業を取材。MJデスクを経て、2018年4月より編集委員兼論説委員。

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